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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0890

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 「…ん………」
 息を呑む彼の目の前で、小さな吐息のような声が、わずかに開いた彼女の唇から洩れ、何度か唾を飲み込むように喉が上下してもう一度喘ぐような掠れた声が聞こえた。
 「ぁ………んん………ここ?」
 ゆっくりとつくしの瞼が開かれてゆく。
 だが、わずかにカーテンの隙間から差し込んだ朝日の光に眩しそうに顔を顰め、すぐに目を閉じてしまう。
 まるでイヤイヤをするように二度三度と首を振り、ギュッと目を瞑ったまま、司の方へと顔を向け、今度こそ完全に目を開く。
 そして、そんな彼女を固唾を飲んで見守っていた司の姿をその大きな漆黒の瞳に映し出した。
 「目、覚めたか?」
 「あ……」
 まるで永遠に続くかのような一瞬だった。
 司を見たつくしの目が再び閉じて、…今度は嫌悪と憎悪の叫びが彼女の口から上がるのを待つ。
 だが、
 「……あ、たし?」
 茫洋とした視線は定まらず、司を見ているようなのにその目には何の感情も浮かばない。
 ただただ不思議そうな顔。
 …まだ完全に意識が覚醒してねぇのか?
 死の淵から這い上がったばかりで弱っている彼女をけっして刺激しないように、驚かせてしまわないように、司が意識して優しい穏やかな声を心がけて彼女へと言葉をかける。 どうせすぐにでも、彼へと怨嗟と憎悪の眼差しを投げかけ、怒りに顔を歪ませ罵声を浴びせかけてくるのだろうことがわかってはいたが、それでもホンのわずかな時間でも彼女の心が凪いだままでいられるように、と。
 「どうだ気分は?気持ち悪かったりしねぇか?階段から……落ちた衝撃で………大出血起こして、つい何時間前まで意識不明の重体だったんだ。輸血と薬で改善してっけど」
 無言で司を見上げていたつくしが、その言葉に顔を顰め、彼の言葉の意味を確かめるように横臥したままの自分の姿を見下ろし、投げ出している自分の手から伸びる点滴の管を視線が辿る。
 何を考えているのかポツンポツンと規則正しく薬液を落す薬瓶をジッと見ているつくしの横顔を眺め、司は知らず知らずの内にすっかり詰めてしまっていた息を小さく一つ吐きだした。
 彼女が自分の言葉を無視することなどいつものこと。
 それでもそんなふうに彼女に拒絶されて、何も感じずにいることなどできるはずもなかったが、しかし、つくしにそうした態度をとらせてしまっているのは彼なのだ。
 容易に他人を許してしまうお人好しな彼女をそうさせてしまったのは彼自身。
 だからそんな彼女を微苦笑するだけで許容する。
 「ハァ……医者、呼んでくる」
 …俺はここにいない方がいい。
 わかっていたことだったが、少しでも彼女を見ていたかった…彼女が目覚めるその時まで待っていたかった自分のエゴをまたしても通してしまった。
 あれほど彼女が目覚めることを望んでいたというのに、これ以上この場に留まっていることに居た堪れない司は、自分の言葉に対する彼女の表情を見ないままに椅子を立ち上がる。
 が―――、
 「あ……、あっ、あのっ」
 咄嗟に自分の手を掴んで引き止めた小さな手を無言で見下ろす。
 彼女から彼に触れることなど、これまで一度としてなかったことだ。
 「…そ、その、待って…くだ、さい」
 あきらかな震えを帯びた声音での制止。
 まるで瞬間冷凍でもされたかのように司はその場を動くことができないでいた。
 …俺を詰りたいのか?
 しかし、司を呼び止めたつくしは意外なことに、彼が怖れた嫌悪でも憎悪でもない不可思議な光を帯びた目で彼を縋るようにジッと見つめていた。
 「あの、あ…あ、たし、なんでここに?」
 「……だから、いま説明しただろ?」
 「えっと、その…たしか、階段から落ちたせいで?」
 「ああ、そうだ。死にかけてたんだ。一時は生死の境を彷徨ってマジで危なかった。治療が効を成したから、今こうしてお前は俺と話してるわけだけど」
 「そ…うですか」
 つくしが頷いた。
 しかし、それは彼女が本当に聞きたかったことではないようで、さすがに‘生死の境を彷徨った’の件には目を見開いて驚いていたが、揺れる眼差しには理解が浮かばず、怪訝に眉根を寄せ顰めた顔は、言葉とは裏腹に彼の言葉にまったく納得していなかった。
 まるで見えない何かを探すように、あるいは記憶の奥底から呼び出そうとでもしているかのように、視線を彷徨わせている。
 …なんだ?
 「お前……」
 「じゃ、ここは病院…なんですね?」
 「……ああ」
 言わずもがななことだ。
 あきらかにストレスを感じているのだろう。
 仰向けにベッドに横たわったまま、つくしは点滴チューブの繋がれていない方の手の人差し指の腹に歯を当て、癇症に小さく何度も噛んでいた。
 これまでのつくしには見られなかった癖。
 いや、司が知らなかっただけで、これまでもそんなことをしていたのかもしれなかったけれど。
 自傷行為というほどのことではない。
 けれど、究極の自傷行為こそが自殺未遂で、つい昨夜彼女はそれをやってのけたのだ。 
 この先も、司が彼女の意思に反して捕らえ続ければ、つくしが自分自身を傷つけ苛む可能性はいくらでもある。
 彼女が傷つくのはこれ以上見たくない。
 そうでなくても、これまでさんざん彼が苦しめ傷つけてきたのだから。
 …もう、たくさんだ。
 「やめろ、…怪我をする」
 やめさせようとつくしの手へと手を伸ばしかけ、だが、それを厭うだろう彼女に司もすぐに気がついて、思い留まって言葉だけで制止する。
 そんな彼を不安げに何度も目だけで振り返って、視線を反らすことをつくしは繰り返す。
 「記憶が混濁してるのか?もしかして、階段を飛び降……事故の前後のあたりのこと、全然憶えてねぇのかよ?」
 ありえない話ではない。
 あえてつくしの図った事件を事故と取り繕う自分の欺瞞を自覚してながら、それでも今はまだ彼女の狂乱を再び呼び起こしたくはなかった。
 「……おい?」
 「憶えてない」
 「……………」
 つくしが噛んでいた自分の指から唇を離し、透かし見るように天井へと伸ばして、ぐっと握り締める。
 そしてその手を顔に押し当てて震える声音で、ポツリと呟いた。
 「何も、わからないの。………どうしよう」




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