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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0896

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 つくしが類を見ているのに気がついた瞬間、司は彼女に怒声を浴びせかけてしまっていた。
 だが、これまでとは違ったのは、瞬時に顔色を青ざめさせ、彼を怖じけた目で見ているつくしの様子にも気が付けたことだ。
 このまま何の罪もなく何も知らない彼女を詰って罵ってしまえば、これまでの二の舞、彼女が記憶をなくす前と同じことの繰り返しになってしまう。
 嵐のように心のうちで荒れ狂う激情を決死の思いで、宥めすかす。
 いつの間にか拳の形に握ってしまっていた手を開いていは握って、再び開くことを繰り返し、長く吐き出した息と共に熱くなってしまっていた自分自身を必死で収め、司は努力する。
 できるだけ優しい声音を、穏やかな言葉を選べるようにと。
 「………よ、横になってろよ」
 「え?」
 「医者に言われただろ?数日は、なるべく起き上がったり歩いたりせずに、ベッドや椅子で安静にしてろって」
 虚をつかれたような顔でぼんやりと彼の顔を見ている彼女へ無理に微笑んで、ポンポンと軽く頭を二、三度撫でる。
 そして、そんな自分たちを見守っている幼馴染へと向き直った。
 「急に入ってくんなよ」
 「……いや、わりぃ」
 「ああ、悪かった」
 事情がわからないながら、それでも二人の間に流れていた雰囲気に飲まれたように、総二郎とあきらが視線を交わし合い、謝罪してくる。
 その横で眉根を寄せ立っている類の目は、司ではなく、司の後ろで小さくなって俯いてしまっているつくしを見ていた。
 だが、すぐに自分を睨む司の視線に気がついたのだろう。
 つくしから視線を外して、司へと視線を向けて、相変わらず何を考えているのかわらかない顔でジッと彼の顔を見据えてくる。
 誰もが司の視線を真っ直ぐには受け止めることはできないのに、姉の椿や彼ら幼馴染みと、そして、彼が捕らえてしまう以前のつくしだけは違ったのだ。
 司の怒気が緩んだのを見計らって、類との間に入るようにして、総二郎とあきらが歩み寄ってくる。
 「牧野はまだ体が本調子じゃねぇんだよ。あんま長居すんな」
 「お前が庇ったんだろ?牧野もどこか怪我してんのか?」
 総二郎がつくしを覗き込もうとしてくるのを遮って、つくしが蹲っているソファとは別のソファへ顎をしゃくって、一同を座らせる。
 「立ち話するようなもんでもねぇだろ。とりあえず座れ」
 「了解」
 「ああ」
 「………」
 三人三様、司とつくしが座るソファを取り囲むようにして、総二郎とあきらが対面側に、類が一人がけのソファへと腰を下ろす。
 ちょうど5人が座ったタイミングで、ドアがノックされる。
 いつも幼馴染みたちが勝手知ったる他人の家よろしく司の屋敷に遊びに来る時の手順だ。
 一礼して、コーヒーや紅茶、簡単な軽食類を積載したワゴンをメイドが運び込んで、手際よく配膳してゆく。
 「あとは適当にやるから、いつもどおり呼ぶまで誰も来るな」
 「かしこまりました」
 それらを配膳させるとメイドたちを遠ざけるのもいつもの習慣だ。
 ただ一つ違うのは、彼ら幼馴染みたちが押しかけてくるのはこんな早い時間帯ではなく、たいがい夕食時かそれ以降、ハイ・ティー※以降が通常で、茶を飲むよりも酒が入ることが大半だった。
 司の体の影に身を縮こませるようにして、彼の体に身を寄せオドオドと周囲を見回すつくしの動作はあまりにも奇異だった。
 無言で司がつくしを見下ろすと、そんな彼の視線に気が付いて、掴んでいた司のシャツから手を離してしまいかけるのを、彼女の小さな手の上に手を乗せ押し留める。
 すると、その手に力を得たのか、つくしもシャツを離すのを辞め、あらためてギュッと握り直して俯く。
 …大丈夫だ、俺が守ってやる。
 そして、司の親友たちは、そんな彼女や司の様子に気がつかないような鈍感な男たちではない。
 メイドたちが退出すると、まずは総二郎を身を乗り出して質問してきた。
 「おい、なんだよ、牧野のその様子」
 「……………」
