「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0897

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 「俺らは、お前ら姉弟の使いッパシリじゃねぇつーの」
 ボヤく総二郎の愚痴は、幼馴染みたち全員の心情だったようで、普段はめったに会話に加わらず集まってもほとんど寝ている類ですら、うんうんと頷いている。
 いや、類はこの場にやってきてからずっと寝てはいなかった。
 何食わぬ顔で、興味の欠片もないようなフリをし続けていたが、彼が強烈につくしを意識しているのは司にも感じられた。
 いつも感じる嫉妬と焦燥…それらがまったくないとは言わないが、それでもいつものように頭に血が昇らず、そんな恋敵の存在を司が許容できているのは、あきらかに今隣に座っているつくしの関心が自分以外、他の誰にも向けられていないのが余裕となっていることを、誰よりも自分が自覚している。
 …牧野が類を見ていない。
 それどころか、まるで司以外頼るべき人間がいないかのように。
 ―――いや、実際にそうなのだ。
 つい昨日生まれたばかりのようなつくしにとって、司以外に見知った人間も馴染んだ人間も、この世のいない。
 あるいは彼女が落ち着いてくれば、少しづつでも周りに心を開いたかもしれない。
 だが、馴染む間もなくつくしを病院から連れ出して、また再び自分のテリトリーに連れ込んだのは、誰でもない司自身。
 「………しかし、記憶喪失とは。治る見込みは?」
 「わかんねぇ。医者にもしても稀なケースすぎて、何一つ確かなことは言えねぇらしい」
 「まあ、医者っつーものは、命が関わる病に関しては熱心になるもんだけど、そうじゃない病はな。そういう研究も進んでないっていうこともあるんだろうが…。で?どうすんだ、これから。さすがにこの状態の牧野を、ここに置いておくのもなんだろ?親元に帰すのか?」
 あきらのもっともな問いかけに、ビクリとつくしの肩が揺れ、司がその頼りない肩を抱こうとして思いとどまり、ギュッと自分の膝に拳を握っているつくしの手に手を重ねて優しく握ってやる。
 そんな彼の行動を見ている幼馴染みの視線を意識しながら、ハッキリと否やの意思を込めて司は首を横に振った。
 「いや」
 「いやって。牧野だって、このままの状態じゃ心細いだろ」
 「もちろん牧野が記憶を取り戻せる時まで、全力で俺が支える」
 その日が一日後か、一年後のことなのか、はたまた一生記憶が戻らないのかは司にもわからない。
 だが、これまでの膠着していた彼女との関係を改善するチャンスではある。 
 自分たちが末期的な関係に陥っていたことは彼もわかっていないわけではなかった。
 けれど、最後の悪足掻きをする無様を認識しながら、それでも彼女を失えないのなら、今からでも努力するしかない。
 彼女が記憶を取り戻すその日まで、少しでもこれまでの償いを―――。
 …今度こそ、俺がお前を守ってやる。
 優しくする。
 真綿に包むようにして、誰よりも大切にしてみせる。
 そして、彼女が記憶を取り戻したその時には、足元に額づいても見せよう。
 だから……。
 …俺を赦してくれ。
 赦すはずがないという理性の声を無理矢理に捩じ伏せる。
 だが、
 …西田が来る。
 そして、おそらく近いついに姉の椿も。
 八方塞がりの自分が今取ろうとしている行動が、彼女に赦しを乞うという決意とは真逆であることも心のどこかでわかっていながら、それでも今唯々諾々と運命の裁きに従ってしまえば、もう二度と彼女と会うことすら叶わなくなるだろう。
 誰が許しても、司の親が、道明寺家が許しはしない。
 揺れる不安そうな目で自分を見上げてくるつくしに、安心させるように小さく微笑む。
 「結婚するって前にも言ってあっただろ?……俺はこいつと結婚する。誰が何をどう邪魔したって、俺は絶対にこいつを離さない」
 …いつの日か、再びお前がすべてを思い出して、俺の下を去りたいと願うその時まで。
 だが、彼女がそんなことをもう望んだりしないように、彼と共にいたいと願ってくれるように。
 …俺は、お前を大切にする。だから、
―――愛してる、そばにいて。




