「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0903

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 なぜ、今、つくしが流産をして、司が怪我をしているこの時期に、NYという日本から遠く離れた異国の地へとやってきたのかというつくしの問いかけに、司は明確な答えをくれなかった。
 「欲しいものを手に入れる為に」 
 その‘欲しいもの’がまるで彼女であるかのようにジッと彼女を見た司の顔はどこまでも真剣で、それでいてどこか昏く思いつめているようにつくしの目に映っていた。
 もしかしたら、それはつくしの気のせいなどではなく、そのまんま彼女を指し示していた言葉なのかもしれなかったけれど、だが、それならばなおさらのことここへと訪れた意味合いをつくしがは計りようがあるはずもない。
 彼にとって欲しいものが彼女ならば、もう果たされているではないか。
 「帰りたいか?」
 「……帰りたい?」
 逆に問い返されたつくしは、司の質問の意味がわからなかった。
 「家に……お前の親がいるところへ」
 …家に。
 けれど今のつくしにとって、その親ですら見知らぬ他人と同じなのだ。
 「どうして?」
 「……どうして?」
 「だって、あなたがあたしの婚約者なんでしょ?あなたの家があたしの家だって、あなたが言ったんじゃないの」
 「……ああ、そうだな」
 微笑んだ司の顔はどこか微苦笑を含んで…なぜか苦しげだった。




