「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0907

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 ふと目が醒めた。
 別に何があった…というわけではなかったと思う。
 東京での最後の晩、眠れなかった時のように時計の音がカチコチと妙に耳について、もう一度寝入ることができなくなってしまう。
 その一つには、
 「……………」
 自分をガッチリと抱きすくめている男を、顎下から見上げる。
 眠る時にはたしかに抱き合ってなど寝てはいなかった。
 横に並んで寝ることはしかたないにしても、さすがにそこまで許容するには、今の彼女にはいっぱいいっぱいで、たとえ婚約者だという彼に望まれたとしても無理な話だ。
 それが目が覚め始めて最初に思ったのが、暑い。
 ……そして、感じる重さと息苦しさに、怪訝に目を開けると自分を拘束している腕に一瞬パニックに陥ってしまいかけた。
 昨夜はわりに早い時間にベッドに入ったと思う。
 司の伯父だという男との会談のあと、朝食を兼ねた遅い昼食を摂り、司とはそれぞれ思い思いの時間を過ごした。
 とはいえ、勝手のわからない他人の家だ。
 幸い日本人の屋敷だからか、世田谷の道明寺家の屋敷と同様日本語のDVDやら、本や雑誌、果てはWillまで一通りの娯楽物が置いてあって、その気ならば特に退屈はしなかっただろう。
 しかし、司は何事かを考えているようで、スマホを片手に考え込んでいてそうした娯楽物には手を出さなかった。
 つくしには気を使ったようで、好きに使うようにと指示をされたが、何かをするという気力がいまだ失われているのか、司に誘われなければ特にしたいこともなく、ただボウッと一日を過ごした。
 そんな彼女には、司も思うところがあったらしい。
 時々司に話かけられたり、再三何か娯楽をするか、あるいは散歩でもするかと誘われたが、誘われれば応じるが…結局彼女が司に付き合っているだけで、彼女自身は望んでいないことに気がついたらしい司が、そのうち放っておいてくれるようになった結果の過ごし方。
 話したいことなどなかったし、やりたいこともなかった。
 ただ時間がすぎるのを待つ…そんな感じ。
 …どうしてだろう。
 何かを感じてもいいはずだ。
 自分は愛し愛された…はずの恋人を忘れ、その恋人の赤ちゃんを亡くしたのだから。
 にもかかわらず、つくしの感情は記憶とともに失われたかのように麻痺して、どこか鈍く遠かった。
 彼女に唯一明確に残っている感情が―――恐怖、ただそれだけだというように。
 淡々と司と二人で夕食を摂り、まだ眠くはなかったが、またも夜更かしを繰り返しては時差ボケが改善しないからと、司に勧められ昨夜と同じようにはゲームに興じることもなくそうそうに床についた。
 …この人は、あたしのことどう思っているんだろう。
 大切にしてくれている。
 それはわかる。
 けれど、愛した女が自分のことを忘れてしまったにしては、妙に冷静なようにも思う。
 普通もっと動揺するのではないだろうか。
 流産したことに関しては、彼女の体調を心配する時の気遣いとして、あれこれ尋ねてくることもあったが、それ以外、彼自身が今感じていることに対しての話は司の口から出されることはなかった。
 …悲しくないんだろうか。
 母親であるはずの自分がなんの哀しみも、実感も湧いていないのだ。
 自分が孕んでいたわけでもない、まだ未成年の少年に過ぎない司が、恋人の妊娠に対して本当のところでは実感など抱いておらず、そこに何の感情を感じてなくてもおかしくはないのかもしれなかったけれど。
 司の体臭と混じりあった高そうなコロンの香りは甘く良い匂いで、けっして不快な香りなどではないはずなのに、つくしはその匂いに嫌悪を感じて まるで司の胸に顔を埋めるようにして寝ていた姿勢から、ゴソゴソと身体の向きを変え仰向けになった。
 記憶を失ってしまったからなのか、いくつもの不可思議な感覚にと惑わされてしまう。 司がゴテゴテとした成金趣味だと罵ったバロック様式というのだろうか、ヨーロッパ的デザインの中でもシンプルで機能的だった世田谷の道明寺邸とはかなり印象の違う天井は、つくしの目にはただ豪華で美しいとしか映らない。
 それなのに、なぜか世田谷の屋敷で彼女に与えられた寝室のようには、この部屋は彼女に不安感や嫌悪を感じさせなかった。
 …この人がいるから?
