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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う②

愛してる、そばにいて0916

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 その車―――リムジンタクシーの後部座席に、彼女が乗り込んだのは、ほとんど行き当たりばったりの衝動だった。
 屋敷の客なのだろう。
 数人の男女が車を降りて、その客たちの荷物を運転手が降ろして屋敷の玄関まで運ぶ隙をついた。
 いわゆるストレッジ・リモと言われる長大な車体の後ろは広々としていて、体を折って窓から姿を覗かせさえしなければ、外から気づかれる心配はなさそうだ。
 …見つかったらどうしよ。あ、お金。
 手荷物は、司に買ってもらったハンドバックと携帯電話、それにちょっとした小物類と化粧品。
 昨日、病院へ診察に出かける時に持っていった時のままだ。
 必要がなかったから、彼女は財布も持っていなかった。
 それ以前に、財布に入れるべき金銭の一切を持ってないのだから、たとえ財布などあっても無意味な話だったが。
 とりあえず無銭乗車がバレてしまって、車外へと叩き出されてしまうにしても、この屋敷の敷地外から出ることができれば、あとは人に道を聞きながらでもどうにかできるかもしれない。 
 車の床に這い蹲って、つくしはドキドキする胸を押さえてその瞬間を待つ。 
 『……yo………!!』
 途切れ途切れに英語の話し声が聞こえて、間もなく……屋敷の玄関先から戻ってきた運転手が車の運転席へと乗り込んできた。
 バタン、バンッ。
 ……………。
 ブルルルルルッ。
 しばらくの間が空いて、車が走り出した。
 …ハァ。見つからなかった。




*****




 前部席の運転手に見つからないようにするために床に伏せたままだったから、いまどこらへんを走っていて、どこへ向かっているのかつくしには検討もつかなかった。

 もっともたとえ外の景色が見えたとしても、NYをよく知らない彼女にはそこがどこかを判断するすべもなかっただろうけれど。
 遥か遠くの運転席との間のパーティションは取り払われていたが、さすがに距離があったから、運転手の様子は窺い知ることはできなかったけれど、それでも前部席のルームミラーからはこちらは一目瞭然に違いない。
 音楽が流れ出した。
 衣擦れの音や息遣いさえ聞こえて、運転手に気づかれてしまうのではないかとストレスに感じていたつくしにとっては好都合だが、どうやら、客の送迎か客待ちか、そうした移動の間の余暇を運転手は音楽を聞いて過ごすつもりらしい。
 …あたし、ここには今まで住んだこと、ないんだよね?
 英語が喋れないことからして、間違いなさそうだ。
 同じ姿勢でいることにそろそろ疲れが出てきている。
 細長い車内の床はベッドのように長く、多少埃臭いことを除けば、それほど無理な姿勢いる必要がなかったから幸いだった。
 外から聞こえるざわめきが、次第に大きく騒がしくなってきたことから、どうやら閑静な高級住宅地から大都会の真ん中へとやってきたことがわかった。
 すぐ真横に、何かの広告で見たような二階建てバスが並び、車内を翳らせる。
 顔を上げたつくしの目に色鮮やかでカラフルな看板が映った。
 …うわ。本当に、外国に来たんだ。
 司と二人、並んで眺めた車の窓からの景色も日本のものとは違ったけれど、彼女がイメージしていた世界の中心地ザ・アメリカというよりは、世田谷にあった道明寺邸の周囲や東京のビルの立ち並ぶ町並みとよく似ていて、あまり実感として湧いていなかったのかもしれなかった。
 キョロキョロと頭だけを動かして、頭上の窓から見える精一杯の範囲の景色を観察する。
 …バス以外は、ビルばっかであんまりよくわかんないや。
 たぶん彼女の生まれ育ったという東京でも、似たようなバスが運行しているはずなのだが、物珍しく感じる方をみればそれほど大都会の中心地に住んでいたわけではないのかもしれない。
 あるいは、日頃いつでも見れるからこそ、特に気にしたことがないだけかもしれなかったが。
 キィ~。
 何度目の停止と発進だったか、長い長い車体が揺れて、どうやら目的地についたようで運転手が車を停めた。
 様子を窺い、運転手が戻ってくるのをドキドキして待ち構える。
 もうここで見つかってしまっても、悪くしてもここに放りだされるだけで、屋敷に連れ戻されるということはないだろう。
 それとも、まさか警察に連れていかれるなどということもあるのだろうか。
 …そうだ。あたし、無銭乗車だ。
 とたん、胸のドキドキがさらに大きくなった。
 とてもじゃないが、自分は悪党にはなれないらしい。
 どれくらいの時間が過ぎたのか、一向に運転手が戻ってこない気配に、ソロソロと体を起こして、そっと窓の外を覗いた。
 「ふわぁ~、空港だぁ」
 キョロキョロと周囲を見回して、車の運転手の姿らしきものがないのを確認する。
 …えっと、ロック。
 たぶん屋敷の車とそう変わらないはずだと、検討をつけたところにロックを発見して、急いで開けて外へと飛び出す。
 とたん、
 ワ――ッ、
 ガヤガヤ、
 ガタン、ゴンッ、
 ‘hi!……et………nn!?HaHaHa!!’
‘………o prob………?!……i…'
 音、音、音。
 人々が行き交う雑踏の音や、さまざまな国の人々の会話する声、物と物とがぶつかり合う音などが、一気に押し寄せてくる。
 ドンッ。
 「きゃっ」
 背後からやってきた人にぶつかられ、突き倒されてしまった。 
 ‘I'm sorry. Are you ok?(※ごめんなさい、大丈夫ですか?)
 慌ててしゃがみこんだビジネスマン風の男性が、心配そうに聞いてくれる。
 だが、つくしは混乱と焦燥の極みにいた。
 『I'm sorry.』という言葉には彼女も聞き覚えがあって、どうやら自分を突き倒してしまったことを相手が謝ってくれているらしいことはわかったのだが、それにどう返答していいのか、咄嗟に言葉に詰まってしまったのだ。
 …今の英語?英語だよね。あ~、大丈夫っていうのは、I'm fine,thank you.でいいんだっけ?いやいやいや、たしかこれは挨拶に対して返す言葉だから。
 「え、えっとぉ…その、…オ、OK!、ノ、ノープロブレムです!」
 どうにかこうにかひねり出した答えは、カタコトもカタコト、ほとんど単語だったが、それでも一応は相手も言いたいことはわかってくれたのだろう。
 なんとか立ち上がった彼女に生ぬるい笑顔を向け、会釈して立ち去ってゆく。
 …あ、ここがどこの空港なのか聞けば良かった。
 後の祭りだ。
 しかし、聞いたところで、この先どうすればいいのだろう。
 司の部屋を飛び出したことも衝動なら、屋敷を出てタクシーに乗り込んでしまったことも衝動。
 そして、ここを訪れたのはホンの偶然だったのだから、つくしにこれといった考えもアテもあるはずもない。
 …この後、どうしよう。




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