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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0889

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 「っ」
 胸を差し貫いたのは、なけなしの罪悪感だったのか、それとも―――?
 極悪非道を自認する自分に、まだそんなまともな感性が残っていたとはと、司は我知らず自嘲する。
 司の顔色に何事か感じたのか、振り向いた千恵子が鬼気迫る顔で司へと迫る。
 「………まさか、本当にそうなんですか?そんなことありえないですよね?だってお腹に赤ちゃんがいるのに、そんな死のうとするだなんて、つくしに限ってありえない!」
 千恵子がパニックに陥っていることはあきらかだった。
 いくら危機は脱したとはいえ、娘が死に瀕していたのだ。
 「でも…この子、あんなに道明寺さんのことイヤがってた。やっぱり、この子はそんなにも道明寺さんのことがイヤだったのかしら?あなたと結婚するのがイヤだから、だから、この子は赤ちゃんもろとも自分を殺そうとしたってことなの?そんなまさか、でも、でも、でも…………」



*****



 興奮状態に陥ってしまった千恵子を連れ、晴男は司に一礼し病室を退出した。
 どちらにせよ、つくしの意識が戻らないことにはどうしようもない。
 そして、結局、なんだかんだ言おうとも、今の彼らは司に依存してしまっている。
 晴夫は勤めている会社もすでに首の皮一枚だけで繋がった状態で、司の口利きがなかったら真っ先にリストラ対象となっていたことだろう。
 現在彼らが住まう住まいさえも、司が融通したものなのだ。
 さすがに彼らが強請ってきたわけではなかったが、それでも受け入れたのだから同じことだっただろう。 
 よくいる手合いだ。
 司の周辺では珍しくもなく、彼にとっても特にそれで何を感じるほどのことでもない。
 けれど―――、
 …牧野の親だ。
 『あなたと結婚するのがイヤだから、あなたがイヤだから、この子は赤ちゃんもろとも自分を殺そうとしたってことなの?』
 「………っ」
 そうだ。
 つくしは自分を殺そうとした―――腹の中の司の子供ごと。
 彼を嫌い疎み、ただ逃れたいが為だけに死のうとしたのだ。
 そしてそれは半分だけ成功した。
 死のうとしたつくしは生き残り、意図せずともその道連れとならざる得なかった小さな命を犠牲にして。
 さすがに娘が死にかけたことは大きかったのだろう。
 一瞬の噴出の他はほとんど無言で、呆然と晴男と司のやりとりを見守るばかりだった千恵子が、これまでとは態度を変えてきた。
 夫の晴男よりもむしろ千恵子の方が司とのことに積極的であくまでも司に日和って来たというのに、その目には不信も顕だったのは気のせいではなかったに違いない。
 けれど、
 『ママ、失礼なことを言うもんじゃないよ。執事さんは足を滑らせてっておっしゃってただろ?』
 『………そうね』
優柔不断なだけに晴男にはまだ迷いがあったのか、彼が千恵子を宥めた。
 あるいは逼迫した家計の状況が、自ら目を塞ぎ耳を塞いで都合のいい方を信じたいという意識が働いていただけだろうが、そんな彼らの瑣末な事情は司にはどうでも良いことだ。
 どちらにせよ、晴男にせよ、千恵子にしても、今後の状況やつくしの状態次第ではいくらでも変節しえる。
 しかし、それでも死に瀕した娘をなおも自身の野心の縁だと、何も感じずにいられるほどには鬼ではなかったということなのだろう。
 『……つくしを、連れて帰らせて下さい』
 ハッキリと司との決別までは決意しきれてはいないようだったが、それでもほとんどイエスマンに近かったつくしの両親からのアクション。
 彼らがつくしの返還を強固に主張し、家に帰らせてくれと要求されればそれを拒否することなどできない。
 そして、それが果たされればおそらくもう二度と、つくしは自分のもとへも戻ってはきはしないのだ。
 …そんなのダメだ。
 しかし、今の司からは、彼ら夫婦を丸め込んでしまおう気力さえも失われていた。
 真実―――、彼女が失われようとしていたあの瞬間。
 けっして彼が手に届かない世界へと、彼女が飛び立とうとしたのを目の当たりにした彼に、もはや自身のエゴを押し通すことなどできようはずがなかった。
