「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0917

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 …これから、ホント、どうしよう。
 わかっていたことだったが、空港に来たからといって、お金があるわけでもなく、アテがあるわけでもない。
 いきなり日本に戻れるはずないのだから、無意味なことなのはつくしにもわかっていた。
 それ以前に、司の下を逃げ出したからといって、何をどうすることもできはしないことは初めからわかっていたのだ。
 それでもあのままあの屋敷に居続けて、司と共にいることがどうにも居た堪れなかった。
 多分話せばわかってくれる。
 そんな気持ちもないわけではなかった。
 しかし、そう思う心の奥底で、一刻も早く逃げ出さなければならないという不可思議な焦燥感に煽られて、こんなところへとやって来てしまったのだ。
 フラフラと空港のエントランスから抜け出して、トボトボと歩き出す。
 車が途中通り抜けたビル街とはまるで違って、寂れた感じは、空港の巨大な壮麗さとはずいぶんなギャップだ。
 いくつかホテルらしい建物はあるが、観光客が買い物をするような店らしいはなく、いくつか見当たる屋台から流れてくる匂いにつくしは鼻をクンと鳴らした。
 「そういえば、なんかお腹空いたかも」
 それほど早い時間帯というわけではなかったが、寝たい時に寝て起きたい時に起きる、そんな怠惰な生活が病院を退院してからの彼女の毎日で、食事もそれにともなって不規則だ。
 司が起き出して来ていないこともあって、今朝は朝食をまだ食べていなかった。
 司がいなければ、彼女の毎日はほとんど一日中をボウッとして過ごす。
 まともな思考能力が戻っていて、何かをしたい、目的がある生活を取り戻したいと思うこともあったけれど、彼女の失われてしまったという記憶と同様、たいてい彼女の思考もどこかボンヤリとした薄靄に包まれがちだった。
 つくしに割り当てられたメイドや護衛たちは日本語を理解しているようだったが、用もないのに彼女に話しかけてくるような人間は誰もいなかったから、司がいなければ誰とも会話することなく日々が過ぎてゆく。
 その代わりに記憶を失ってしまって自分が誰だかわからない苦悩や悲嘆もどこか遠かった。
 最初はあんなに何もかもが怖くて、誰もが恐ろしくてしかたがなかったのに、今はほとんどのことがどうでもよく、司がいる時だけが、彼女の人間としての感情がまともに動く唯一の時間で、不思議に司がいる時だけいろいろなことを思い浮かんでは、こんなふうに突飛なことをしてしまったりもする。 
 …あの人がいないのに、こんなふうに何かを考えたりするのって初めてかも。
 困っていることすらどこかワクワクとして、見るもの聞くものすべてが物珍しい。
 もちろん知らない土地で、知らない人々の中一人流離う恐ろしさや心細さもあったけれど、今はそんな孤独よりもあの息の詰まりそうな屋敷や司から逃れられた解放感の方が大きかった。
 ♪゜・*:.。. .。.:*・♪~
 「………あ」
 懐から聞こえた携帯電話の音に気がついた。
 バックから携帯電話を取り出し、画面を確認すれば案の定、司からの着信。
 「…………」
 逡巡したのはホンのわずか。
 グッと電源ボタンを長押しして、電源を落として再びバッグに仕舞いこむ。
 相変わらず何処へ行けばいいというアテもなく、目的もなかったけれど、こうしてアテどもなくどこまでも行けるところまで歩いてゆくのも悪くないかもしれない。
 今の彼女に、それでどうなってしまうのかという実感は乏しかった。
 それでも、
 ぐ~、
鳴ってしまった音に思わずお腹を抑える。
 「やっぱりお腹空いた」
 こうやって空腹を感じるのも本当に久しぶりかもしれなかった。
 ドンッ。
 またもや誰かに後ろから追突されて、つくしはつんのめって思いっきり地べたへと転倒した。
 が―――、
 「あっ!」
転倒したはずみに手から離れて転がったバッグを、拾われ…そのバッグを拾った少年がチラリとだけ彼女を見下ろし、バッグを持ったまま駆け出した。




