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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0894

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 結局、司は、翌日早々につくしを同伴して病院を退院した。
 司の怪我は大怪我ではあるが、とりあえず自然治癒が大半の治療で本人が了承すれば入院している必要性はなかったし、つくしの方も一眠りした頃合に再び多量の出血があって、つい前日の騒ぎの記憶も鮮明な司を慌てさせたが、流れてしまった胎児の残る部分だったらしく、診察した産婦人科医によって‘完全流産※’と診断され、退院の許可が出たからだ。
 つくしの場合は大量出血を起こして一時期は生死の境を彷徨ったとはいえ、通常、即日退院も珍しくない。
 それでももう一晩様子を見させ、病院に二泊させたのはやはり彼女自身の衰弱や、大量出血の影響を危惧してのことだ。
 もちろん、司が望めばそのまま数日程度つくしを入院させておくこともできた。
 だが、西田が来る。
 病院の方が何かと親に報告されずに動きやすいのは確かだったが、反面いくら子飼いである道明寺系列の病院であるとはいえ、屋敷ほどには司が好き勝手できるものではなかった。
 …西田が来るまでが勝負か。
 さすがに楓に同伴してヨーロッパにいる西田が即日日本に来日することはできなかったようだが、それでも楓の生え抜きの秘書軍団の中でも特に片腕と呼ばれる優秀な男だ。
 自分が不在の間の楓のサポートや各所の手配、またまさか西田ほどの男がいくら財閥の後継者とはいえたかが学生一人のお守りの為に遠路はるばるやってくるはずもないから、何かしらの仕事と絡め一両日中には、日本へと出立してくるだろう。
 それは明日になるか、あるいは明々後日のこととなるか。
 あまりに時間が足りなすぎる。
 当面とはいえ出来るだけ長く使用人たちの口を塞ぐ為には、西田が来訪したその時に自分も屋敷にいる必要があったが、その隙につくしを奪われないも限らない。
 あるいは、今時計の振り子のように揺れているだろうつくしの両親が、いきなり正気とやらに返ってつくしを奪還してゆかないとも限らなかった。
 さすがにいくら司でも、治外法権的な屋敷の敷地内でもない場所で、つくしの保護者である彼女の親を締め出すことなどできるはずもなく、眼前で堂々と連れ去ることなど問題外だ。
 ふと感じた視線に、顔を横に向けると、リムジンのシートに隣り合って座っているつくしが、ジッと彼の横顔を何か言いたそうに見上げていた。
 それだけで自然に小さな笑みが浮かんで、意識せずとも柔らかい声音が出た。
 「どうした?何かして欲しいことがあるのか?」
 まさか気分が悪いのではないかと、つくしの頭のてっぺんから座っている腰のあたりまで、視線を一巡させ、昨日よりはるかに顔色が良く、いまのところどこか苦しそうだったり痛がったりしていないようなのを確認して、ホッと安堵する。
 「何か飲み物でも飲むか?」
 それほど長時間の乗車時間ではないからと飲み物を出してやっていなかったことに気がつき、ミニバーの扉に手をかける。
 だが、つくしは首を小さく横に振り、…だが、それだけでは通じないことに気がついたのだろう、おずおずと遠慮がちに小さな声で話しだした。
 「…あの、どこに、行く、の?」
 「ん?」
 「家に…帰るんでしょ?それ……って、昨日、夕方に病室に来た人たちの住んでるとこ…ろ?」
 辿たどしい質問が、どうやらつくし自身の退院後の進退を尋ねていることにやっと気がついた。
 …チッ、ちゃんと説明してなかったが。
 自身の思惑ばかりに気を取られて、彼女にしっかりとした説明を省いてしまっていたのだ。 
 「悪い。…不安だったよな?」
 そうだとは言わなかったが、彼女の冴えないその表情が肯定していた。
 「俺んち」
 「……え?」
 「お前んちでもあるけどな」
 目を見開いて驚いている彼女の顔にわずかな罪悪感が胸に沸く。
 …何をいまさら。
 「昨日言っただろ?俺はお前の婚約者だって。お前は俺んちでこれまでも一緒に暮らしてたんだ。だから、お前は俺と一緒に俺の屋敷に帰るんだよ」




