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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0901

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 …あたし、とんでもないことをしてる?
 片手を口元にあて、人差し指の腹を噛む。
 寝室を抜け、広い居間を抜けて、ソロソロと顔を出した無人の廊下は明るかったが、それでも昼間の明かりとは違って人工灯のもたらす明るさはどこか陰鬱で、どこか巨大な迷路を思い起こさせ、つくしをゾッとさせた。
 用がある時にはいつでも室内のインターフォンで宿直のメイドを呼び出せと言われてはいたが、しかし時間が時間だ、真夜中ではないとはいえ、ただ一人が怖いという理由だけで人を呼びつけるのは躊躇してしまう。
 それならば、彼女が頼るべき―――頼れる人間は一人しかいない。
 「まだ11時前だもん。寝てたりしないよね」
 けれど…。
 司の部屋だという向かい側のドアにジッと視線をあてる。
 この向こう側にいる美貌の少年が自分の恋人で……婚約者だという。
 …あたしはあの人が好きだった?
 たしかに司という男は、どんな女でも憧れずにはいられない、それこそ夢の王子様といってもいいような身の上の少年だった。
 どこかの国の王様の宮殿のような広大なお屋敷に住んでいて、彼自身、同じ人間だとは信じられないくらいに美しく、いかにもセレブ然とした優美な物腰の彼に見初められて舞い上がらずにいられる女が果たしているだろうか。
 なのに…。 
 …あたしはあの人が怖い。
 そうなのだ。
 家族だという見覚えのない人たちや、見知らぬ人々、司の親友だというやはり見覚えのない彼らに感じるものとはまた異なる恐れ、頼るべき人だという依存とはまた違う部分で感じる怯えにつくしは混乱していた。
 …本当にあの人を信じていいの?
 しかし、ならば自分はどこに行けばいいのか。
 おそらく家族だという人のもとへ行けばいいはずなのに、家族だという人たちも彼女がここにいるのが当たり前だというように、連れ帰ってくれはしなかったしそうした話もしてくれなかった。
 だからといってそれを自分から望むには、彼らもまた彼女にとってまったく見知らぬ人々だったのだ。
 …誰を信じたらいいのか、わからない。
 自分自身でさえ、現実に存在している人間なのだと確信できていないのだから。
 もしかしたら、これは誰かの見ている悪夢で、自分はその中の登場人物に過ぎないのではないか、そんなバカなことすら思って、本当に怖くて…よけいに眠ることができなかった。
 もし眠ってしまったら、……その悪夢は醒めて、現実の世界が蘇り、そして今ここにいる自分は消え去ってしまうのではないか、そんなことを思う。
 …逃げちゃおうか。
 どこへ?
 …どこへでも。
 ここではないどこか。
 彼女の婚約者だという男も、家族も、誰もいない何処か遠くへ、そんな誘惑がつくしのうちに不意に沸き上がる。
 どちらにせよ、誰一人、彼女が知る人間などいないのだ。
 それならばいっそ、一人あてどもなくどこかへ行ってしまうのもいい。
 そんな夢想に囚われてしまう。
 それがどれほど無謀なことなのか、そんなことさえ思い浮かばない欲求に、つくしは向かいかけていた司の部屋のドアから一歩後退った。
 そして、踵を返しかけ………、ガチャッ。
 「……あ」
 「牧野?なんだ、ちょうど迎えに行こうと思ってたけど、すげぇタイムリーだった
な」




*****




 「眠かったら寝ててもいいぜ?」
 司に話しかけられて、つくしは眺めていた車窓の外の夜景から振り返った。
 「ま、もう30分もすれば空港に着くだろうから、どうせなら飛行機に乗ってからの方がいいとは思うけどな。車椅子もあるし、いざとなれば俺が抱いて移動させるからそこらへんは気にすんなよ」
 曖昧に首を傾げ、つくしは再び窓の外へと顔を向ける。
 時刻はすでに23時を大きく回っていて、もうすぐ次の日の午前を迎えようとしていた。 自室から出てきた司はパジャマや部屋着の類ではなく、きちんとした外出着姿で、寝てはいなかったらしい。
 が、そのあとの行動はつくしの想像の範疇外で、戸惑う彼女を連れ、屋敷のエントランスで待ち受けていた黒塗りの車に乗り込み現在に至る。
 窓の向こう側、ガラス面に映った司が自分をまだ見ているのはわかっていた。
 けれど、何をどう言えばいいのかわからず、結局、外の景色に集中する。
 司はそれを許してくれる。
 おそらくかなり我の強い性格をしているのに違いないのに、彼女が目覚めて以来、彼女に接する彼は常にそんな風に気長で寛容で……どこか遠慮がちだった。
 …どこに行くんだろう。
 つくしはあえて聞かなかった。
 どうせ、どこかに行こうとしていたのなら、どこへ連れて行かれようと同じことのように感じていたからだ。
 どうせ、すべては誰かの悪夢なのだ。
 つくしには、他にどこにも行くところがないのだから、それならば何を思い煩うことがあるだろう。




*****




 寝てはいいとは言ったが、まさか本当に10分やそこらで寝入ってしまうとは思っていなかった。
 …ふっ、こうしてるとまったくガキだな。
 元々つくしは童顔ではあった。
 けれど、無邪気な顔で寝入っていると、さらに幼く見えてなおさら守ってやりたい庇護欲が沸いた。
 唇にかかってしまっている髪をかきあげ耳にかけてやる。
 「私どもがお運びしましょうか?」
 「……いや、いい」
 先に司は車を降り、伸び上がらせるように上半身を車に屈ませて、寝入ってしまっているつくしの背中と膝裏に腕を通し、車から引き出す。
 「……っ」
 正直、かなりキツい。
 いくら回復力に自信があっても、肋骨を折ってまだ数日だ。
 密かに脂汗をかきながらつくしを抱き上げ、手前に用意させた車椅子に乗せる。
 「……ん」
 起きたのかとつくしの顔を覗き込むが、どうやら眠りは深いらしく小さく呻いて顔を顰めたのみで、目を開けることなく再びくぅくぅと小さな寝息をたて寝入ってしまう。
 …可愛いな。
 何度となく感じた感慨。
 長く認めてこなかったけれど。
 こんな女に気を惹かれてなんかいないんだと強情を張って…。
 緩んだ顔を引き締め、気を取り直した司の顔はすでに怜悧に冴え渡り、傲慢さもあらわに周囲の男たちを睥睨した。
 「で?おたくらの自家用ジェットをここに用意してくれてんのか?」
 「いえ、それでは悪目立ちしますので、民間機のファーストクラスにお席をご用意しております。明日…もう日付を超えましたので本日になりますが、0:56発の深夜便にて、NYへ出立いたします」
 「ふっ、なら、後ろをついてきてる二人はさっさと片付けておけよ?……お前らのボスに会う前に、ババアに報告行っちまったら、困んのは俺じゃなくそっちだろ?」




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