「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0910

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 ノック一回、ドアを開けてすぐに、居間のソファに腰掛けていたつくしが立ち上がって、駆け寄ってくる。
 さすがに抱きついてくるようなことはなかったが、いかにも心細そうな顔で彼を見上げ、
 「お、お帰りなさい」
出迎えてくれた。
 胸に広がる喜び。
 不安にさせたくない、少しでも心穏やかに身体を養生させたいという想いとは裏腹な気持ち。
 …牧野が俺だけを見てる。
 他の誰でもなく、司だけを見て、彼を頼って、ホンの数時間、彼が不在だっただけでこんなにも不安そうな顔で彼が帰って来るのを待ち望んでいたのだという思いが、司に無情の幸福と庇護欲を感じさせていた。
 「……あの?」
 「おう、……ただいま」
 ポンと小さく頭を撫で、腰を抱く。
 ビクッと身体を震わせ硬くなる彼女を許容して、そのままゆったりとした歩みで彼女を再びソファへと導いた。
 「本…読んでたのか?」
 コクコクと頷くつくしの顔色を確認しながら、それほど興味があったわけではないが、彼女が読んでいたという本を投げ出されていた床下から取り上げ、背表紙を確認する。
 「……マザーグースか※1」
 「英語を勉強しようと思って」
 「ああ、なるほど。…でも、こんなん読むくらいなら、映画を字幕なしで見た方がいいんじゃねぇの?」
 ちょうど開いたページが、日本でもよく知られている『駒鳥のお葬式』の唄の一節で、司にしても英語は苦手だったが、さすがに子供の頃から何人もの家庭教師たちに教育され、子守唄がわりに聞かされた文章には聞き覚えや見覚えがある。
 「道明寺…さん?」
 つい本に見入ってしまっていたらしい。
 怪訝に名前を呼びかけられ、司が我に返る。
 「……いや、もう少し体調が落ち着いて、お前がこっちの生活にも慣れたら家庭教師でもつけてやるから、そんなに焦って根を詰めるなよ?」
 反論するつもりではないようだが、それでも彼女の俯いた顔が、同意していない。
 彼女が今の生活に少しも馴染めず、身の置き所のなさを感じているのは司も察していた。
 無理矢理に世田谷の屋敷に閉じ込めていた時とは、彼も違う。
 出来うる限り、彼女を観察し、今、彼女が何を感じているのか、どうしたいのか常に司はアンテナを張り巡らしていた。
 …この俺が女の顔色を窺うとはな。
 正直、そんな気持ちもある。
 それでもつくしは木で出来た人形などではない。
 今はほとんど表情にも乏しく感情をあらわにすることは少ないが、彼が話かければ少しづつでも言葉数が増え、徐々に彼に馴染んできている。
 まだ、自分を好きだとか、愛しているとか感じているわけではなさそうだが、それでも最初のただ戸惑いばかりで、彼に対してもどこか怖がっていた彼女とは違い、少なくても他の誰よりも頼りにしていることはたしかで、さっきのように彼の不在を心細がるほどに依存されている自覚が有る。
 …もっと、俺に依存しろ。
 自分がいなくては、生きていけないと思い込むほどに。
 いつか、自分自身のことを、司のことを思い出す日が来るのかもしれなかったが、その日を少しでも遅らせて、彼を愛していると思わせてみせる。
 自分への愛情で、かつての罪を赦させて見せると、司はグッと手を握り締めた。
 「どれ、今、どこまで読んでたんだ?」
 「え?」
 「読んでたんだろ?」
 論文や大人向けの教本よりはずっと読みやすいとはいえ、それでも和訳は巻末に纏めて収録されているタイプのものだから、いつから読んでいたのか知らないが、そう読み進んでもいないだろうと、最初の方をパラパラと捲って見せる。
 「あ、そこ!」
 「ああ……ロンドン橋落ちた、か」
 「え?ロンドン橋落ちた?」
 つくしも聞き覚えがあったらしい。
 「ぷっ、知らないで読んでたのかよ?」
 「…だって、わからない構文がいくつもあって」
 小さな子供みたいにムッと寄せられた唇に、視線が吸い寄せられる。
 …すげぇ可愛い。キスしてぇ。
