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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0902

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 つくしが目を覚ました時、すでに飛行機は高度一万メートル上空を飛んでいた。
 広いファーストクラスの座席はそれぞれが独立していて、カプセルシェルターのような形状で座席というよりベッドだ※。
 …て、いうか、これベッドなんだ。
 窓から覗く雲や太陽が見えなかったら、飛行機に乗っていると気がつかなかったかも知れない。
 体を起こすと相変わらず下腹部に疼痛が残っていたが、それでも流産したという翌日ほどではない気がする。
 少しづつでも回復している。
 「わぁ、凄い」
 寝転がっていたままでも目に入っていたが、覗き込んだ窓の外にはまさに天国が広がっていた。
 …凄い、凄い!
 こんな凄い景色が現実にあるだなんて信じられない。
 「何が凄いんだ?」
 ハッと背後を振り返る。
 いつの間にやってきていたのか司が、入口の間仕切り壁に両手をかけ立っていた。
 「なに?」
 「……あ、えっと、景色が」
 「ふぅん?」
 彼女の言葉に、司もベッドに腰を下ろし、彼女が見ている窓を覗き込んでくる。
 顔の横に突然ぬっと突き出された秀麗な美貌に、内心仰け反ってしまう。
 「こんなのが珍しいのか?」
 「あ……」
 嘲るような言い方ではなかったが、それでも不思議に思っているらしいのがあきらかな司の声音からして、彼にとってはまったく珍しくもなんともないものなのだろう。
 「……いえ」
 以前の彼女のように拒絶しているわけではなかったが、それでも司に萎縮してしまっている彼女をやるせなく見やる。
 もともとの彼女は、たとえ司が相手でもそんなふうにビクビクとして自分の意見も言えないようん少女ではなかったのだ。
 …俺が変えちまった。
 目覚めて記憶を失った彼女は、やはりどこか以前までの彼女とは違った。
 ただ記憶を失った、前のことを忘れてしまったというだけではなく、常にどこか怯えてまるで神経質なウサギかなにかのように過敏なほどに臆病になってしまっている。
 それが記憶喪失になったことで、周囲が見知らぬ他人ばかりになったことが原因なのか、あるいはまた別に問題なのか司にはわからない。
 だが、これだけは彼にもわかっている。
 記憶を失ってしまったことが、司に傷つけられ壊されてしまった心の防御本能ならば、今度また再び同じことが起これば、今度こそ彼女は完膚なきまでに壊れてもう二度とまともには戻らないだろうということが。
 まとも…というのがどんな定義ははともかくとして、司はもう笑いもせず、泣くことさえせずに一日中ずっと蹲っているだけ彼女を見たくはなかった。
 …体もまだ全然回復できてねぇ。
 病み衰えて、痩せ細った体はいかにも不健康で、以前の彼女の面影もなかった。
 司は小さく息を一つつ、気分を変える。
 どんな彼女でも彼女なら、かまわないではない。
 だが、今度こそ自分といることを心地よい、嬉しいと思って欲しい。
 自分と彼女の関係はまた振り出しに戻って、スタートラインに立ったばかりだ。
 本来ならば、取り返しがつかないほどに大きく隔たってしまっていたのが、スタートラインにまで引き戻すことができた奇跡を最大限の努力で身を結ばさなけらばならない。
 …一々落ちてる場合かよ。
 「ずいぶんよく寝てたから、起こさなかったけど、メシ食わね?」
 「ご飯…」
 きゅるるるるるる~~~。
 「……………」
 「……………ぷっ」
 よほど腹が空いていたのか、口ではなく腹で返ってきた返事に、司が噴き出した。
 何気ない一言、何気ない仕草だけで彼を笑わせてくれるのは彼女だけだ。
 「くくく、そんなに熱烈コールしなくても、メシにしてやっからちょっと待ってろ」
 真っ赤になって恥ずかしがっているつくしの頭を撫で司が体を起こす。
 そして、彼女を振り返りうっとりするほど優しい笑顔で笑いかける。
 「いいことだぜ?たくさん食って、早くもっとずっと元気になれ」