 …牧野。
 牧野。
 今の彼の脳裏を占めるのは、この前の前で昏々と眠り続けるただ一人の女だけだというのに、その女は彼と共に生きるくらいならばと、すべてを諦め死を選んだのだ。
 「ふ、ふ…はは、はははは」
 突然こみ上げた笑いを堪えることができずに、司は笑いだした。
 眠るつくし以外誰もいない病室で、笑う自分はいったい何がそんなにおかしいというのか自分でもわからないままに自分を嘲笑う。
 頬を伝う冷たい水滴が、涙などという脆弱なものであることなど決して認められないのに、それでもその涙が自分の罪をすべて洗い流してくれればいい…彼とつくしの子供を流し去ってしまった冷たい雨のように、忘却の彼方へと持ち去ってくれればいいと、司は狂おしく願い身悶えた。
 …諦められねぇ。
 お前をこんなにしても諦めらんねぇんだよ、俺は。
 どうしてだよ、と、自分で自分を責め罵る。
 けれど―――、ゴクリと乾いた口内にわずかばかり溜まった唾液を飲み下して、鼻を啜った司の虚ろな目には既に言葉とは裏腹な諦めが浮かんでいた。
 死はすべての無。
 自分を見てくれないくらいならばいっそ壊してしまえばいいとばかりにつくしを捕らえ、無理矢理に奪い……望みどおりに壊し、自分のものにした。
 肉体だけは。
 けれど、望みは叶ったはずなのに、心は乾いて、乾いてやっぱりカラダだけではイヤだと、心を欲した。
 …手遅れだったけどな。
 人は壊れてしまえばまた新しいものを買えばいいだけのおもちゃとはまるで違うのだと、いまさらながらに気が付くなんて、どれだけ自分はガキでアホだったんだと身につまされる。
 金さえあれば手に入らないものなどない。
 金で買えないものなどこの世に何一つもないんだと勘違いしていた。
 金で買えるものに欲しいものなど、何一つなかったのに。
 子供の論理を平然と掲げ、それを自慢げにひけらかし、振り翳していた自分の無知と傲慢を司は嗤った。
 …ああ、本当だな、全部お前の言うとおりだ。
 ―――バカにしないでよっ。わたしはお金で買える女じゃないわ。
 自分はなにもわかっていない、ただ親の庇護の下イキがって、だだを捏ねていただけで、好きな女に愛を乞うことすら学んでこなかったのだと。
 これまで彼は、神になど祈ったことがなかった。
 彼女の心が欲しいと願った時でさえも、そんなカタチもない不確かな存在に縋る気持ちにさえならなかったというのに、つくしが死に瀕した瞬間―――誰でもいいから彼女を助けて欲しいと、生きていてくれさえいてくれれば何もいらないと願った自分。
 「教えてくれよ。どうしたら、お前を諦められるんだ?」
 解放してやれるんだ?
 今もまだ、狂おしいほどに彼女を求めて、誰にも渡したくない自分がここにいるというのに。
 震える指先を伸ばし、さっきは一瞬で手を引っ込めてしまったつくしの頬に手の甲でそっと触れる。
 …温かい。
 つくしの母親がしていたように柔らかく触れ、傷ついている彼女を少しでも慰撫したいと彼なりの出来るだけの優しさを込め、何度も彼女の頬や髪を撫でる。
 あれほど顔色が悪く、まるで生きている人間の息吹を感じなかったつくしの肌に温もりが戻っていた。
 命の証。
 彼女がここにいて、生きて息をしている。
 …牧野、牧野、牧
 「……野、牧野、牧野っ」
 気が付けば心で唱えていたはずの彼女の名が、何度も何度も口から溢れ出していた。
 悲痛に呼びかける司の声が、ずっと彼が祈り続けていた何者かへと届いたとでもいうのか。
 深いクマを刻んだつくしの目の下に影を落としていた睫毛がわずかに揺れ、ピクリ、……ピクピクッと、瞼が震え出した。




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始まったばかり

こ茶子さん、こんばんは♪
10章が始まり、司に全く共感できず、『司のやつ!許せねぇ』としか思えない自分に、『過去編だからね。ただ粛々と受け止めるしかないのよね。』と思っていました。
が、司の現在の思い、「無生物から人間に、一人の女が変えた男の結果がここにある。」を思い出し、あっ、まだ人間になるスタートラインにも立ってないんだと気付きました。
10章は始まったばかりなんだ❢

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