「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0908

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 「本当は抱きしめて寝たいけど」
 司の打診に逡巡して、けれどとてもではないが抱き合って眠ることなどできないと、つくしが片手を無言でそっと司へと差し出した。
 それだけで司の顔が嬉しそうに綻ぶ。
 美しい人が優しく微笑むと、それだけでなおいっそう美しいものなのだと、彼を見るたびに思う。
 「……じゃあ、寝ようぜ」
 「うん」
 頷く彼女の手の甲へと、司がチュッとキスを落とす。
 「おやすみ」
 「おやすみなさい」
 今度こそ眠れそうだった。
 忘れ去っていた眠気が押し寄せてくる。
 …この人のこと、そんなに嫌いじゃない、かも。
 子供まで作った恋人で婚約者だというのに、そんな妙なことを思う。
 けれど、胸の奥底に凝る‘声’をどうしても無視できなかった。
 昏くドロドロとした感情。
 …ああ、そういえば、おめでとうって言ってくれなかったな。
 もう17才になったはずなのに。
 でもまだ誕生日は丸一日ある。
 明日には言ってくれるだろう、さっきみたいな綺麗な笑顔で…きっと。
 それがつくしの寝入る前の最後の思考だった。




*****




 「伯父貴から?」
 主からだと、朝遅くに目を覚ました司を待ち構えていた執事が伯父からの伝言と、外商の来訪の予定を伝えてきた。
 都落ち寸前とはいえ、さすがに働き盛りの年代の伯父も暇な身の上ではない。
 いくら次期総帥であり、もしかしたら自身の進退のキーマンであるかもしれないにしても、今は一学生にすぎない司にそういつまでもかかずらわっていられはしないということなのだろう。
 伝言を携えた執事が、自分を含め幾人かのメイドやSPたちを紹介する。
 当面、司とつくしの世話係たちだということだったが、世話係兼監視役……場合によっては刺客と言ったところか。
 「……高峰?」
 気怠くソファに腰掛けたまま、名乗る男女を眺めていた司が誰何する。
 「日本人か?」
 「日系3世です。……父は日本人ですが」
 「へぇ?」
 別段珍しいこともない。
 マンハッタンにある本宅にいる使用人たちの中にも幾人も日系人はいたし、世界中に散らばる道明寺家の屋敷の人間にはむしろ日本人よりも、現地採用の人間の方が多く、当然黒人や白人も少なくない。
 司の目を引いた青年は、執事見習いというよりは護衛か警備員だという方が相応しい鋭い眼光と隙のない立ち振る舞いの人物で、どこか司にも通じる端正な面立ちがなければその他人を警戒させずにはいられない不穏で危険な空気の持ち主だ。
 よもや、学生ということもないだろうが、司ともそう年齢が変わらないではないだろうか。
 23~24才、おそらく大学を出たばかり、あるいは使用人たちの中にはいずれグループの中枢を担うべく、大学院まで出たエリートも少なくはなかったから、そうした人間の一人なのかもしれない。
 「あの…この者に何か?」
 心配げに問いかけてくる執事には視線を向けることなく、膝についた顎杖に顎を乗せたまま、遠慮会釈なく日系3世だという高峰という男をジロジロ眺めていた司だったが、やがて肩を竦めただけで、興味を失ってしまう。
 「……いや、別に。で?そのなんたらって政治家主催のチャリティパーティってヤツには、牧野も連れてゆくとして、全部が全部、俺らも出席しなけりゃなんねぇってもんでもないんだろ?」
 「お嬢様に関してはそのように伺っています。しかし、司様にはぜひ、できるだけのご参加を」
 「ふ…ん」
 執事からもたらされた伯父からの伝言は、一ヶ月後の彼の誕生日パーティのこと。
 そのパーティをマンハッタンにある司の自邸ではなく、伯父の屋敷で行わないかということと、そのパーティ上でつくしとの婚約も同時に発表してはどうかと提案されたのだ。
 そこまでは、司にとって意味のある提案ではなかった。
 敵や標的を油断させることは常道だ。
 司がもっとも危惧し、恐れていたのは、この浅薄で愚劣な伯父が自分の手をとるのではなく、彼を手土産として父や楓にもねる材料とすることだった。
 司を油断させ、司をその親へと売り渡す。
 あるいは、つくしとバラバラにしたところを、彼女だけ取り上げ司に対する切り札にするかだ。
 それらがもっとも安全で、楽な彼の活用法であったには違いない。
 しかし、それでは伯父には総帥夫妻の一時の感謝が手に入るのみで、彼にとっての旨みなどほとんどないことを、この伯父が理解し得るか。
 司の賭けはあくまでも自分が将来の道明寺財閥総帥であり、その彼の不興を買うことを誰もが恐れること、これに尽きる。