*****



 司はつくしを屋敷に連れ帰るにあたって、まだ困惑の最中でロクに自分自身のことにも興味を持てないでいる彼女に自分は彼女の婚約者だと告げていた。
 さすがにいくら混乱しているとはいえ、明らかに肉親でもない彼が彼女の進退を決めてしまうのに、自分の立場をある程度説明をせざる得なかったのだ。
 それに、
 …本当のことだ。
 彼の中では嘘偽りのない話でもある。
 つくしは一晩を過ぎても、記憶を取り戻してはいなかった。
 それでも失語症に陥ったようだった様子も、時間が経過するごとに多少は落ち着きを取り戻したのか、ポツポツと返事を返し、口を開くようにはなっていた。
 ただし、それはあくまでも司限定のことで、医師や看護師たち、司が呼んだ使用人たちの問いかけには一切応じず、ただ首を振り、怯えては司の背中へと隠れてしまう。
 婚約者だとあらかじめ名乗ったのとも大きかったのだろう。
 彼女が司を頼るべき人間だと認識して、そうしてくれることがこの上なく嬉しい。
 だが、それでも時々怖じけたように不審さの滲んだ眼差しで彼を見ていることもあったから、完全には彼を信じているわけでもないのがわかる。
 …俺を信じてくれ。
 もう2度と傷つけない、苦しめたりはしないからと、司は出来るだけの心遣いと優しさで彼女に接していた。
 不安がっている、怖がっている彼女が可哀想だと思うのに、自分だけを頼っているつくしが可愛くて愛しくて…。
 どんな夢想にも登場することがなかった、けれどおそらく自分が真実望んでいた彼女がここにいる。
 …本当に?
 ―――あんたそれでもオトコなの!?やることが卑劣なんだよっ。
 …ふっ、まったくそのとおりだな。
 勝気で正義感で、威勢が良かった以前の彼女とは180度違う姿。
 どのみち彼が捕らえてしまってからの彼女は、少しづつ元の彼女ではなくなっていたのだ。
 まるで羽をもがれてゆく蝶のように衰弱していった彼女。
 そして、それをしたのが彼だったのだ。
 …どんなお前でもいい。
 どんな彼女でも、それが彼女であるというだけで。
 昨日のこと。
 一通りの検査を受け、医師の説明の後、つくしが一眠りしている間に病院の事務方から連絡を受けたつくしの両親が到着した。
 連絡させるべきか、黙らせておくべきか迷わなかったわけではない。
 それでもさすがにこれ以上、つくしを両親から遠ざけていることができなかったのだ。
 ―――家に帰りたい。
 記憶を失う前、何度となくつくしが訴えていた唯一の望みだ。
 扉をぶち破る勢いで、息せき切って飛び込んできた夫婦を出迎えた時、つくしはつかの間の眠りからちょうど目覚めたところだった。
 『『つくし!』』
 『姉ちゃん!』
 つくしの両親だけではなく、中学生の弟も同伴していたが、ベッドの上に体を起こしていたつくしはそんな彼らの勢いに怖気ついたのか、見るからに怯え出し彼らと対面を果たすどころではなくなってしまったのだ。
 『姉ちゃん、姉ちゃんっ!!』
 両親よりもむしろ、倒れた彼女を見るのが初めてだった弟の方が衝撃を受けたのか、傍らに座る司にさえ気がつかないくらいで、怖がって縮こまってしまっているつくしにも頓着することなく勢いのまま切迫した。
 『なんでこんなっ、いったいどうしたんだよ!?』
 駆け寄ってくる少年の姿になおいっそう恐怖を煽られたのか、つくしが小さく悲鳴を上げて蹲って震えだすのに、司が進とつくしの間に入って立ちはだかった。
 『待て、近づくな』
 『え?』
 『怯えてる。……少し落ち着けよ』
 そのあとはどれだけ宥めすかしてもつくしの様子は変わらず、進だけではなく晴男や千恵子にも同じありさまで、彼らが帰るまでそのままんまだった。
 当初は自分たちが連れて帰ると主張していた千恵子も、その様子では今日明日どうするとは言うことができず、結局また明日見舞いに来ると言い残し帰宅するしかなかったのだ。
 そして、一時は落ち着いていたように言えたつくしも、彼らが帰った後、夜寝入るまでもそのままで、両親が訪問する前までは司や病院関係者たちには多少怯えずに会話らしきものに応じるようになっていたというのに、また再び貝のようにダンマリを決め込んでしまった。
 涙の後が残る彼女の横顔には、やはりあいかわず笑顔がないことが、この上なく司の胸を塞いだ。




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※完全流産…胎内の胎児や付属物が完全に塊となって外へと出た状態。出血や下腹部痛が認められる。これに対する不全流産と異なり、子宮の内容物を除去する手術をする必要がない。進行性→完全流産であれば、特に処置の必要がない。ただし、ある程度週数が経っていた場合や出血量が多い場合は薬剤を処方されたりの処置もあり。どちらにせよ、あくまでもいつもながらの素人適当医学ですので、そこのところはご了承下さいm_ _m
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