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「愛してる、そばにいて」
第10章 贖う①

愛してる、そばにいて0886

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~第10章 贖う(過去編)~


 「……流産?」
 「はい。お嬢様の方は軽い打撲程度でしたが、落下による衝撃によって、胎内の胎児への影響は免れることはできなかったのでしょう」
 淡々とした医師の表情はどこまでも平静で、人一人の生命の話をしているとはとても思えなかった。
 …いや、まだ人間じゃねぇのか。
 そんなことをボンヤリと思って、手術室の前室、治療中のランプがついたままのドアから視線を落とした。
 そして、つくしを抱き抱えた時にべったりとついていた赤い血の色を思い起こして、司は今は何もついていない手を見下ろし顔を歪める。
 ひどい土砂降りに濡れそぼった彼の衣類からは、あらかたその血は洗い流されてしまっていたけれど、それでも他の部分より濃い色はつくしの流した血。
 彼の脳裏には今尚、その赤色はハッキリと焼き付いていた。
 土気色の顔をしたつくしの目にぶわっと湧き上がった涙と共に…。
 いつの間にか彼に状況を説明している医師の声さえも遠く、まるで耳鳴りのような耳障りな音の合間に彼の耳は、わずかな単語を断片的に拾うばかりだ。
 エコー、胎児の体外排出、死産……そして、大量出血による母胎であるつくしの死の危険性。
 半ば呆然としていた司の目が大きく開かれ、一気にその目に光が蘇って目の前の医師を睨み据えた。
 「軽い打撲だと言っただろ?どういうことだ?」
 「……元々、かなり衰弱されていたようで、妊娠継続自体今回のことがなかったとしても、あるいは難しかったかもしれません。そこへ持って来ての外傷性による出産は、お嬢様の体に大きな負担となってしまったのでしょう」
 「出産?流産なんだろ?」
 「ええ、それはそうです。ですが、おそらく14週…すでに、胎児はかなり大きく育ち、すでに人間として顔も内臓も骨も原型がしっかりできている状態です。制度的にもすでに『死産』と分類される状態であり、すでに出産※にも相応しいことなのです。当然、そこまで大きく生育した胎児を体外に排出してしまうような事態は、それだけ母胎にとってもよりハイリスクな……」
 曲がりくねったわかりにくい言い方をするのが、彼ら医師の常だ。
 けれど、門外漢の司にしても、大きく育った状態の子供を流産してしまったことと、それ以前に司がつくしを疲弊させてしまったことで、彼女が今死にかけていることだけはハッキリと理解できた。
 「死なせるなっ」
 「…全力を尽くしております」
 医師は、患部の直接の圧迫法、子宮収縮薬などの投与、輸血…そして、最悪の場合、子宮全摘または腟上部切断などのいくつかの治療方法を説明し、司の前から辞去した。
 …子宮全摘。
 それがまだ未婚の若い女にとってどれほど残酷なものであるか、司には実感できなかったが、しかし、まだ見ぬ子供の死よりもよほどつくしが今死に瀕している事実は彼を打ちのめしていた。
 「今度こそあなたもこちらにいらしてください。治療致します」
 司に説明を行った医師に代わって、彼がつくしと共に病院に到着した時、彼の怪我の治療に当たろうとした女性医師が再び現れ、病院の硬い長椅子に腰掛けたまま項垂れていた彼の腕を取ろうとしたのを、乱暴に振り払う。
 瞬間―――、
 「うっ」
 息を吸うだけでも鋭い痛みを感じてはいたが、まるで電撃でも受けたような胸の激痛に呻いて、体を折り曲げ膝に突っ伏し蹲る。
 全力で抵抗しなければ、転げ回ってしまいそうな胸の痛み。
 あらためて肋骨の異常を自覚する。
 …チッ、やっぱ肋をイっちまったてたか。
 それも当然だろう。
 彼よりもずいぶん小柄だとは言え、それでも落ちてくる人間一人を受け止め、あげく抱えて3階分にもなる石の階段を転げ落ちたのだ。
 「大丈夫ですかっ!?」
 慌てて彼の身体に触れようとした女性医師の手を今度こそ手痛く叩き落す。
 バシッ。
 「っ」
 「俺にかまうな。このまま、あいつが…牧野の状態が安定するまで俺はどこにもいかねぇ」
 「ですが、その様子では肋骨に損傷が…」
 「さっきの医者はあるいは血が足らねぇかもしれねぇって言ってたじゃねぇか。……そん時には俺の血を使わせる。だから俺はここから動くわけにはいかねぇんだ」
 一歩でも自分がこの場から動いた隙に、彼女の生命が失われていたら―――司はその恐ろしい予感に、力なく首を緩く振り、震える両手に脂汗の滲む顔を埋めた。
 