 彼の両親の支配は永遠のものではない。
 司が彼らの唯一絶対の後継者である限り、それだけで力があるのだ。
 世田谷の使用人たちが、道明寺夫妻の不興を買うことを恐れながらも、司に逆らうことができなかったように。
 伯父との交渉から一夜明けて、司は自分がこの伯父に対して…そして自分の望みの為の戦略的第一歩で勝利を収めたことを確信した。
 賭けに勝ったのだ。
 司の誕生日&婚約パーティに先んじて、アメリカ国内各所で開催されている重要なパーティや社交場へ、つくしを伴っての参加を要請された。
 …あの男も腹を括ったっつーことか。
 司がここアメリカで、伯父の後見の下、姿を現せば両親に行方の知れるところとなり、当然、伯父が矢面に立つことになる。
 しかし、だからといって未成年である司を、たった一ヶ月とはいえ、このまま成人の日まで隠すことなど、とても現実的な話ではない。
 もし、そんなことをすれば誘拐を疑われ、大々的に世間に公表され大捜索ということになれば、たとえ司の意思で邸内に滞在させていたのだとしても一大スキャンダルとなり、伯父も窮地に陥ることになってしまう。
 司が各所に姿を現すことは、自らの所在を明らかにすることであり、……そして、そこにつくしを伴うことは、以前彼が日本で企てたように、彼女を社交界の重要人物たちに印象づけることになるのだ。
 次期道明寺財閥総帥の婚約者―――未来の総帥夫人として。
 そして、当然、つくしをそうした立場として押し上げることに協力するというのが、何のメリットもなく、ただ若い二人の恋路を応援するなどという、善意からくるものであるはずがなかった。
 …いよいよ、牧野を自分の養女にする心積もりになったってことか。
 「ふ…親父の病状も一進一退。……ババアも大河原の娘と婚約を整えたところに、ダークホースが現れて話がご破算ってことになりゃメンツ丸つぶれだが、それでも執り成す為にはそれなりの言い訳もいる。そうなれば息子の勝手な暴走ってことにでもしなきゃ、丸くおさまんねぇか。この時期、伯父貴とドンパチやって、道明寺の屋台骨を揺るがすわけにもいかねぇもんな」
 まるで誰もいなかのように、一人ごちる司だったから、その場にいる誰も彼の思考を邪魔することなく、ただの置物のように直立不動の無言を貫く。
 彼らも海千山千の道明寺一族の使用人として伊達ではない。
 主人の顔色ひとつ、呟き一つで人にも置物にも自分を変化させる。
 ただし、司は彼らの主人ではないのだから、ただの置物というよりも、生きた記憶媒体とでもいうべきかもしれなかったが。
 「よし」
 パンッと長い足の膝を叩いて、司がソファから立ち上がる。
 不敵に笑って司が、執事へと命じた。
 「飯食った後に、タキシードやドレスから、宝飾品一式の外商をこっちに来させろ。とりあえず伯父貴の皮算用に付き合って、乗っかってやるよ」
 手のひとふりで使用人たちを下がらせ、司はまだつくしが眠っているだろう寝室へと向かう。
 そのまま部屋へ入ろうとして、だが、思い止まってそっとノックする。
 トントン。
 …まだ、寝てるか?
 しかし、そんな彼の危惧は必要なかったようで、すぐに中からつくしの応えが返った。 
 『は、はい』
 先ほど使用人たちに見せた笑みとはまるで違う柔らかな笑みが、司の顔に自然に浮かぶ。
 「ドア、開けるぞ」
 『えっ、あ、………はい』
 答えが返るのほとんど同時に、ドアを開け、ベッドの上であたふたとしているつくしへと司は微笑みかけた。
 「あ、お、おはよご……」
 朝の挨拶をしかけた彼女に先んじて、司が口を開く。
 「お前、オシャレなドレスとか、綺麗なアクセサリーとか好きか?」
 「は?」
 「着飾るのは嫌いかって聞いてんだよ」
 かつての彼女は、何をプレゼントしてもほとんど喜んではくれなかった
 ただ投げ与えるようにして、雨霰と高価な衣類や宝飾品を降り注がせても、けっして彼へと笑顔を向けてくれることはなかったけれど。
 …けど、いっとう最初、俺が着飾らせたお前は自分に見惚れてた。
 ピンク色に染まった頬をして、鏡に見入っていた彼女は、年相応の少女らしい喜びときらめきをその瞳に宿していたように思う。
 司の唐突な問いかけに、つくしはキョトンと目を瞬かせ、首を傾げていた。
 「どうだ?」
 「……えっと、た、たぶん、嫌いじゃない…かな?」
 曖昧な返事を返す彼女は、心底から…というよりは、自分の中を探り探りといった感じで、頷いた。
 「ふっ、そうか。じゃ、あとでドレスとかアクセサリーとか一揃い買い物するから、それ着て俺とデートしようぜ?」




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