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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0888

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 トントンッ、ガチャッ。
 「つ、つくし!?」
 いつの間にかパイプ椅子に座ったまま眠りこけてしまっていたらしい。
 上擦った声 音に、顔を顰めながら背後を振り返れば、常には自分の顔色ばかりを窺っているつくしの両親が、ベッドに眠る娘の姿にショックを受けたように棒立ちに病室の入口に立ち尽くしていた。
 頭をひと振り、眠気と共にぼんやりとした視界を振り払う。
 つくしの両親同様、常とは異なるキレのない動きで椅子から立ち上がった司の姿に、さすがに彼の存在に気がついたのだろう。
 ハッと彼を振り仰いで、とたん先ほどまでの勢いをあっという間に失い、気後れしたように後退った。
 「ご足労いただきまして…」
 「い、いえ、こちらこそウチの娘のことだというのに、すっかり遅くなってしまって」 夫婦はちょうど晴男の会社関連の付き合いで、同僚たちの家族とクリスマスパーティに参加していたらしい。
 つくしが病院に搬送されてすぐに第一報は彼らになされていたのだが、酒が入っていたこともあって、すでに帰宅していたにも関わらず彼らはその連絡に気がつかなかったそうだ。
 また、息子の進が友人の家に外泊していたことも仇となっていた。
 金に目が眩んでロクに事の善悪や現状を見ようともしない夫婦だが、さすがに自分の娘が土気色の顔色で病院のベッドに点滴に繋がれて眠っている姿はショックだったらしく、親らしい気丈さを取り戻している。
 あえて何をいいわけすることなく、司は黙ってつくしのベッドの前から退き、夫婦に席を譲った。
 「どうして、こんなことに…いったいなにがあったんですか?!」
 「…………申し訳ありません」
 いつもは晴男を尻に敷いて、率先して司におもねる風のある千恵子が、無言のままフラフラとつくしの傍らの椅子へと腰を下ろす。
 そして、つくしの青白い頬に手をあて、その冷たさに驚いたように手を退かせ、…ついで顔を歪ませる。
 「つくしっ」
 涙ぐんで口元を抑えた手とは反対側の手で、つくしの手を取って、その手に温もりを与えるように自分の頬にあてて嗚咽を溢した。
 意外だった。
 金にあざとく欲深で、それほど自分の子供に愛情深い人間には見えなかった千恵子のわが子への愛情。
 あるいは司に向けたポーズなのかもしれなかったが、彼の母である楓はそのポーズですら見せることがなく、おそらくつくしのことさえ発覚しなければ、今回肋骨を骨折した彼を見舞うことすらないに違いない。
 幸い肺や内臓には損傷がなかったから、特に入院も必要が無い程度の怪我だが、けっして軽傷とはいえない怪我だ。
 しかし、
 …俺が死にでもしないかぎり、たとえ危篤だって会議の方を優先するようなヤツらだからな。
 あるいは彼が死んだとしても、仕事を優先するのかもしれなかった。
 そうしたことが容易に想像できた。
 「……流産を、つくしは妊娠していたというのは本当のことですかっ?!そのことを道明寺さんもご存知だったんですか?」
 いずれまた医師から説明があるだろうが、とりあえずは未成年の司に変わって、治療に関する同意書にサインさせた執事あたりがある程度話したのだろう。
 司の方はつくしの危篤状態と自身の怪我で、彼女の両親への連絡までは気が回っていなかったから、おそらく家令が彼女の両親へと連絡をいれさせたのだろうが、正直面倒ではある。
 が、さすがにそれを顔に出すほど司も愚かではない。
 「はい、事実ですし、ボクも知っていました」
 「そ、そんな…」
 年頃の男の家に、娘を寄宿させていたのだ。
 半ば成るように成ることを容認していたようなものだっただろうに、驚く彼らの方が逆に驚きだったが、それでも親としてはまるっきり平然としているわけにもいかなかっただろうから、司も殊更それを指摘することもなく、ただ事実だけを淡々と報告することにする。
 なにをどう責められるにせよ、今の彼にとって脅威であるのはつくし当人だけで、それ以外の人間などどうで良いことだった。
 それがたとえつくしの両親であっても。
 もしかしたら、ただ彼女の現状へのショックがさすがの彼にも尾を引いていて、半ば投げやりな開き直りに近い状態だっただけなのかもしれない。
 「14週だったそうです」
 「そ、その子は…その」
 「ボクの子です」
 「っ!」
 「一時期は、つくしさん自身も危ない状態でした」
 「……ええ、聞きました。執事さんから、さきほど。道明寺さんがつくしを庇って大怪我をされて、それでつくしが今も生きていられることや、ずっと一晩中ついていてくださって、婚約者として、治療に関しての同意書にサインしてくださったことも」
 晴男の掛け値無しの気遣わしげな視線が、司のシャツから覗く包帯とコルセットを撫でる。
 実際には未婚で未成年の司にはつくしの治療に関して責任を持つ権利がなかったから、同伴していた執事の名前でサインさせたのだが、本来家族でもない他人ができないことをさせることができたのも、司の…道明寺家の権力ゆえではあった。
 「つくしが、つくしがっ、か、階段から飛び降りようとしたって、本当のことなんですかっ!?」
 つくしの髪を一心に撫でていた千恵子が、初めて声を発して司を弾劾し出す。
 「道明寺さんだからっ、道明寺さんがこの子にした酷いことの責任はとる、…この子と結婚して、ちゃんと面倒をみてくれるって約束してくださったから、あんなことをされても目を瞑ったのに、信じたのに、いったいどういうことなんですっ!」
 「……面目ありません」
 「まさか、妊娠したこの子を捨てようとしたからなんですかっ!?お噂の人と結婚するつもりで、この子を弄んだのっ!?」
 裏返った声音の千恵子の顔は、元々つくしによく似ていたが、そうして憤怒に燃えた目で彼を睨むとなおいっそうつくしによく似ていた。
 まるで千恵子の弾劾が、つくしの弾劾のように司へと突き刺さる。
 つくしがなじるとすれば、彼の世間で取り沙汰されている婚約者の存在などではありえなかっただろうが。
 それでも、蘇る言葉がある。
 ーーーあんた婚約者がいるんでしょ?!あたしにあんたの愛人になれって!?
 「それだけはありえません。ボクは先日お約束したとおり、彼女に対して責任をとるつもりでしたし、…今もつくしさんと結婚したい、ボクの彼女への気持ちに変わりはありません」
 あくまでも司自身の気持ちではある。
 けっして彼女はそんなことを望みはしなかっただろうし、そもそも彼女が今ここにこうして床に伏す原因こそが、彼の存在とその気持ちそのものだっただろうが、それでもそれが彼にとっての紛うことなき真実なのだ。
 自分自身にさえどうにもできない。
 「ママ、病室でやめなさい」
 「でもっ。足を滑らせて階段から落ちるだなんて、いくらあの子がうっかりしてたにしても…」
 その千恵子の呟きで、執事が千恵子にそう言い訳していたのかと司が内心で一人ごちる。
 執事にしても、司の指示がない以上、どこまで話しても良いのかわからなかっただろうし、そもそも彼にしてみてもなにかもすべてを知っているわけではないのだ。
 とはいえ、つくしが司によって囚われていたことは重々承知していたのだから、彼なりにある程度の事情は察してはいただろう。
 けれど、それらをつくしの両親に話してしまう裁量は使用人たちには与えられていない。
 「……まさか、自殺なんてことは?」




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