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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0887

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 派遣された執事が持ってきた楓からの連絡は、司の怪我に対してのもので、奇妙なくらいにつくしのことに関して触れられていないことからして、どうやら屋敷を取り仕切っている家令がいまだ口を噤んでいるらしいことが司にも察せられた。
 それもそうだろう。
 …ヤツが何を言えるはずもねぇ。
 これまでもさんざん司の傍若無人を許してきた男だ。
 まだまだ野心も大きく、司の支配する世田谷の屋敷に配属になったことをこそ呪っていたかもしれなかったが、英徳学園内だけではなく司が自邸でも専横を敷けてきたのは、むしろこの家令のおかげ…というよりも、楓の独裁的専政にこそあったかもしれない。
 数年前、司は自分に歯向かってきた同級生の内臓を破裂させ、あわや刑事事件へと発展させ犯罪者になり損ねたことがある。
 その時でさえ、楓や司の父である総帥が直接彼を直接詰問し叱咤することさえなく、電話で一通りの説教をするに止め、あげくに秘書に指示を出し、事件そのものを揉み消したのだ。
 その折に屋敷の―――しいては司の監督不行届を申し渡され、以前までの家令以下幾人かが道明寺グループを放逐された。
 道明寺グループは日本のみならず、世界中の企業に繋がる大企業だ。
 そのグループを放逐されたとなれば、直接の関連企業だけでも膨大な数に及び、その後の再就職は困難を極めたことだろう。
 道明寺財閥に疎まれることは、一部の人間たちにとって、イコール人生の脱落を意味する。
 そしてその独裁政治は、その家令らの放逐だけのことに限らず、これまで楓や総帥によって幾人もの人間たちが‘無能’の烙印を押され、放逐されてきたことがなおいっそう強固に、使用人たちの心を縛り付け、司に服従させる一貫となっていた。
 道明寺家の威信や御曹司の勘気を覚悟してまで、彼らに物申せる人間は希少だ。
 たとえトップである総帥夫妻にけっきょくは断罪される可能性があるのだとしても、身近の脅威である司に逆らってまで、彼の横暴を告発したり諫言できる人間はそういるはずもなかった。
 それができるのは現在は引退して地方に構えた住まいに隠居している使用人頭のタマと、楓の第一秘書の西田、それに幾人かの稀有な人間たちのみ。
 けれど、そのうちの誰もが、直接道明寺HDの利潤に携わっていない司にかかずらわっている暇などなかった。
 タマにしてみても、司が同級生への暴力事件を起こした当時、椿の嫁入り先へと一時的に派遣されていたとはいえ、自らの司への監督不行届と当時の司の精神面での荒廃に対しての責任の一旦を自認して自ら職を辞した身の上であれば、いまさら復帰することもあるはずもない。
 ―――そのことがなおいっそう司の孤独を深め、確かにある一定の功を奏して派手な暴力事件はだいぶ影を潜めはしたのだが、逆に陰湿な方向へと方向転換を遂げてしまったとも言えた。
 当初、楓はそれでも司の携帯の方に電話をいれて来ていたようだったが、さすがの司もつくしのことにかかりっきりで、携帯電話の存在自体忘れていたから通じようもない。
 いや、そもそも楓からの電話を無視することも少なくなかったから、楓は不審に思いもしなかっただろう。
 それでも―――、
 …西田が来る。
 楓自身は現在、ヨーロッパで重要な経済会議に出席中でしばらくはそちらに掛かりっきりで、とてもではないが日本には帰国することはできないだろうし、NYに本拠地を置く総帥である父親はもとより体調不良でなくても、ここ数年そうそう来日することはできなくなっていた。
 だからこそ、西田が来るとも言えたが、しかし、何事もない…ただ息子が怪我をしたくらいで、楓の懐刀とも言われる西田が派遣される意味合いを考えずにはいられない。
 それに、
 …姉ちゃんも来るな。
 わりに頻繁に日本に帰国していた椿がここ数ヶ月、顔を見せなかったからこそ、つくしを屋敷内に留めておくことができたのだと、半ば熱に浮かされていた状態だった司もわかっていた。
 タマ同様、曲がったことが大っ嫌いな姉がいれば、とてもではないが司の非道を許しはしなかっただろうし、他家に嫁いだ姉が直接、つくしに対してどうこうできずとも姉から母親に報告が行けば、当然司に成すすべはなかった。
 ―――今はまだ。
 母親に反旗を翻すには準備が足りなすぎる。
 その足がかりとして昨夜のパーティであり、つくしを同伴して周囲に印象つけた上で、自分の力になりうる総帥の対抗勢力に近づくつもりだったのだ。
 そして、昨晩のパーティでそれなりの接触は果たせた。
 もちろん、これまでにもそうしたアクションがなかったわけではない。
 だが、司が取り合わなかっただけのこと。
 いずれ望む望まざるに関わらず、自分の手の内に転がり込んでくることがわかりきっている総帥の地位と権力。
 労力を使ってまで、両親に逆らう意義を見いだせてなかった。
 そこまで強く望むものも、意思もなかったから。
 反発するだけ、親からの恩恵をただ甘受しているだけのガキのくせして、不平不満を努力に返ることもなく、自身の鬱憤を他人に八つ当たりしていただけ。
 結局のところ司にはそれほどの野心も意欲もなかったのだ。
 …牧野の言うとおりだ。
 『えっらそーにねりあるいているけど、結局父親の庇護の下じゃない。自分で金も稼いだこともないくせにたいそうなこと言うんじゃないっ』
 「ふっ」
 なぜかこんな場合だというのに、小さな失笑が溢れて、情けない顔をしているだろう自分の顔を撫でる。
 今も鮮やかに彼の胸に焼き付いている彼女との出逢いの瞬間。
 誰も彼もが彼におもねるばかりで、彼に真実の言葉をブツけ、お前は間違っていると糾弾した人間がいただろうか。
 いや、まったくいなかったわけではない。
 けれど、なぜ彼女の言葉がこんなにも彼の胸に響いたのだろうか。
 『あたしは無印良女よ。そのへんの女といっしょにしないで』
 おそらく出逢いの瞬間から自分はもう彼女に惹かれていたのだ。
 それなのに愚かでプライドばかり高い自分は、長くそのことを認めず、取り返しのつかないところまで突っ走って来てしまっていた。
 親の権力の傘をきるだけで、これまで司が望んで叶えられないことなど何一つなかったから―――牧野つくしのこと以外には。
 人を愛するということを知らなかった。
 人を愛して、…その心を乞うる方法を知らなかった自分は、自ら彼女との関係を修復不可能なところまで壊してしまったのだ。
 それもいいわけか
 あらためて、バルコニーから転落した際に屋外に投げ出されて、執事が持ってきた自分の携帯電話を手の中で転がし、電話の着歴やメールの受信を確認する。
 そこに楓の名前だけではなく、類の名前を発見し司は携帯電話の電源を落としてしまう。
 今はただ彼女の目覚めを待つだけ。
 …何のために?
 すでに彼女が意識を失い…一つの命が流れさってしまった時から、一晩という時が過ぎていた。
 もうすぐ夜が明ける。
 それは果たして、司とつくしにとっての真実の夜明けとなるのか、あるいは。
 …俺をどんなになじってもいい、罵ってもいい。
 けれど、目覚めて欲しい。
 つくしに生き続けていて欲しかった。
 たとえこの先、自分と彼女との間に、どんなことが待ち受けているにせよ、彼女が死んでしまうことだけは耐えられなかったから。
 それが‘愛’である自覚のないままに、司は名も無き存在にただ一心に祈り続けていた。




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