「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0900

 ←愛してる、そばにいて0899 →愛してる、そばにいて0901
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 つくしの家族が来たという司の断りに、真っ先に類が立ち上がり、腰が重い二人を引き連れさっさと帰って行ってしまった。
 ほとんどつくしの方を見ることがなかった男が去り際、チラリと流した視線が妙に気になって…、なんとなくつくしは釈然としない気がする。
 …凄い綺麗な目をしてた。
 とっつきにくい冷たい男の美貌にハマったビー玉みたいな目が気になって、だが、ニコリとも笑わない彼の無表情さには、どう見ても彼女との個人的な関わりなど見いだせなかったというのに。
 それにもう一つ、あきらが残した言葉も気になっていた。
 『そうだ、司。青池和也の赤札、撤回しておいたぞ。もう休みに入ってっけど、2年のヤツに回覧させておいたから、新学期には通達も行き渡ってると思うぜ?』
 ―――青池和也。
 赤札。
 どこかで聞き覚えがある気がする。
 ジッとあきらの顔を見上げる彼女の視線にわずかにあきらが焦って顔をして、司もあのどこか不可思議な色をした目で彼女を見ていた。
 まるで彼女を観察するかのように、今彼女が何を感じていて、何を思い出しているのか、いつも司は彼女の内面を透かし見ようとしているかのように思える。
 …怖い。
 「……牧野?」
 「え?」
 「どうした。ボウっとして、やっぱりまだ本調子じゃねぇんだし、寝室のベッドの方に移動するか?」
 「そういえば顔色も良くないわね。そうさせていただきなさいよ」
 「そうだぞ、いくら若いからって無理をしたらダメだぞ」
 「……あなた、それってちょっと的外れなセリフなんじゃない?」
 「ええ?そうかな?」
 呆れたような年配の女―――千恵子のセリフに、同意して、つくしの弟だという進もうんうんと頷いている。 
 晴男の隣に座る千恵子のさらに隣りに、ちょこんと座って遠慮がちに周囲を見回していた少女は、つくしの友達だと言ったか。
 おそらくこんなところまで連れて来たくらいだから、相当親しかったのだろうが、今の彼女にとっては誰も彼も一緒だ。
 他人という括りの中で、どれくらいの位置にいた人間なのか、それを他人から教えてもらわなくてはならない。
 そうであれば、母親だの父親だ、友達だのと言われてもまったく親しみが湧きようもなかったし、婚約者など困惑の極みだ。
 それでも今一番頼れるべき存在であるのが隣の男であることはあきらかで、それを彼女の両親だという目の前の夫婦も肯定していた。
 それでも彼女の部屋にやってきた当初は、かなりガチガチで、この宮殿かと見紛う豪邸に臆している以外にも某かの決意を持っているように見受けられた。
 けれど、司が丁重に彼らを歓待し、幾人もの使用人たちが傅いてつくしを下にも置かぬ扱いで世話をし、そのつくしもまた司に寄り添っている姿を見てホッとしたのか、その緊張もあっという間に溶けて、あとはこの素晴らしい豪邸の豪華さを目を細め、誉めそやすことに腐心しだした。
 進は年齢もあるだろう、無邪気に「すげぇすげぇ」と燥いでいるだけだったが、つくしの親友だというその少女は、どこか哀しげな目で彼女を見て何かを躊躇しているように見えた。
 けれど結局、家族である晴男たちを差し置いて何を言うでもなく、ほとんど司の影に隠れて口を効くこともしない彼女を、痛ましげに見ていたのはきっと気のせいではなかっただろう。
 そんなことを言っていた。
 千恵子たちと帰る折、先をゆく司と晴男たちの後についてゆきかけて、けれど、ソファに座ったまま彼らを見送るつくしのもとへと歩み寄ってきた。
 そして、彼女へと屈み込みそっと小さく微笑んで、
 『つくし、明後日、誕生日だね。もしかしたら、明後日おめでとうを言えないかもしれないから、今言っておくね。17才おめでとう』
そんなことを言ってくれた。
 誰一人として、両親だという二人も、弟も、………司さえも言ってはくれなかった言葉。
 胸元で小さく手を振っていた彼女の優しい顔が、いつまでもつくしの胸に残った。
 



*****




 …眠れない。
 カチコチカチコチという壁掛けの豪奢なアンティーク時計の音が妙に耳について、だがそれ以前に、つくしはこの部屋がなぜかイヤだった。
 居間に入った時にはお姫様の部屋だと思った。
 けれど、妙にドアの方向が気になる。
 それは居間にいた時もそうだったが、一人ではなかったせいかそれほど強くなかったのに、この寝室はなおさらのこと。
 今にも誰か……彼女にとって恐怖の対象が飛び込んできて、彼女を頭から呑み込み喰らってしまう妄想にさっきから苦しめられていた。
 なぜ。
 子供でもあるまいに、そう思うのに。
 記憶にはないが、悪夢を見た後の感覚によく似ている。
 そこかしこ物陰の暗がりの影や、壁の模様の微妙な違いにさえ、何か得体の知れない存在を感じて恐怖を感じてしまう。
 そんなものに近いのかもしれない。 
 だからといって、「おやすみ」と言って部屋を出ていった司を呼び止めるわけにもいかなかった。
 いくら婚約者で、…以前は彼の子供を妊娠していたのだとしても、今の彼女にはそんな記憶はないのだし、とてもではないが身も知らない男と同じベッドに眠るなどということはできない。
 よもや襲われることはないだろう。
 言動は荒いが、貴族的な美貌を持ち、年齢に見合わぬ紳士的な少年である司が、そんなことをするはずがない。
 理性ではそうは思うのに、だがなぜか心の奥底では真逆のことが疑ってしまう。
 …だって、男の人ってそういうものだよね?
 ごく常識的な認識だとは思うのに、それが単なる常識などではなく……身震いしてしまう何かを伴って彼女に実感として感じさせていた。
 記憶もないのに実感というのもおかしな話だったかもしれなかったが。
 居間にたがわず天蓋付きの広くて美しいベッドも、豪奢にデコられた鏡台も、いくつもの家具も何もかもが童話の世界のお姫様の住まいそのままの美しさだというのに、この奇妙な恐怖感はいったいなんなのか。
 泥のように重たい体はまだ流産の影響か、おそらく眠りを欲していて、こうして静かな空間にいると賑やかな時に忘れていられる下腹部の疼痛がよけいにひどくなった気がして、眠れないことが殊の他辛かった。
 それ以上に、このままここに留まっていることが耐えられず、どこか息苦しさしえも感じ始めている。
 …ああ、どうしよ。
 ソロリソロリと体に響かないようにと、ゆっくりと体を起こす。
 ズクリと響いた身体の奥に響いた痛みに顔を顰めて、手で下腹部を押さえる。
 人一人を失った痛み。
 まったく実感はなかったが、そういうことなのだ。
 …ここに赤ちゃんがいた。あの人とあたしの子供が。




web拍手 by FC2


関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0899】へ
  • 【愛してる、そばにいて0901】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0899】へ
  • 【愛してる、そばにいて0901】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク