「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0895

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 手を差し伸べられ、その手に手を乗せ、車の外へと司に連れ出されるとそこは別世界だった。
 あらかじめ運転手が用意していたのだろう、車椅子が置かれていて、そこへ座るように促される。
 ここが、今彼女の手を掴んで支え傍らにたつ男の家で、以前の彼女も一緒に暮らしていたと聞いていたが、とてもそれが本当のことだとは思えない。
 …宮殿みたい。
 ポカリと口を開けたまま、唖然と周囲を見回す。
 この長大なリムジンを見た時にもギョッとしたが、それ以上の驚きだった。 
 だが、やはり男―――司の言っていることは嘘ではないらしく、驚きはしたが、この車に見覚えがあった気がしたし、車が敷地に入った時も国立公園や、美術館や博物館の園庭の類ではなく、
 …ああ、もう着いたんだ。
と、自然に認識できた。
 ただつくしの中では今、二つの感覚があって、一つはこうした車や家に驚きを感じている一方で、そうした車や家もあることを自然に納得している。
 「行くぞ」
 司に車椅子を押され、使用人たちがズラリと立ち並ぶ花道を通り過ぎる。
 通り過ぎるごとに会釈されるが、どの顔にも見覚えがない。
 彼女もここに住んでいたというのなら当然彼らとも顔見知りには違いなというのに。
 運転手もそうだ。
 つくしの顔を見てあきらかにホッとした顔をしていた。
 会釈されて、返すべきだと彼女の常識が彼女の頭を反射的に下げさせたが、話しかけられることを恐れてすぐに司の影に隠れずにはいられなかった。
 だが、運転手は何も話しかけては来なかった。
 花道を作っている使用人たち同様。
 だが、それがここでは当たり前のことなのかもしれない。
 「お帰りさないませ」と言ったっきり頭を下げ続ける使用人たちなどまるで彫像か、そこに最初から誰もいないかのように、平然と無視をして通り過ぎる司を見ているとそんな風に思えてくる。
 まるで迷路のような広大な建物内部を迷うことなく歩き過ぎた司が、一つのドアの前に立って扉を開く。
 「………お前の部屋」
 思わず無言で彼の顔を見上げていると、なぜか小さく笑われて、そのまま車椅子で中まで連れて来られる。
 お姫様のような部屋。
 それがつくしの第一印象だった。
 もしここが本当に自分の部屋だというのなら、懐かしさを感じそうなものだったが、そんな不可思議な感慨を覚えてしまう。
 「そっちの扉の向こうが、寝室。こっちがバスとトイレ」
 まるでホテルの部屋のようにいくつもの部屋が続きになっていて、どうやらその全てまるごとで彼女の私室ということらしい。
 「で、向かいが俺の部屋」
 今入ってきたばかりの背後のドアの外を、親指で指差す。
 「……………」
 「ま、最近じゃ、ほとんどこっちで寝起きしてたから、めったに使ってねぇけどな」
 「っ」
 思わぬセリフに、驚愕してしまう。
 「え………」
 「とりあえず、一休みしようぜ。あとでこっちの方に、お前の親が様子見に来ることになってるし、もうすでに面倒くせぇ連中が手ぐすね引いて待ってるからな」
 ハァとため息をついた司の顔は憂鬱そうだ。
 「あの……」
 なんと尋ねて良いのか迷って口ごもる彼女の傍らに、突然司が屈み込む。
 驚いてビクッとする彼女に頓着することなく、車椅子の背もたれと彼女の背の間に片腕を入れ、もう片方の腕を彼女の膝裏に差し込み、上目遣いに見上げ指示を出してくる。
 「抱いて運ぶから、首に腕回せ」
 「ええっ、いえ、…歩いくので」
 それくらいできるはずだ。
 病院では安静を言い渡されていたから、車椅子での移動はやむを得なかっただろうが、さすがに歩くことができないほど重症だったのなら、退院も許されなかったはずだ。
 が、