*****




 …結婚?
 つくしはこれまで生きてきた人生のすべてを忘れ去っていたが、それでもそれは自分に関することだけで、言葉の意味や身につけてきた一般常識の類や習慣は息を吸うことと同じように理解できる。
 問われれば、現在の総理大臣は誰で、年号がいつなのかも答えられるだろう。
 だからもちろん、司が言う『結婚』の意味もわかっていた。
 けれど、
 …結婚だなんて、そんな。
 たしかに今、彼女はこの目の前にいる男を頼りにしていた。
 他に見知った人間がいない、頼れる人がいなかったからだ。
 それをこの目の前の男も、彼女に対して常に示してきたし、周囲の反応も概ねそうだった。
 彼女が目覚めてまだたった二日。
 自分のことに関しては、生まれたばかりの鳥の雛にも近い彼女に、その正否は判断しようがないのは当然だった。 
 しかし、理解力や意志の力までも失ってしまったわけではない。
 今の自分の状態にパニックの最中だった昨日―――病院で目覚めてしばらくのことは、本当に夢の世界のことのようで、あまりハッキリとは憶えていない。
 いや、夢の世界のように感じるのは今も現在進行形だった。
 だが、それでもこの二日間、いや、今日のうちの数時間、この目の前の男と過ごしているうちに多少の知識は得ている。
 彼が話してくれたし、医師とのやり取りの中で理解したのだ。
 自分は現在、英徳学園という学校の高校2年生。
 つい数ヶ月前までは両親と弟と4人で暮らしていたが、今目の前にいる‘道明寺司’という少年と恋人同士になって、この彼の家で一緒に暮らしていた。
 二人は婚約していたという。
 だが、ちょっとした諍いが元で喧嘩になって、屋敷を飛び出したらしい。
 しかし、折しもひどい雨の中、夜だったこともあって視界が悪く、引きとめようとした彼の目の前で階段の高いところから足を滑らせ転落し…………流産した。
 …流産。
 そこで初めてつくしが大きく目を見開く。
 嘘ではないだろう。
 今もジクジクと痛む下腹の奥の疼痛や貧血症状の重い体が彼の言葉の正しさを後押ししていた。
 いまだ出血も続いていて、あるいは‘生理’によく似た症状ではある。
 しかも、ほとんど服に隠れていはいるが、開襟衿から覗く彼の胸元の目にも痛い真っ白な包帯が、彼が彼女を庇って怪我をしたという周囲の言葉の証明だった。
 …あたしがこの人と恋人同士で、一緒に暮らしていて、………そういうこともしていて、妊娠していた。
 それだけでも驚きなのに、打撲が原因で流産してしまっただなんて…。
 信じられない、というよりも信じたくないというのが一番のところだった。
 だが、本当のことなのだ。
 しかし、嘘ではない証明をいくつ突きつけられても、なぜかすべてがまやかしのように感じるのはなぜなのだろう。
 …この人が婚約者。
 そして、彼女が記憶をなくしてもなお、彼女と結婚するという。
 手を優しく包み込むようにして握ってくれる彼の大きな手が温かい。
 温かい……と思うのに、なぜかそれがゾッと厭わしくも感じて、彼女は今二つの感覚と不可思議な情動と戦っていた。
 そんな彼女の様子に気がついたのか、友人たちと話し込んでいた司が怪訝に彼女の顔を覗き込む。
 「おい、どうした?具合が悪いのか?」
 「……あ」
 ♪゜・*:.。. .。.:*・・・・・・・
 「司、電話。姉ちゃんからじゃねぇの?」




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~ Comment ~

こ茶子さん、こんにちは♪
「結婚」。司の恋は執着でなく本気の恋と思えるようになったかな。
『愛してる、そばにいて。』、と司が思うとき、いつも胸が詰まるような悲しい祈りの言葉ですね(泣)

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