*****




 トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル、プッ。
 何回かのコールを数えただけで、かけた回線を切られて、その後は何度かけ直しても一向に繋がらない。
 電源が入っていない旨を伝えるメッセージに、司は危うく電話を床下へと叩きつける衝動をなんとか堪え、その腹立ちを近くの壁へと向けて拳を叩きつけた。 
 ガッツ、ミシッ。
 「クソッ」
 つくしが自分で屋敷を抜け出したことはほとんど十中八九間違いがない。
 今も赤の他人が彼からの通話を切ったという可能性もなくはないが、それよりもつくし自身が彼から連絡が入ったとわかっていて、その連絡を断ったと考える方が容易だった。
 それでも、よからぬ人間に連れ出された可能性も0ではない。
 グッと手の中の携帯電話を握り締め、背後に揃った人員へと顎をしゃくって、用意させたリムジンへと向かう。
 お仕着せの運転手が後部座席のドアを開け一礼する横を通り抜け、車の入口を潜る為に頭を下げようとした、その瞬間、
 「…司様」
 「………」
 いつの間に玄関へと出てきていたのか、伯父の第一秘書が彼を呼び止めた。
 「どちらへ?」
 チラリと振り返っただけで、そのまま無視して車に乗り込もうとした司を再び今度は若い女の声が呼び止めた。
 「待って!今日は私のパートナーとしてパーティに出席するように、伯父様から言いつけられているでしょっ!?」
 「………まだ時間あんだろ。第一、お前のパートナーになるなんて承知してねぇよ。たしかにパーティに出席することは承諾したが、俺ピンでもかまわねぇつーから、承知しただけのことで、そうじゃなきゃ、牧野を連れてゆくさ」
 「そん………」
 皆まで聞かずにさっさと車へと乗り込む。
 司の後に続き、ダークスーツ姿の男女合わせて7人も乗り込んでくる。
 それぞれに耳にイヤホンを装着し、司の前後左右を固めてはいるが、微妙に二つに分かれて緊張感が滲む。
 「……我々には我々の警備計画があります。それを他家の人間と共同にあたるなど、イレギュラーすぎて逆に警備に穴が開く可能性がありますよ」
 司の左隣に陣取った男が途端に口を開き抗議する。
 しかし、答えたのは司ではなく、司の右手、後から入ってきた女性の方だった。
 「非常事態にマニュアルなどありえませんわ。それをイレギュラーな要素が入ったからどうのと、いかにあなた方の警備計画がマニュアル主義のスタンダードなものかわかるというものですね。もし、私たちが入ることで主人の安全を確保できないというのなら、あなた方はお引き取りください。私たちだけで十分ですから」
 「なにをっ!」
 女の一言で、言われた方のチームが気色ばみ、一気に車内に緊張が走る。
 しかし、中央の司は泰然自若にソファに沈み込み、先ほどの激昂が嘘のように静まっていた。
 両手を組んだまま瞑っていた目を開き、眼光鋭く周囲を見回し、ニヤリと笑う。
 「お前らが得意としてるのは弁舌じゃねぇだろ?お前らの言ってることがホントウかどうかは、口じゃなくって行動で示せ」
 けっして威嚇するような激しい口調ではなかったが、海千山千の猛者たちをピリリとさせる力がある声音。
 とても17、18才の少年が持ち得ぬような威厳と迫力に、浮き足立っていた護衛たちにも違う緊張が戻ってくる。
 しかし、その中にどこか異質の…自分を観察するような視線が混じっていて、それは以前、雇われ護衛にらしくないどこか危険なものを孕む荒んだ鋭い眼光を持つ男で、……たしか高峰と名乗ったか。
 目があった男の顔を司は眇めた目で見据える。
 相手もジッと彼から視線を外さず、睨み合う。
 しかし、やはり先に視線を外したのは男の方だった。
 「お前……」
 ブー、ブーという携帯電話の音が司の言葉を遮った。
 「……はい、エドワースです」
 SPの一人が手で断りを入れ、携帯電話に出るのを固唾を飲んで見守る。
 「司様、今、先行して発信機を追っていたジョブソンのチームが、つくし様のバッグを発見したそうです」




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