 「お前んとこの執事の話だと、牧野がエントランスのところのバルコニーの階段から足を滑らせて転げ落ちたのをお前が庇って、お前は肋骨折ったけど牧野の方は大した怪我しないで済んだって聞いてたんだけどな?」
 「…顔色が悪いのは前からだけど」
 司の顔を窺うあきらの顔は、あきらかに怪訝そうな総二郎や、一見無関心を貫き無表情な類とはまるで違っている。
 それもそうだろう。
 つくしが自殺未遂を引き起こす引き金になったのは彼の言葉だった。
 けっしてあきらのせいではなかったが、彼がつくしの妊娠を言い当ててしまったことで、結果的にこれまで司が隠していた妊娠の事実をつくしに知らせてしまったのだ。
 あきらの顔が言っている。
 …赤ん坊、大丈夫だったのか?
 司がつくしに堕胎させるつもりなどなかったことは、彼も察していただろう。
 だが、今はたとえ親友たちとはいえ、そんなごくプライベートなことをつくしの前で赤裸々に暴露するつもりは司にはなかった。
 しかし、だからといって、何でもないと言って今のつくしの様子から納得するはずもない。
 「司、お前、肋骨やっちゃってるよね?」
 「……ああ」
 類の指摘に、総二郎とあきらの視線が司のシャツの胸元へと集まる。
 だが、コルセットをしているとはいえ、ごく簡易なものでシャツの上からではわずかに胸に厚みが増した程度で、一見したところではわかるものでもないはずだ。
 だが、類は観察眼が鋭いところがあって、そうして度々幼馴染みたちが隠していることも容易に暴くことがある。
 類に何を見透かされようと、これまで鼻で嗤うだけで気にしたこともなかった司だったが、いまだけは心のうちを悟られたくなかった。
 類につくしを奪われまいと、無様にあがいて姑息な策を弄してプライドを捨てた自分を、この男と―――つくしだけには知られたくなかった。
 「ヒビ?」
 「いや、完全骨折」
 「ああ、まあ、以外に肋骨は簡単にポッキリいっちまうからな」
 どういう状態での怪我かまでは詳しく知らないだろうが、それでも階段から転落したつくしを庇って…となれば、ただですまなかったのは幼馴染みたちにしても容易に想像できたらしい。
 そこで初めてつくしがピクリと反応して、司たちの会話に興味を示したように顔を上げる。
 もちろん司ばかりではなく、総二郎たちも気がついただろうが、先程からの彼女の様子からあえて話しかけるのを控えて男たちだけで会話を続ける。
 「で?肋骨折って二晩入院していたお前はともかくとして、見たところ大した怪我をしていない牧野が入院していたのはどうしてなわけ?」
 チラリと類が走らせた視線の先の車椅子を、総二郎も不審げに見やる。
 あきらだけは心当たるのか、顔を顰めただけで何も聞いてはこない。
 「………頭を打ったのかもな」
 「「「……………」」」
 とりあえず目覚めたつくしにその兆候はなかったし、検査の結果からも彼女の記憶喪失はおそらく外傷的なものではなく、多大な精神的なストレスが原因で、そのストレスの原因であるのは司自身だったに違いない。
 「かもなって、お前な」
 「全部、忘れちまってる」
 「……は?」
 「なに?」
 「………?」
 皆の視線が自分に集まるのを嫌って、つくしが再び彼らから顔を背けて顔を俯けてしまう。
 「俺のことも、自分のことも、……生まれてからこれまでの記憶が、こいつの中から全部抜けちまったらしい」




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※ハイ・ティー…夕方6時ぐらいから夜にかけて行われる夕食を兼ねたお茶会。菓子やサンドイッチなどの軽食の他、肉料理・魚料理なども出され、紅茶やアルコール類と共に楽しむ。
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~ Comment ~

少しづつ

こ茶子さん、こんにちは♪
>だが、これまでとは違ったのは、瞬時に顔色を青ざめさせ、彼を怖じけた目で見ているつくしの様子にも気が付けたことだ。
「司くんすごいね!」 程度かもしれませんが、少しづつですね。
悲しい恋ですね。

椿と西田が来る前にと司が仕掛けたのは何なんだろう。

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