「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0911

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 医者の診察の後、司はつくしを連れ、街へ繰り出していた。
 もちろん伯父のつけたSPも同伴してのこと。
 いかにも身なりの良い風体の彼らが狙われやすいということもあったが、腕には覚えのある司だ。
 よほど治安の悪いところへでも迷い込まない限り自分一人だったら、降りかかった火の粉くらい多少のことは切り抜けられる。
 しかし、流産の影響に関してはほぼ回復しているとはいえ、まだ体力的には本調子ではないつくしを連れていることもあったし、……万が一、母親の手の者に拉致され連れ戻される可能性を危惧してのことでもある。
 すでに、ニューヨーク社交界には何度となく顔を出し、自分とつくしの存在を周囲にあきらかにしてしまってもいた。
 …近いうちに接触してくるはずだ。
 いまのところ、その接触を避けているのは司の方ではあるが。
 姉の椿にすらまだ連絡をとってはいなかった。
 落ち着かなげに周囲へと視線をやって、自分の目の前の料理と四苦八苦しながら格闘しているつくしの一生懸命な様にふっと笑みが誘われる。
 「やりずらそうだな?切ってやるから、それ貸せよ?」
 つくしに無理をさせるつもりはなかったが、彼女はもともと向上心が高く、司の不在の一人の時間を持て余しているようだった。
 それで…というわけでもないが、テーブルマナーや英会話など、少しづつ学ばせていた。
 とは言っても、まだ他人に対する拒絶感が強く、怖気づいている彼女に見知らぬ家庭教師を付けることもできず、テーブルマナーや礼儀作法の基本は司自身が、英会話はさすがに司が教えることはできないので、彼にとっても必要なことだったから伯父に専属の家庭教師を用意させ、司が必ず同席した場で教えさせていた。
 もっともつくしの場合は体調というよりも、記憶喪失の影響なのか、それとも一度は壊れかけてしまった心が軋んでしまっているのか、常に精神状態が不安定で、調子がいい時にはかなり普通に近かったが、どうかするとシャッツが死んだ直後のように、あきらかにおかしい時もあったから、無理をさせることができなかった。
 しかし、いつまでもそのままの状態でいられるはずもない。
 …奴らに弱味は見せらんねぇ。
 極力、使用人たちにもつくしに関わらないようにさせていたが、彼らとて目や耳がないわけではないのだ。
 つくしの異常にまったく気がついていないとは思えなかったが、今のところは司を確保しておくコマとしての利用価値を認めているのだろう、伯父も何も言ってきてはしないが、さすがに伯父としても将来の道明寺総帥夫人に、精神的に病んでいる女をつけることは躊躇するだろう。
 あるいは、また別の皮算用を脳内で弾いているか。
 …どっち道、奴らが味方なわけでもねぇんだから、関係ねぇか。
 いずれはつくしをそれ相応の医師に診せる必要はあるだろう。
 しかし、司にしてもいつまでも暇なわけではなく、本気で両親を敵に回し、油断のならない伯父を御すつもりならば、自身も学び動かなければならないのだ。
 そうであれば、つくしを一人っきりにしてしまわなければならない時間もこの先、ずっと増えるだろう。
 …どうするか。
 「牧野?」
 「…あ、大丈夫」 
 「別に急ぐ必要はねぇけど、せっかくだから温かいうちに食えた方がいいだろ?」
 言われて、自分でもかなり手間取っている自覚があったのだろう。
 つくしは少し迷ったようだが、素直に頷き、手に持っていたナイフとフォークを置き皿の上に置いて、司へと押し出した。
 だが、つくしが皿を押し出した拍子に、皿の上に乗せられていたナイフがテーブルに飾られていた花瓶に触れて、危うく転がり落ちかける。
 咄嗟に、司が手を伸ばしてナイフが転がり落ちるのを防ぐが、その手がやはりナイフを抑えようと手を伸ばしていたつくしの手に触れてしまった。
 「あっ」
 「……………」
 パッとつくしが手を引っ込めたことで、彼女の肘がセットされたまままだ未使用だったカトラリーに触れ、そちらをテーブルの下へと落としてしまう。
 ガシャンッ、ガッ。
 音楽や人々のざわめきに誤魔化されて、それほど大きな音を立ててしまったわけではなかったが、つくしの顔が一気に真っ赤に染まって、焦ったように周囲を見回す。
 客たちの誰かと目が合ってしまったようで、つくしの顔が泣きそうに歪んでギュッと目を閉じ、膝に両手を置き俯いてしまう。