 ふいに脳裏に湧き上がった欲望に、司はギョッと内心で仰け反り、ゴクリと唾を飲み込むことで誤魔化す。
 知られるはずもないが、そんな自分の情動を悟られたのではないかと、恐るおそるつくしを窺うが、本に夢中で当然そんな彼に気が付くはずもない。
 「後ろにCDついてんな。これ、唄なんだから、文章で憶えようとしないで、音楽もあった方がいいんじゃねぇの?」
 「……そうなのかな」
 「ドイツ語とか、フランス語なら、俺が教えてやれるんだけどな」
 …こんなことなら、まともに英語もやっとくんだったか。
 当時ついていた英語教師とウマが合わなかったこともあるが、何よりもアメリカに本拠地を構え、息子の顔を見る為にすら日本に帰国しない両親への反発もあった。
 もちろん、そんなことを自分に認められるような司でもなかったけれど。
 キョトンと驚いた顔で自分を見上げているつくしの顔に、司が首を傾げる。
 「なんだよ?」
 「英語…あんまり得意じゃないんですか?」 
 「おう、こういう童謡みたいなのはなんとなく憶えがあるから読むくらいはできっけど、まったく喋れねぇしまったくダメだな」
 「……そうなんだ」
 まだつくしは釈然としない顔をしている。
 「そんなに不思議か?お前だって、喋れねぇだろ?」
 「それは…そうなんですけど、道明寺さんって…凄く堂々としてるから」
 以前つくしだったら、もっと歯に衣着せぬ言い方をしていただろうが、今の彼女はいつもどこか自信なさげで、司に対しても遠慮がちだった。
 つくしがいまだ彼に心を開いていないのがわかる。
 それは彼への言葉遣いや呼び名からも察せられた。
 それでも以前の彼女は、今のように彼をさん付けで呼んだり、敬語で話したりなどしてはいなかったのに。
 …なんでだよ。
 けっして、以前の彼女のように、司を毛嫌いしている風ではないのに、ますます遠ざかって少しも彼女に近づいた気がしないのは気のせいなのか。
 …焦るな。
 けっして、逸ってはならないと自分を戒める。
 小さく息をついて、
 「なあ?」
 「……はい?」
 「いきなりは無理かもしれねぇけど、……そういう他人行儀なのやめろよ?いつも言ってるだろ?お前は俺の恋人なんだって」
 「………………」
 「敬語もそうだけど、名前も、苗字とかじゃなく、司って呼べよ?」
 戸惑った顔をしたつくしだったが、それでも突っぱねるほどのことではないと思ったのか、素直に呼び変える。
 「……司さん?」
 ただ名前を呼ばれた、それだけのことなのに。
 胸に灯る温かなものはいったいなんなのだろう。
 今の彼ならそれがわかった。
 嬉しさだけではない、……熱い血潮。
 恋とか、愛とか、そんな甘ったるい悦びなのだと。
 「司って呼べ」
 つくしがコクリと頷く。
 「じゃ、そろそろ夕食の時間だろ?飯食ったら、俺も一緒に勉強するから、とりあえず一休憩しろよ?あんまり顔色良くないぞ?」
 ページを閉じ、司は手に持っていた本をコーヒーテーブルの上に投げ出す。
 「……わかった。司」
 「っ!……よしっ」
 司が破顔して、つくしの頭をクシャクシャに撫でる。
 鳥の巣のようになってしまった頭のままでキョトンとして、彼の手を見上げるつくしの上目遣いの顔がまた可愛いいと、司の顔が笑み崩れた。


 
  Who killed Cock Robin?   誰がコマドリを殺したの?
  I, said the Sparrow,      わたしよ、とスズメが言った
  With my bow and arrow,   わたしの弓矢で
  I killed Cock Robin.      コマドリを殺したの。※2



 ―――俺が殺した。俺の狂恋でお前の心を殺した。




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※1 マザーグース…英米を中心に親しまれている英語の伝承童謡の総称。
※2 マザー・グースの1篇『駒鳥のお葬式』の一部。
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