 けれど―――、
 「……眠れないのか?」
 一応は彼を起こしてしまわないように息を潜めていたつもりだったのに、振り向いた司は眠気に眉根を寄せ半分目を瞑ってしまってはいるが、寝ぼけているわけではないようだ。
 「暑かったから」
 「あ?……ああ、悪い」
 完全空調で整えられ、不快感など感じるはずのない真冬の邸内だ。
 つくしの言葉の意味に司も気がついたのだろう、しがみつくようにして抱き込んでいた彼女の身体に回していた腕の力を抜く。
 けれど完全には離してしまわない。
 躊躇ったが、それでも腕の力が抜けたことで、何も広いベッドで迫っ苦しくくっついて眠る必要もないだろうと、つくしが身体を離して人一人分の空間を空ける。
 彼女の行動を見守っていた司の顔はどこか切なげに歪んだ。
 けれど何も言うこともせず、小さくため息とつき、枕元の携帯電話を探って時間を確認する。
 「まだ2時か。起きるにはだいぶ早ぇな」
 言われて見て、そういえばもう28日になったのだとなんとはなしに思う。
 感覚的には二回来た27日に追いやられてしまっていたけれど、たしか世田谷の屋敷で会った彼女の親友だという少女が、その日がつくしの誕生日なのだと言っていた。
 …あたしって、17才になるんだっけ?
 そして、目の前にいる少年もたしか17才、とてもそうは見えないが。
 マジマジと司の横顔に見入る。
 間接照明の常夜灯の下でもわかるほどに、司の顔がかすかに赤らんだ。
 それがなんとも不思議で、なおもジッと見ていると彼の秀麗な顔がますます赤くなってゆく。
 「なに…ジッと俺の顔を見てるんだよ?」
 「……ごめんなさい」
 「いや、怒ってるわけじゃねぇけど」
 謝ったつくしに、司が苦笑する。
 彼が捕らえてしまう前の彼女だったら、自惚れるなとギャアギャア反発するだけだっただろうし、その後の彼女だったら無感動にスルーされただろうことに、今の彼女がやはりそれまでの彼女とはまるで違うのだということをあらためてまざまざと感じさせられて。
 「眠れないか?」
 「………………大丈夫」
 「そっか。じゃ、もう一眠りしようぜ。明日なにがあるってわけでもねぇけど、まだ体調も完全じゃねぇんだ、睡眠不足は大敵だろ?」
 どこまでも彼女の身体を気遣ってくれる司の言葉に、つくしも素直に頷く。
 しかし、当の司は、彼女が目を瞑ってもしばらく彼女の顔を見つめたまま、自分は眠ろうとしない。
 何度か逡巡して目を瞑って、けれど、意をけっしたように彼女へと声をかけてくる。
 「……なあ、もう寝た?」
 即座につくしの目が開いて、無言で司を見返す。
 熱視線。
 それがそうなのだと容易に理解できる司の視線に居た堪れない。
 …眠ったりできるはずがないよ。
 そんなに熱く見つめられて、視線を感じないはずがなかった。
 たとえ目を瞑っていても、司の熱い眼差しはどこまでも彼女を追っているのを感じていたから…これまでもずっと。
 だから、半信半疑でも司が婚約者なのだという彼の言葉を信じたのだ。
 信じられない気持ちの方が大半なのに、彼の彼女を見つめる眼差しが態度が、司の気持ちをつくしにも容易に知らしめていた。
 …この人はあたしのことが好きなんだ。
 「手、繋いで寝たらダメか?」




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