「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0909

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 ピュチュチュチュチュッ、ピュウチュチュチュチュッ。
 どこかで小鳥の囀りの声が聞こえた気がして、つくしは膝に乗せて読んでいた本から顔を上げ、窓の外へと視線を向けた。
 …小鳥?
 昨日も聞こえた鳥の声は、陰鬱なニューヨークの空に吹き払う春の光のような心持ちをつくしに与えた。
 まだまだこれから冬の寒さが厳しくなる季節。
 とてもではないが、春などとは程遠いが、広く豪奢で…けれどこの落ち着かない屋敷で、日本でよく身近にいた雀の鳴き声にも似たその鳥の声は、彼女の胸に郷愁を生む。
 …懐かしいだなんて、何一つ憶えてなんかいないのに。
 自分がどこの誰なのか、どんな人間なのかさえ知らない自分に懐かしむ何かがあるなんてと、一人自嘲した。
 苦しいのに、それをどう表現いたらよいのかわからなくて、わかってもらえるとも思えなかったから、よけいに彼女は口ごもることを憶えた。
 第一誰に訴える?
 ここには彼女の家族と呼べる人は誰一人としていないのだ。
 ‘婚約者’だという少年をいまだ、彼の言うとおりの間柄の人間だなんて思えないのに。
 司は今日、屋敷の主である伯父だという人物に同伴され、会社関連の人に会うとかで朝から留守にしていた。
 一応、つくしは屋敷の一部屋に閉じ込められているわけではなかった。
 けれど屋敷外に外出することは禁止され、建物から出るのにさえ誰かしらの同伴を義務付けられている。
 命令だとわざわざ言われなくても、言葉の通じない人々の中、門前に行くのさえ車がなければ何時間もかかる広大な敷地を一人でどこかへ抜け出すことなどできなかったし、日本人が主だという屋敷だったが、どうやら日本語が通じるのは屋敷内でも上層に位置して、主一家や客を応対する使用人たちの一部のみのようで、とてもではないがそんな彼らに某かを尋ねて、どこかへ行くことなどできるはずもない。
 「退屈だな」
 娯楽道具は与えられている。
 それどころか、望めばなんでも与えられる。
 けれど、ただ一つ与えられないもの、それがおそらく自由なのだ。
 いや、違った。
 彼女が欲しいもの以外の全てと言い変えられるだろうか。
 すでにNYへとやってきて、もう10日あまり。
 限られた使用人たちと司としか接触のない彼女に、ニューヨークに馴染むも馴染まないもなかったが、先日、デートしようとドレスや宝飾品を買い与えられ、まるでおとぎ話や映画の世界のようなパーティへと連れ出された。
 あまりの豪華さ、贅を尽くした壮麗さに圧倒され、司の影で小さくなっていることしかできなかったが、そこが自分の本来の世界ではないことをつくしはすぐに自覚した。
 人々の奇異の視線や、嘲るような笑み、司や司の伯父だという人物の目がないところ交わされるヒソヒソ声での内緒話に登場する名前が、英語のわからない彼女にもなんとなく自分と司のことであり、主に自分に対する良くない噂話であることも理解できた。
 人は不思議に自分への誹謗中傷を敏感に察知できる。
 あるいはもしかしたら、彼女の単なる被害妄想だったのかもしれなかったが、それでも一時的に司が彼女を離れた時に、何気なく彼女と目があったその噂話をしていた貴婦人たちが、ぷっと噴き出して顔を寄せ合い小さな歓声を上げて、クスクス笑いをしては何度も彼女の顔をチラチラと見ていた様に、良い感情を抱けるはずもない。
 ―――場違い。
 そんな言葉が容易に脳裏に浮かんだ。
 司も伯父だという人物にも一応の紹介はされ、態度もそう悪いものではなかったが、いかにも権高そうな初老のその男性の目には、あらかさまな蔑みが浮かび、言葉の端々に彼女への侮りが滲んでいた。
 そして、それはおそらく彼女の気のせいなどではなかったのだ。
 言葉にすることこそしなかったけれど、男の侮蔑に彼女が怖じけて縮こまる度に隣に立つ司がギュッと手を握り締め、男の無礼を眼光鋭く無言に咎めていた。
 少年とはいえ、司の眼光には力がある。
 不愉快そうではあったが、それでもその後は、特につくしに威圧を与えることもなく、あえていえば無視に近かったが、それでも一応の礼節を持って遇された。
 たぶんにつくしへの気遣いではなく、司の意向を慮ったものであることはあきらかだったけれど。
 …イヤなところだった。
 きらびやかななのは上辺だけ。
 それはこの屋敷もそう変わらない。
 唯一彼女がホッとできるのは、この部屋の中だけ。
 だからあえて、この部屋から出る意欲も…必要性も見いだすことはできなかったけれど、こうして司がいない時、たった一人取り残されていると、まるで世界中で自分一人っきりにされてしまったような寂寥と孤独感がドッに苛まれてしまう。
 誰もいい、自分を知っていて、自分のことを嫌っていない誰かと一緒に過ごしたい。
 それだけが彼女の今の望みだった。
 けれど―――、
 今は閉じられたまま、誰一人として中に入ってくる気配のないドアを見る。
 使用人たちも彼女や司の許可がなければ勝手に入ってくることはない。
 …誰かに話かけてみようか。
 彼女や司の世話係だと紹介されたメイドや護衛の何人かは日系人だったり、日本語が通じる人間だとはわかっている。
 しかし過去の歴史が何一つない彼女に、誰かと交流を持つということはいかにもハードルが高く、勇気を出すことが難しかった。
 誰もいない。
 司がいなくては、誰一人として自分を気にかけてくれる人などいないいのだ。 
 その絶対的な恐怖感が、今の彼女を司に依存させていた。
 けっして、司が言うように恋人同士だった頃の感情を、再び彼に対して抱いているわけではなかったけれど。
 パーティ会場で、王者然として堂々と佇み、人々もそれを是として認めて侍っていた美しい男。
 その美しい男の周囲に群がり、媚を売っていた煌びやかで美しい貴婦人たちの姿がつくしの脳裏に思い浮かんだ。
 彼女たちに比べて、いかにも貧相な自分。
 誰が言わなくてもわかっている。
 彼に自分が相応しくなどないことを。
 …それなのに、どうしてあの人はあたしを婚約者だなんて言うの?
 つくしも馬鹿ではない。
 これまでの経緯…どうやらNYへの逃避行は、彼女との結婚を司の身内の誰も認めていないからなのだろうことくらい察していた。
 おそらくあの伯父だという男も本心では、彼女を司の婚約者などとは認めてはいないのだ。
 だが、だからといって、彼女にどうすることができただろう。
 どこにも行くところがない。
 頼れる人がいない。
 …もし、今、あの人に見捨てられてしまったら。
 つくしはブルリと震えた自分の身体を、自分で抱きしめるように両手を回し小さく蹲る。
 ―――トントン。
 ハッ。




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