「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0904

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 「なあ、出血とか、痛みとかお前少しは治まってきてんの?」
 いくら何もしないと約束されても、横臥した男の横に寝ることなどつくしにはとてもできなくって、…だからといって、彼の言いつけに背いて自分の部屋だと与えられた部屋へと引き上げることもできず、結局広いベッドの端に膝を抱えて座っている。
 見てもいないDVDの画面は、いつの間にか佳境へと差し掛かっていたが、画面を目で追うことすらせず、つくしはただぼんやりと画面を眺めているだけだ。
 それでもてっきり眠っているとばかり思っていた司に話しかけられたことが意外で、最初それがテレビの音ではないことに中々気が付けなかった。
 「おいって」
 「……ひっ」
 肘をついて上半身を起き上がらせた司にいきなり肩を掴まれ、つくしが驚いて飛び退る。
 その反応は過剰というよりも、怯えているのがあきらかで、手を宙に浮かせたまま司の顔が小さく引き歪んだ。
 「……何もしないって言っただろ?」
 言うつもりではなかったが、それでも遣る瀬無い思いにどうしても言わずにはいられなかった言葉は、ひび割れて苦しげだった。
 「あ……」
 さすがにつくしにしても、自分の行動が過剰だったと思ったのだろう、緩く首を振り、俯いてポツリと謝罪した。
 「……ごめんなさい」
 司にだってわかっている。
 彼女がいまだに自分に馴染んでいるわけではなことを。
 ただ他に頼るべき人間がいないから、ただでさえ自分に関する記憶を失い不安がっているのに、さらに親や友人知人がいる日本から遠く離れた外国へと連れてきてしまったのだ。
 たとえその親や友人知人に親しみを感じていないにしろ、なおさら他に頼るべき人間がいないのだと彼女を追い詰めてしまうだけなのだと。
 けれど……、
 …親兄弟やダチがいる日本にいたら、奪われちまうかもしれねぇ。
 物理的なものばかりではなく、彼女自身の気持ちによって。
 彼女を手元に置くためには必要なことだったとはいえ、無意識の意識で自分が彼女を他の親しい人たちからあえて引き離したのだ。
 「謝ることはねぇさ。俺こそ驚かせてごめんな?」
 つくしが今度はハッキリと首を横に振る。
 「お前の場合、完全に子供が流れ…いや、その……手術しないでもすんでるから、10日もすりゃ出血もなくなるし、その後は個人差はあるけど、生理も普通の周期で来るはずだって聞いてる。痛みや出血はもうそれほどないはずだって、医者は言ってたけど、実際はどうなんだよ?」
 無理は禁物で、しばらくはなるべく安静にしているようにとは指示を受けていたから、司も気をつけているつもりではいたが、だが外傷とは違ってさすがにどの程度つくしがいまだにダメージの影響を受けているのか、―――出血が続いているのかなどわかりようもない。
 「おい?」
 今度は脅かさないように、精一杯の気遣いで俯いてしまっているつくしの顔を下から覗き込む。
 が、つくしの顔がわずかに赤いことに気が付いた。
 「………どうした?やっぱ、具合が悪いのか?顔、赤いぞ?」
 額に手を当てようとして、だが先ほど怖がらせてしまったことを思い出し、手を伸ばすことを思いとどまる。
 「熱、測るか?」
 「…あ、いえ。その……具合が悪いわけ…じゃなくって」
 そうは言うが、ますますつくしの顔は赤くなっていっている気がした。
 …目もなんだか涙ぐんでるみたいに潤んでるし。
 完全にベッドから起き上がった司が、サイドテーブルの上のインターフォンに手を伸ばそうとして、…ふと、赤い顔に手の甲をあて、視線を泳がせているつくしの様子に、ふと彼女が言うように彼女は具合が悪いのではなく、実は恥じらっていることに気がついた。
 「……だって、男の人にせ…いりのこととか、言われるから」
 「あ~」