 「……ハァ」
 「ごめんなさい」
 客たち以上に彼らを注目していたギャルソン※へと手を挙げ、合図を送る。
 「お客様、なにかございますでしょうか?」
 「悪いが、ナイフを落としてしまった。代わりを持ってきてくれないか?」
 「かしこまりました」
 さりげなく足元のナイフを拾って、一礼したギャルソンが立ち去ってゆく。
 さすがに一流フレンチ・レストランの給仕係だ。
 日本語も多少通じる人間もいて、メニューもフランス語だったから、特に司に不便はなかった。
 …俺もさっさと英語を憶えちまわないと、まずいよな。
 そして、今目の前で萎縮して縮こまっている彼女のことも。
 「ナイフを落としたくらいで、一々そんな顔すんなよ?」
 すぐにギャルソンが戻ってきて、つくしへと丁寧な口調と笑顔で代わりのナイフを渡すのに、つくしもいくらか憶えたカタコトの英語で応じている。
 彼女がナイフを落としたのは彼女がガサツだからでも、礼儀作法がまだ身についていないからでもなかった。
 彼を意識している。
 先ほど診察した医師の言葉が、まだ彼女に動揺を与え、必要以上に司を意識していることが原因なのだろう、きっと。
 彼女の保護者になりたいわけではないのだから、ある意味、意識されることは正しいことで悪いことではないのかもしれない。
 けれど、司はそのタイミングに迷ってもいたから、正直、今の段階で彼女に自分が‘男’であることを思い出させてしまったことを良かったのかどうか悩んでもいた。
 …今度は失敗するわけにはいかねぇんだ。
 つくしの診察の結果―――流産後の体調の回復は良好で、当然いまだそれ以前の衰弱の影響は残っていたし、記憶喪失に関してはまるで改善の兆しはなかったけれど、婦人科的診断に限って言えば、もう通院する必要はないとのことだ。
 出血も止まり、下腹部痛などの不快症状もなくなっていた。
 もちろん、だからといって無理をして良いわけではなかったが…。
 だが、医師が最後に告げた言葉が、つくしを挙動不審にさせてしまっていた。
 『完全流産ですし出血も止まっていますから、特に今後の妊娠については問題ありません※し、性生活も再開しても構いませんが、まだ体調的に回復していませんから無理は厳禁です』
 これまでも流産をしたことは説明していたのだから…つまりは、司とそういう交渉を持っていたということはある程度わかっていたのだろうが、それでもなるべくそうした気配を匂わせないように司は注意してきた。
 だから、実感としてはなかったのに違いない。
 医師のその言葉を聞いたとたん、つくしの態度が再び、生死の境から復帰した時のように、司に対して拒絶的になってしまっていた。
 拒絶的…というのともまた違うのかもしれなかったが、あきらかに‘性生活の再開’という医師の言葉に動揺しているのが、司にも察せられた。
 「本当にごめんなさい」
 「俺は何も怒っちゃいねぇよ。そんな顔なんか見たくもねぇし、些細なことで申し訳なく思って俺に謝るくらいなら、笑えよ?」
 司の言葉に俯いて、唇を舐め、何度も顔の表情を変えようとしている彼女が、笑おうと努力しているのがわかった。
 が、
 「やっぱ、笑うな」
 「…………え?」
 司が大きく息を吐き出す。
 「悪い……無理に笑わせようって言うんじゃねぇんだ。そういう意味じゃない。ただ、本当に、お前が嬉しいとか楽しいって思って笑ってくれた方がいいって意味だったんだよ。無理なんかして笑わなくていい。……マジ、ごめんな?」
 ―――ずっと。
 司は、今度こそ自分へと向けられた、彼女の本物の笑顔が見たかった。




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※流産の状況や、母体の状態にもよるが、流産後最初の生理の後の妊娠を推奨する病院が多いようです。海外も一応調べましたが、ケースバイケースは同様で、また病院によっては生理前すぐの妊娠でもOKという病院や、逆に三ヶ月、半年待てという病院もあり、最近では流産後は妊娠しやすいことから、すぐの妊娠を推奨している病院もあるらしい(不妊治療など)。
このお話のつくしの設定は完全流産ではあるものの、週数がかなり行っていたり、いろいろ要素があり、もうなにがなにやら医学的にわからないので、ここも与太がほとんどなんちゃって医学だとご了承くださいm_ _m
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