「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0899

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 「じゃ、今夜23時に………フゥ」
 電話を切り、司は、一つ大きく息を吐き出した。
 自分が今、不確かで危険な船に乗り込んだのを自覚し、気持ちを引き締める。
 これまで彼は親や家に反発しながら、それでも自分が生まれながらに持っているものを捨ててまで何かを欲するということがなかった。
 おそらくこの目論見が失敗したとしても、彼の身の上にはほとんど変化がないだろう。
 ただ一つ…彼がこれまでの人生で唯一欲したものが、永遠に失われるというだけのことで。
 だが、今はそれが何よりも恐ろしい。
 なくして惜しいものなどなかった彼が唯一失いたくない、いや手に入れたいものを手に入れる為に踏み出したこの一歩が果たして正しい道なのか。
 …いや、正しいはずもねぇか。
 たとえ間違っているにしても、それでもこの道を選ばずにはいられなったのだから、もはや彼に迷うことなど何一つあるはずもない。
 今通話を切ったばかりの携帯電話をベッドサイドのサイドテーブルに投げ出し、腰掛けていたベッドに大の字に転がる。
 とりあえず面倒な姉や母親からの通話を着信拒否に設定し、必要な連絡はメールから受け取ることにしたが、おそらく今頃、そんな彼に椿は怒り心頭なことだろう。
 これまでもウザったい時には何度か着信を無視したことがあったが、その度に速攻自家用ジェットを飛ばしてでもやってきて張り倒されたものだ。
 だが今回、自分でやって来ずに親友たちを派遣したということは、今彼女が動けないということを指し示している。
 これを天の配剤と言っても良いものか。
 誰よりも彼を阻止できる存在である母親が会議で足止めをされ、姉もまた来日できない状況。
 総帥である父がそう簡単にアメリカを離れられないのは当然のことだが、それ以前に、ここのところ悪化していた体調がさらに悪化していることが、密かに司の耳にも入ってきていた。
 ―――近いうちに、あなたにもNYに来ていただきます。
 いよいよ危ないのかもしれない、といった予感めいたものがある。
 高校を卒業したら、NYへ。
 いや、それ以前にも何度か打診されていたのは、おそらくそうしたことが大きく、また石油関連の巨大財閥との縁組も、年若い司に、父に代わる新たな道明寺家を率いる次期総帥としての足場を築かせる目的であるに違いなかった。
 道明寺財閥の後継者であることは司にとって当たり前のことで、いまさらそれを継ぐの継ぎたくないの、という意識はなかった。
 自分が道明寺財閥を継ぐのは自明の理で、誰にとってもそうであるように、彼にとって自分=道明寺財閥であることはそれだけ自然のことだったのだ。
 だが、そこにつくしという異分子的存在が入り込んだ。
 彼女はあまりに道明寺家にとって、……司の人生にとって隔たった存在であり、本来ならば関わるべき人間ではなかっただろう。
 けれど、出逢ってしまった。
 道明寺財閥の歯車の一つとしてではなく、一人の意志を持つ人間、意志を持って彼が彼として、一人の‘人’として生きるために必要不可欠な存在。
 どうしてそこまで自分が彼女に入れ込んでしまったのか、自分でも不思議なくらいだ。
 けれど、
 …理屈なんてどうでもいい。
 つくしでなければダメだと、彼の本能が叫んでいる。
 それならばやるしかないのだ。
 目に力を漲らせ、勢いをつけ、体を起き上がらせる。
 そして、サイドテーブルの引き出しを開け、携帯電話…ではなく、数日前に忍ばせておいた特徴的なビロードのケースを取り出した。
 本当は、一昨日…パーティから帰って、星月館のイルミネーションの前でつくしの指に嵌めるつもりだった物。
 パチリと開けたケースの中で燦然と輝くダイヤモンドは、彼の目にはつくしのように映る。
 稀有なる彼の宝物。
 これまで誰一人としてその目に映すことがなかった彼が、無数の砂の中からたった一つ見つけた宝石。
 けっして派手ではなく、華やかでもなかったけれど、誰よりも強い輝きを持って彼の魂を貫いた。
 恋という名の矢を持って、けっして消えない彼女の名前を刻み込んだのだ。
 「……戻らねぇと」
 他人を怖がっているつくしを、親友たちとはいえ今の彼女にとって初対面の人間たちの前に置き去りにしてきてしまった。
 …類。
 以前だったら、たとえ他の二人がいたとしても、類がいるところへつくしを残してくることなど考えられなかっただろう。
 あるいは、もし総二郎とあきらがいなかったなら、今もつくしを置いてきはしなかった。
 だが、おそらく自分は確かめたかったのかもしれない。
 今のつくしにとって類はもはや重要な存在ではなく、…たとえそこに彼がいたとしても、もはや特別な人間などではないのだ、もう彼女を奪われる心配をする必要などないのだ、と。
 けれど、同時に、
 …あいつが、記憶をなくしてもなお、俺ではなく類を選ぶのなら。
 そうしたなら………。
 パクンと蓋を閉め、司は握り締めた指輪のケースをスラックスのポケットへと突っ込んだ。




*****




 「あいつだって、中学時代はなんだかんだ女ともそれなりに上手くやってたんだぜ?キスくらいは、けっこうしてたし…てっ、いってぇよ!あきらっ」
 「………昔のことだろ?」
 総二郎があきらの蹴りを受けて抗議する。
 が、あきらの視線の先のつくしを見やって、得意げに喋っていた総二郎も慌てて方向修正を図る。
 「あ~そうそう、あくまでも昔の話ね。なっ」
 「ああ。今はそういうのはいつの間にかアホらしいとか言って、やめちまったからな、司は」
 「クラブで俺らと遊んでも、クソツマンネー顔して座ってるだけで、女には見向きもしねぇし、いつの間にか妙に潔癖になっちまって、マジ、牧野が現れるまで女に興味の欠片も示さなかったもんな」
 「それが結婚かぁ。俺らも、さすがに驚いたけど、そんだけ牧野にマジってことなんだよな」
 いつの間にそんな話になったのか、総二郎の与太にあきらもあれこれと相槌をつきつつ、微妙に司がつくし一筋であることをアピールするようなセリフを付け加えるのは、おそらく彼らなりの援護射撃で、たしかに元々はつくしが司のひととなりや自分との馴れ初め的なことを辿たどしくも尋ねたことがきっかけだったのだが、聞かされるつくしの方は二人の会話に参加することはもちろん、どう反応すればいいのか困って、曖昧に首を傾げているだけだった。
 類はといえば、それこそ彼の方がつまらなそうな顔で二人のやりとりを見ているだけで、話の内容には一切関心を示すことなければ、つくしにもう話しかけてくることもなかった。
 『結婚するの?』
 …そんなことわからない。
 左手にハマった高価そうな指輪を眺めて、つくしは唇を噛み締めた。
 この指輪が婚約指輪なのだろうか?
 たしか司の左薬指にも対のデザインなのだろう、揃いらしい指輪がハマっていたが、まさか結婚指輪ということもあるまい。
 目覚めた時から、何もかもがわからないことだらけで、自分の婚約者だという男が言うことが本当かどうかさえもわからないのに、自分の未来のことなど考えられるはずもない。
 ガチャッ。
 「おっ」
 「司」
 「……………」
 司が戻ってきた気配に、つくしも顔を上げ入口へと視線を向ける。
 司はつくしだけを見ていた。
 いや、一瞬流された視線が類を見て、そしてホッと安堵したように見えたのは気のせいだったのか。
 「お前らもう帰れ」
 「なんだよ」
 「こいつの家族が、こいつに会いに来てる」




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