 よくよく考えてみれば、出血している場所にしてみてもごくデリケートな場所で、そこらのアバズレた女ならともかく、彼が無理矢理に奪うまでつくしは男性経験もない、ごく…純情な少女だったのだ。
 そんな彼女にとってみれば、男の彼と局部の出血だの、…流産がどうのと、そんな話をすることさえ抵抗があって苦痛だろう。
 ましてや、今の彼女にはそうした一連の行為から、結果に関する一切の記憶がないのだ。
 いまだ自分が流産した―――そこに至る経験に対する実感もないだろう。
 …いや。
 たとえ記憶があったにせよ、彼女が自身の妊娠を知ったのは、ホンの数日前、自殺未遂を起こす直前のことだったのだ。
 そして、死を選ぼうとした。
 再び堂々巡りの昏い思考へと陥りかけ、首をひと振り、司が気分を変える。
 「な、特に体調が悪くなくて、まだ眠くないなら、……トランプでもやらね?」
 「え?」
 「なんかDVD観てても、あんま面白くねぇみたいだし、ただボウッと無駄な時間過ごすのも苦痛だろ?」
 パチクリと目を瞬かせて、自分を見上げてくる小動物みたいな無邪気な顔をしたつくしへと、意識しなくても自然に司の顔に笑みが浮かぶ。
 …マジ、すげぇ可愛いな。
 彼女が記憶を失う前…いや、もっとずっと以前、彼の暴虐によって修復不可能な関係に陥ってしまう以前にも、何度となく思った感慨。
 彼女が可愛くて…愛しくて、恋しくて、ただ彼女を見ていたかった。
 彼女に会えればそれだけで楽しくて、嬉しくて、声をかけて、その目に自分が映っていることを喜んだ。
 それがいつの間にか、彼女にも自分を見て欲しいという欲望に変わり、その方法を間違えた。
 意地悪をすることで、彼女の関心を引き、それが自分の本当の望み―――彼女に好かれたいという気持ちとは真逆の方向へと二人の関係を進ませてしまうことになるだなんて、気がつかなかったのだ。
 …バカじゃねぇの、ガキか。
 今頃そんなことに気がつくだなんて。
 けれど、後悔することは彼の性分には合わない。
 欲しいモノがあれば、それを手に入れてきたのが自分だった。
 ただ一つ、思いどおりにならなかったのが、彼女だったけれど。
 …今度こそ、失敗しねぇ。
 「ババ抜きくらいわかんだろ?それとも、それも憶えてねぇ?」
 「………わかります」
 「よし」
 戸惑う彼女の頭をくしゃくしゃと撫で、ベッドから降りる。
 そのままテレビが埋め込まれている壁面収納へと足を踏み出しかけて、司が首だけを捻らせ、つくしを振り返る。
 「あ、そうだ。お前、なんで俺に敬語なんだよ」
 「え?」
 「婚約者だと言ったろ?第一、お前、記憶失くす前も敬語なんて使ってなかったんだぜ?」
 「……ああ」
 婚約までする恋人同士だったというのなら、そうだろう。
 いまだこの一般人と違う美貌の少年が自分の恋人だったなどとは完全には信じきれていないつくしだったが。
 「敬語、やめろよ」




******




 「ふわわわわわわ」
 類ばりの大口を開け、盛大にあくびをかます。
 …さすがに時差ボケがひでぇな。
 内心でボヤキ、対面側に座る初老の男へとあらためて向き直る。
 「………あいかわらずのぶてぶてしさだな」
 小さな笑みを浮かべ寛大さを装っているが、その言葉のとおり司のふてぶてしさに苦々しさを感じているのだろう、上がった口角の端がピクピクと癇症に震えていた。
 「それはどうも。伯父貴も相変わらずですね」
 相変わらずの浅はかさと小物ぶりだと嘲りを内心で呟き、司が冷然と微笑んだ。
 そうしているとなおいっそう母である楓によく似ていて、相手の神経を逆撫でするとわかっていても、今ここにいるのがただ利用され搾取されるだけの子供などではなく、対等な取引相手なのだと印象づける。
 「で?あなたの北米における道明寺財閥での影響力残留を将来にも渡って協力して差し上げる代わりに、あなたはボクたちの恋路をどのように応援してくださるおつもりですか?」




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