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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0912

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 このままレストランで食事を続けても、どうやらつくしの食欲は戻らないと見て取ったらしい、コースが全て終わらないうちに司は席を立ってしまった。
 当然つくしは恐縮したが、司はぶっきらぼうな口調で、しかし、それでも優しく彼女の背を撫で労ってくれた。
 「いいよ、別にここで飯食わなきゃ食えねぇもんでもなし、屋敷に戻ってなんか適当に作らせようぜ?」
 「……でも」
 せっかく気晴らしだと連れ出してくれたデートを台無しにしてしまった。
 つくしもおしゃれをさせてもらうことは嫌いではない。
 けれど、綺麗に着飾られこれまで連れてゆかれたパーティなどよりも、こうして二人で外出する方がよほど気晴らしになったし楽しかった。
 けれど―――、
 ―――性生活を再開しても構いません。
 まるで夢の中の世界を漂っているようだ、そんな風な感覚だった彼女を、突如として現実に引き戻した言葉。
 自分が妊娠していた。
 目の前の男が婚約者で、その相手なのだと、そんな信じられない現実がいきなり目の前に差し迫ったような衝撃。
 ―――性生活を。
 …無理。
 病院からどこをどう歩いて、車に乗って、レストランにまで連れていかれたのかさえ、つくしは上の空で、気がついたら席についていて食事をしていたという感じだった。
 それでも気の張る雰囲気の高級レストランの佇まいに、気を引き締め食事の臨んだ。  だが、一応は司からそれなりに食事の作法を習ったりもしていたが、専門の教師についたわけでもなく、ホンの数回の付け焼刃で様になるはずもない。
 屋敷内で司と二人っきりでの食事では問題にはならないことも、衆人環視の中ではそうもいかなかった。
 もちろん、誰も彼もが自分たちを見ているなどとは、自意識過剰、被害妄想のようなものだったかもしれないけれど。
 …ううん、みんな見ていた。
 司を。
 そして、その司が連れている自分を誰もが密かに注目していた。
 パーティでのような意地悪い視線ではなかったが、それでも値踏みするような視線に平気でいられるわけもない。
 ただでさえ緊張を強いられるような場所で、つくしは自分が何を食べているのかさえわからない状態で、一刻も早く食事を終えその場から立ち去ることばかりを考えていた。
 早く帰りたい、そればかりで、とても食事を楽しむなどという気持ちとは程遠かった。
 そんな気持ちが、司にも悟られてしまったのだろう。
 あげくにあの失態だ。
 それなのに、司は怒るでもなく不機嫌になるでもなく、逆に労ってくれた。
 …恥をかかせたのに。
 「お前も気分じゃねぇみたいだし、屋敷に帰ることにするけど、……それともどっか見て回りたいとことか、欲しいものあるか?」
 司の腕に絡ませられていた手の甲をポンポンと優しく叩かれ、尋ねられる。
 欲しいもの。
 何もかも物に溢れた生活。
 彼女が自ら望まずとも雨霰と降り注ぐようにして与えられるのだ。
 あえて欲しいものなど、思いつかなかった。
 けれど、司の期待するような目が、何かを彼女に言って欲しがっているのを感じ取って、一応は悩むフリで周囲を見回す。
 「………あ」
 自分たちを待つリムジンのずっと向こう、道路の対向側のカフェの看板に目が止まる。
 「カフェでコーヒーでも飲んでくか?」
 敏感に彼女の視線の先を察して、司が声をかけてくれるが、つくしは首を横に振った。
 「ううん、大丈夫」
 「ケーキかなんか食いてぇんじゃねぇの?さっきのレストランではデザート、食い損ねたし」
 カフェの看板は、日本のものとはだいぶ違うが、誕生日のケーキをモチーフにした絵が描かれていた。
 「伯父貴の屋敷のパティシエもケーキくらいは作れんだろうけど、…お前、あそこのは口に合わないのか、あんまり食いたがらねぇよな?」
 そういうわけではなかった。
 ただ、食べ物全般にそれほど執着がないというか、滅多に食べたいという気持ちになれないというだけで。
 …美味しいってちゃんと感じるのに。
 「……以前のお前は、すげぇ気持ちいいくらいにバクバク食って、何食っても美味そうにしてたよ」
 司の苦しげな声音に顔を上げれば、その声音と同じように苦しげな顔に出会った。
 どうしてこの目の前の男が、こうして時々苦しげな顔で自分を見るのかがわからない。
 熱に浮かされたような熱烈な眼差しを注いでくるかと思えば、どこか疚しげな、彼には似合わない顔で自分を見る意味がつくしには理解できなかった。
 …あたしが記憶喪失になったから?
 だが、それは彼のせいではない、事故だと聞いている。
 雨の日に、足を滑らせて階段を転落した。
 そして、転落したショックで記憶と―――お腹の赤ちゃんを失ったのだ。
 しかも、いかにも平気そうに振舞ってはいるが、転落した彼女を庇ったせいで司自身も肋骨を骨折するという大怪我を負っていた。
 むしろ、責められるべきなのはつくしなのではないだろうか?
 「店入るのがイヤなら、ケーキ買って行こうぜ?」
 「……誕生日」
 「は?」
 何か自分の為にしたいという彼の気持ちが痛いくらいにわかったから、だから言うつもりはなかった言葉をポツリと呟く。
 拘っているつもりはなかったけれど、やっぱり少しは寂しかったから。
 彼が祝ってくれないのなら、他の誰も祝ってなどくれないのだ。
 「お誕生日、ケーキを食べなかったなって思っただけ」
 「…誕生日?」
 「うん」
 怪訝な顔の司に、つくしも首を傾げる。
 「先月の28日が、あたしの誕生日だったんでしょ?17歳になったんだよね?」
 司の顔が驚愕に染まった。




*****




 ザアアアアア―――ァッ。キュッ。
 シャワーのコックを捻って、顔に張り付いた髪を両手でかきあげる。
 「はぁ~」
 さっきから、口を開けばため息ばかり。
 こうもため息が出るなど、彼のこれまでの人生でほとんどなかったことだ。
 彼女と出逢って、司の人生にたくさんの初めてが出来た。
 それが良いことでも悪いことでも、まるで生きたまま棺桶に入っているかのように、刺激のない彼の人生に吹き荒れた鮮烈な経験の数々。
 …しっかし、ホント、マジかよ。
 このセリフも今日何度目になるか、もはやわからない。
 結局、つくしとのデート?の締めくくりでは、ケーキを買うこともなく帰宅した。
 つくしが望まなかったのだ。
 『あんまり食べたい気がしないし、……なんかちょっと疲れちゃったから』
 そう言われてしまえば、別段目の前にあった店がNYで名だたる有名店というわけでもないのに、無理をして立ち寄る意義など見いだせはしなかったし、本人がイヤだというのを無理に連れてゆく愚をもう犯す気にはなかったから。
 婚約者、恋人が聞いて呆れる。
 自分で自分の欺瞞を嘲笑う。
 …クソッ、まさか、あいつの誕生日も知らなかったなんてな。




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女の子

こ茶子さん、こんばんは♪
ここ数日のお話はどれも、読み進むと涙ぐみそうです。
誕生日にケーキを食べることが楽しみで幸せだった、16歳の女の子だったのに・・・。
司の愛はわかる。
だけど、この期に及んでも、奪われるばかりのつくしが かわいそうでたまりません。
これからの10年の司の愛は、10年後には生きないけれど(考えてみれば、奪われ続けるのだから当然ですか)、20年後につながることを信じてますね。
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