*****




 用意された料理は、つくしがイメージしていた機内食とは全然違って、まるでどこかの一流レストランか料亭の料理のようだった。
 器一つをとってみても、給食のプレートのようなものではなく、一つ一つがおしゃれで料理とマッチしている。
 司はどうやらつくしと一緒に食事を楽しみたかったらしいが、それぞれの席が単独になっている座席形状的にさすがに諦めた。
 だが、つくしにはその方が良かった。
 広い屋敷の広い部屋にポツリと一人取り残されるのは怖かったが、こうやってたくさんの人たちがいる中でのプライバシーが確保された場所は、とても居心地がよく、むしろ司がいると気詰まりなのが本音だったから。
 ホッと小さく息をつき、目の前の食事に目を輝かせてとりかかる。
 さすがに流産した次の日は大出血してショック症状になったこともあって、翌日目を覚ました直後の食事は制限されたが、夜には普通に消化のいい食事も出され、昨日はもう普通食だったがつくしが精神的に食べたいという心境ではなかった。
 …美味しそう。
 素直にそう思える。
 「そうだよ、三度の食事が基本だよね」
 そんなことを小さく一人ごちて、ナイフとフォークを手に取った。
 と、自分の左手の薬指に目が止まった。
 …あれ?
 たしか昨日ハマっていた指輪と違う。
 昨日までハマっていた指輪は、高価そうではあったがそれでもわりにシンプルで、それほど大きな石がついていた代物ではなかったはずなのにと怪訝に眉根を潜める。
 だが、勝手に指輪が自分で歩いてハマったり外れたりするはずもなく、当然、自分の指にハマっているようなものを思い違いするはずがないのだから、違うものが指にはめられているというのなら、その原因は一つしかない。
 …これ、あの人が。




*****




 東京からニューヨークへの直行便のフライト時間は12時間。
 時差は東京の方が進んでいて14時間だ。
 深夜1時近くに成田を出発した二人が、ニューヨークの降り立った時真夜中だった。
 …飛行機に乗った時には27日だったのに、飛行機を降りたらまた26日に戻ってるなんて変な感じ。
 つくしの感覚では一度進んでしまった時間はもう二度と戻らない。
 時とはあくまでも未来方向へと進んでゆくもので、けっして過去に戻ることができないものなのだ。
 時計上のものとはいえ、まるで時を戻してしまったかのような感覚。
 …日本に帰ったら、これが逆になるのよね。
 まるでタイムパラドックスのようだと、そんなSF小説のようなことを思う。
 「寒くないか?」
 気遣う言葉をかけられ、つい見入ってしまっていた景色から視線をもぎ離して背後を仰ぎ見る。
 「なんだよ……また、見惚れてるのか?」
 迎えの者が来るのを待つという司と共に訪れたラウンジ。
 これまでの人生で自分が飛行機に乗ったことがそうないのか、物珍しくキョロキョロと空港やラウンジを見回し、またしても司の言うとおり巨大な窓から見えるNYの夜景に見惚れてしまう。
 ラウンジからの夜景だけではなく、飛行機の窓から覗く雲海の景色や、離着陸の時の夜景、空港のコンコースを通る時にもつくしは小さく歓声を上げ見惚れていた。
 「もうすぐ迎えに来る車の方が、少しは温かいと思うけど、とりあえず…これでも着てろよ?」
 「あ…いえ、大丈夫ですから」
 「いいから」
 司が自分のジャケットを脱いでつくしの肩にかけてくれるのを遠慮して、脱ごうとしたのを肩の上から抑えられて、さらには膝の上にはコートまでかけられてしまう。
 「もう少し、ここで夜景を見ていてもいいですか?」
 「いいぜ、車が来るまでは特にやることもないし。でも、こんなもんどこでも見られるだろうよ。現に東京を出る時も見たし、その気ならいくらでも見せてやれるぜ?」
 「でも、今この場で見られる景色はここだけのものだから」
 景色も人と同じだ。
 同じ場所でたとえ見たとしても、季節や時間、シチュエーションと、その時々できっと違う顔を見せてくれるのだろう。
 珍しく会話らしい会話に応じるつくしの横顔を司がジッと見る。
 いや、彼がつくしを見ていることは珍しいことではなかった。
 それこそ、夜景などより彼女の顔を見ている方がよほど彼にとって貴重なことであるかのように。
 熱視線。
 そんな彼の視線が居た堪れないのに、どこかで浮き立つようなざわめく感覚もある。
 けれど、そうした感覚をいつも窘める心の奥底の‘声’は依然彼女に囁き続けていた。
 ―――この男を信じちゃダメ。
 愛してはダメなのだと。
 …どうして?婚約者なんでしょ?
 そんな答えのでない自分の心の声から耳を背け、自分の薬指の指輪を眺め、つくしは意を決して司へと尋ねた。
 「どうして、ここに?」
 …あなたは、あたしをどこに連れて行こうとしているの?




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※JALなんかの国際線のファーストクラスだと、個室のドアのない漫画喫茶のイメージに近いらしいです。
寝る時には客室乗務員さんが布団を敷いてくれるとか。また航空会社により、さらにその上のスイートクラスなるものもあるとか。

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