 「いいから、安静にしてろって言われただろ?」
 ため息をついた司が、いったん彼女の膝裏に差し入れていた腕を抜き、躊躇している彼女の腕をとり強引に自分に回させてしまう。
 ふわりという浮遊感と、あまりに自分の視線とは違いすぎる高さに恐怖を感じて、小さな悲鳴を上げ慌てて司の首に回した腕に力を込めてしがみつく。
 「ひやぁっ」
 「ぷっ、なんだよ、その反応」
 ついというように、司が噴き出した。
 …笑った。
 さっきも笑っていたが、これまで司が見せる笑みはどこか昏い自嘲的なものか、ホンの少し口角を上げる程度のものだったのだ。
 それなのに、今司が見せている笑みは年相応に明るく無邪気なもののように見える。
 隙のない美形なだけにことさら冷たく見える司だったが、そうやってクツクツと笑っていると、それだけで取っ付きにくさがグッと和らいで見惚れてしまうほどに美しい。
 正直、今のつくしは彼の容姿どころではなかったが、今初めて彼が見たこともないほどの美形であることにいまさらながらに気がついた。
 …綺麗な人なんだ。
 司が美しいのは顔立ちだけではなく、スラリと伸びた長身や抜群のスタイルは日本人離れして、それこそとても同じ人間などとは思えない。
 その上こんな豪邸に住んでいるお坊ちゃまで、たくさんの使用人に囲まれているような人が自分の婚約者などと言われてもにわかには信じられなかった。 
 まるでフワフワとした夢の中に漂っているような感覚が、この屋敷にいるとなおいっそう強くなる。
 それに…。
 「ソファでいいか?」
 「……あ、はい」
 「一眠りしたいならベッドに運ぶけど?」
 首を横に振って、司の提案に断りを入れる。
 「ま、そうだな。ヤツらももうすぐこっちに押しかけてくるだろうし…その方がいいっか」
 「ヤツら?」
 「俺のダチ。会いたくないか?」
 会いたいか会いたくないかと言われれば、まったく会いたくない。
 今の彼女にはまるで知らない相手だ。
 ソファに腰掛けている彼女の足元に片膝をついて座っている司が、彼女の顔をジッと見上げていた。
 その目に浮かぶ光は不可思議な感情を秘めているようで、なぜか彼が彼女への問いかけ、彼の友達に会うことを拒否して欲しがっている気がするのは気のせいだろうか。
 「……会わないでもいいんですか?」
 「ああ、好きにしろよ?」
 だが、彼は言葉にしてはそうしろと指図しない。
 強引なようなのに、なぜか司は彼女を窺うように見て、常に彼女の反応を確かめているようだ。
 「それなら…」
 …会いたくない。
 誰であろうとも
 あとで訪ねてくるという彼女の家族にも正直会いたい気持ちがまったくなかった。
 つくしが首を横に振って、断ろうとしたそのタイミングで、
 コンコンッ、バ~~~ンッ!!
 「おう!!司、いくら退院したからってすぐにエロいことしてんじゃねぇぞっ!」
 「お前な、俺らが待ってること知ってるんだから、さっさと自室になんか引きこもってんなよな」
 ノックに応じる間もなくドアが開き、司に負けず劣らず長身の男二人が飛び込んでくる。
 「……チッ」
 舌打ちして立ち上がった司の身体に彼らの姿がつくしから遮られる。
 が―――、
 「ふぅ。…階段転げ落ちたって聞いたけど、どうみても全然元気そうじゃん。それならそうで、さっさと姉ちゃんからの電話に出てよ。司が着拒してるもんだから、ガンガンこっちに電話入れてきて、オチオチ寝てられないんだけど」
 第三の男の声が割り込む。
 ―――お金で買えない物ってあると思う?
 頭の奥のどこかで、なぜかそんな自分の声が聞こえて、つくしはそっと耳を澄ませた。
 すぐにその声に応えて、今聞こえたばかりの柔らかな男の声が返事を返す。
 『空気。………クスッ、変な女』
 …見つけた。お金で買えないもの。
 それは………。
 「おいっ!」




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