*****




 つくしは、一命を取り留めた。
 幸い薬物治療が効をなし、彼女の身体のどの部位も損失することは免れたが、司の大きな罪の一つであることは間違いなかった。
 子宮から胎盤が剥離した際にできた傷が元で大量出血し、本来なら命に別状があるほどではなかったはずが、衰弱した体がその大量出血に耐えられず、ショック症状を引き起こしたらしい。
 …俺のせいで、こいつは死にかけた。
 出来ることなら彼の血をわけてやりたかった。
 だが、それさえ叶わず、自分はいったい何をこれまでしてきたのだろうか。
 病院の白いベッドに眠っているつくしは、不思議なほど穏やかな顔をしていて、まるでこれまでの苦悩も悲嘆もすべてを忘れ去っているかのように見える。
 せめて今はまだ、このまま、……全てを忘れて眠っていてくれればいい。
 彼の犯した罪も、彼女の嘆きもすべて、そんな身勝手なことを願ってしまう。
 それでもほとんど土気色の青白い顔や、乾いてカサついた唇、病み痩けた頬の肉の薄さが、彼に自身の罪を突きつけていた。
 …触れたい。
 彼女の唇や頬に触れて、彼女が生きていることを実感したかった。
 冷たく凍えて死の世界へと踏み出しかけていた彼女が生きていることを、その温もりから確かめたい。
 けれど、司はそれができないでいる。
 これまでさんざん彼女を自分のものだと傍若無人に主張し、できていたことが今の司にはいかにも難しかった。
 …目を覚ましてくれ。
 苦痛の全てを忘れて眠っていてくれればと思う端から、彼を映す彼女の大きな目が見たかった。
 そして、彼女が目を覚ました時の、自分を見た第一声が殊の外恐ろしいという真逆の想い。
 ―――何が俺が守ってやるよ、大事にするよ、バカにしないでよっ!嫌い、大ッ嫌い!!あんたなんて、絶対にいやぁ!!
 トントン―――。
 ビクッ。
 突然、病室のドアをノックする物音に、司が思わず肩を揺らす。
 トントン―――。
 再び、ドアがノックされた。
 「誰だ」
 『坊ちゃん、酒田です』
 屋敷の執事の一人だ。
 家令の言いつけで派遣されてきたのだろう。
 司の応答と同時に、ドアを開け入口で顔を覗かせた執事が、司を認め一礼する。
 「なんだ?入らないで、その場で用件を言え」
 今はつくしと二人っきりのこの空間を、どんな闖入者にも邪魔されたくなかった。
 それ以前に、彼女の眠っているこの場所へ、自分以外の男を侵入させたくない。
 彼女をこんなにしてまで、まだそんなことを思う自分のエゴイスティックな独占欲を自嘲して嗤う。
 「……………」 
 しかし、沈黙して躊躇するような素振りを見せる相手の様子に、怪訝に眉根を潜めた。
 「なんだ?耳目を憚らねぇと言えねぇことかよ?」
 「……その、奥様が」
 「ババアが?」




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※ただし、妊娠22週目以前は流産に分別される。

※時系列…

第2章 『罪』

第5章 『罰』

第10章 『贖う』

第1章 『泡沫に沈む月』

第3章 『風になる日』

第4章 『凍える牙』

第6章 『始まりの刻橋(きざはし)』

第7章 『光と影』

第8章 『明日に咲く花』

第9章 『闇に下る太陽』

となります。
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