*****




 
 「ふ…ん、成金でもあるまいに、相変わらずゴテゴテと趣味の悪い屋敷」
 『こちらをお使いください』と屋敷の使用人に通された部屋を回しての司の第一声がそれ。
 果たしてその‘ゴテゴテと趣味の悪い屋敷’が誰のものなのかわからないつくしは戸惑って、案内役の使用人を気まずく見返す。
 しかし、あくまでも賓客扱いである司の接待に、彼が何を言おうとしようと、その男性はまったく顔色を変えることもなく、鷹揚に司の批判や要求を受け入れ、用がある時には呼んでくれとだけ言い置いて退出して行った。
 「どうした?」
 ついジッと司の顔を見てしまっていたのを、見咎められてしまう。
 だが、問いかけられても、何をどう聞きたいことがあるわけではなかったから、つくしは首を横に振るだけで視線を反らす。
 「14時間も飛行機に缶詰で、移動に次ぐ移動だったもんな。疲れたろ?どうする?まだこっちは真夜中だし、寝れそうなら寝るか?」
 日本では今頃、昼下がりの時間帯か。
 飛行機の中でたっぷり眠ったので、つくしもまだまだ眠い気がしないが、ここNYでは今ちょうど真夜中の1時を過ぎたあたりだったから、このまま寝ないのでいるのも、今度は時差ボケで日中がきつそうではある。
 そもそも明日からの予定をどう過ごしていいのかわからないつくしには判断がつかないことばかりだったから、結局、そのスケジュールを把握しているのだろう、この目の前に男に尋ねるしかなかった。
 「あの……あたしは、何をしたら?」
 「何をしたらって?」
 「…あたしは、ここでどうしたら……いい、んでしょう」
 学生には学生の、社会人には社会人の、また、結婚しているのなら結婚している人間なりの人には役割というものがあって、それらにそって人生を努力し楽しんでゆくものなのだろうが、過去のすべてを忘れてしまったつくしには、自分にはいったいどんな役割が振られ、毎日をどう過ごせばいいのかわからなかった。
 この目の前の男の‘婚約者’という立場が唯一彼女に振られた役柄ならば、それに沿った行動をすればいいのだろうが、しかし、この屋敷や世田谷の屋敷同様この目の男は、あまりに彼女の範疇外の存在で、自分がどうすればいいのかさえも予想できない。
 「眠くねぇの?」
 「…眠くはないです」
 「疲れは?」
 「少しは」
 体が重怠いのは果たして長旅の影響なのか、流産の後遺症なのか彼女には判断がつかないが、もはやそうした体調不良は彼女にとって馴染みのものになりつつあるから、むしろ事細やかな気遣いを見せてくれる司に尋ねられて初めて思い出す…そんな感じだ。
 「なら、せめて横になれよ。別に無理して寝なくてもいいし、……今の所、特にやらなきゃなんねぇもんがあるわけでもないから、眠くなるまでテレビとかDVDでも観るか?」
 車椅子から彼女を抱き上げようとする司の手を断って、つくしが自力で立ち上がる。
 司が安静にしろというから従っていただけで、歩くこともできない重症患者ではないのだ。
 …死にかけたくせにとか言われちゃうけど。
 それでも、肋骨を骨折するという大怪我をしたばかりの人間に、無理をさせるわけにもいくまい。
 空港からの移動に関しては、ガンとして彼女が自力で歩くことも、他の人間が彼女の車椅子を押すことも拒絶されてしまったから仕方がないことだったが。
 立ち上がったつくしの顔や体を視線で一巡して、彼女が無理をしていないことを確かめたのだろう。
 司が彼女の手をとり、奥の寝室へと向かおうとしだす。
 おそらくかなり意匠的には印象が違うが、世田谷の屋敷同様この屋敷内の作りもまた、似たような機能を備え、一つの部屋にいくつもの間取りが備わっているに違いなかった。
 「あ、あの」
 つくしの軽い抵抗に、司が足を止め、器用に片眉を上げ彼女の言葉を待つ。
 「えっと、どこへ?」
 「寝室」
 「で、でも、ここって…その、あなたの…お部屋なんですよ…ね?」
 使用人が案内した部屋はここだけではなく、世田谷での屋敷と同様、司用の部屋とは別に斜め向かい側の部屋をつくしにと用意してくれていた。
 …まさか。
 いくら‘婚約者’だといい、彼女の両親も公認ではあっても、結婚もしてないのに同じ部屋で寝るつもりではないだろう。
 そうは思うが、自分はこの男の子供を身篭っていたのだと思えば、それを強要されることもありえない話ではないと思い当たって、小さく身震いする。
 …無理。
 かつての自分たちがどんな関係だったにせよ、今の彼女はこの男を欠片とも愛してはいなかったし、記憶にさえないのだ。
 言葉で説明された事実を認識することはできても、それを実感したり、ましてや容認することとはまた別の話だった。
 小さく震えだすつくしの青い顔を見下ろして、司が小さく苦笑し、強張ってしまっているつくしの手を引き、彼女の体を緩く柔らかく抱きしめる。
 「……何もしねぇよ」
 「っ」
 「体を壊して弱ってるお前を抱いたりしない」
 ビクリと震えた彼女の背中を優しくポンポンと叩き、彼女の体を離して再び手を引き寝室へと向かう。
 「けど、ここで別々に寝るのはダメだ。つーか、俺から離れるな」
 鋭く硬質な声音には、甘さの欠片もなく、それが睦言や甘い口説き文句などではないことがつくしにも感じられる。
 「……それってどういう」
 寝室はやはり普通の―――つくしの認識でいう普通の部屋とは異なり、広く豪奢で中央のベッドは二人どころか3人も4人も寝られそうなキングサイズだった。
 続きの居間にもテレビが設置されていたが、寝室にもテレビがあり、ミニバーやオーディオ機器、ソファセットも完備され、個人の家の一室というよりは、ホテルかなにかのスウィートルームのようだ。
 「今日はまあ真夜中だから、対面は明日になるが、ここは俺の伯父貴の家なんだ」
 「…伯父さん?」
 「ああ。ま、伯父貴っつーても、実際には親父の伯父の息子……従兄弟なんだが、便宜上、伯父貴と呼んでる。あるいは、道明寺家総帥と呼ばれてかもしれねぇ男だが、今は親父の風下に立って不遇を囲ってるってヤツだ」
 司の唇の端に浮かんでいるんはあきらかな嘲りだった。
 「ま、それでも数少ねぇ親族だ。財閥内でもそれなりの派閥を持ってるし、親父もかなり気を使って重用してる」
 だが、現在、道明寺財閥は大きく揺れ動いていた。
 司の父であり総帥である会長の体調不良に端を発し、元々総帥の妻であり現在、本社社長として辣腕を奮う楓との間で権力闘争が水面下で繰り広げられていた。
 一時期は、楓を凌ぐ勢いだったが、現在は楓を中心とする派閥に追いやられ近々、道明寺財閥の本拠地であるアメリカから都落ちして、どこぞの地方へ飛ばされるのではないかという話も実しやかに囁かれていた。
 そんな男が、司に接近してくる意図など浅はかすぎて、これまで司は取り合いもしなかったのだが…。
 …本当なら、自分に娘でもいれば俺にあてがいたいところだろうけどな。
 司がそうした不遇を囲った他の幾人かの親族ではなく、この伯父を選んだのも、司よりも多少年嵩の息子がいるのみで、娘や姪がいないこともあった。
 「ここの連中はみんな俺にとっては敵だ。…いずれは、俺らも俺の実家の本宅に戻る。けど、それまでは絶対に気は抜けねぇ。俺は絶対にお前を離さない。だから、お前も俺のそばにいろ」




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