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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽④

愛してる、そばにいて0883

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 変わったのではなかった。
 変わってしまった自分を取り戻して、元の彼女に戻ったというだけだったのこと。
 つくしが自分を庇って階段を転落した事故―――というよりも事件のことを、戒は憶えていなかった。
 だが、彼の前に徹が現れ、彼を調べた折に、彼が9年前に道明寺HDの強引な経営方針により連鎖的に倒産した会社の一つの経営者の家族であり、徹の父親が司の家族である戒とつくしの営利誘拐を図ったことが出てきたのだ。
 そしてその際、逃げようとしたのか、犯人によって階段から突き落とされた戒を庇って、つくしが転落して肩や足に怪我をし、そのうち足はヒビが入るほどの大怪我で、かなりの日数入院していたという。
 しかし、命に関わるほどの怪我ではなかったにも関わらず、思わぬ程の長期入院をしていたのは、怪我自体よりもおそらく頭を打ったこと、…そしてそのことにより、彼女の記憶が入れ替わってしまったことがあったにに違いない。
 残念ながらその当時のつくしの担当医師や医療関係者は、故意にか偶然にか、日本から遠く離れた海外へと出ていたり、結婚離婚・転居を繰り返して旧姓や住まいを辿れず行方を追うことができなかったりで直接会うことができず、話を聞くことができなかった。
 しかし、これで確信した。
 そして、遥香の告げた9年前の司とつくしの離婚の顛末で、つくし自身が果たした役割と動機、そして何よりも遥香の言葉が、佑都の時のような狂人の世迷いごとなどではけっしてなく、真実だったことが証明されたのだ。
 ―――つくしさんは、司さんと離婚したがっていたの。それなのにあの人はそれに応じなかった。だから、私とつくしさんとで協力して、あの人を罠にハメたのよ。私はあの人が欲しくて、つくしさんはあの人と離婚したがっていたから。
 …そりゃあいつをハメてでも、離婚もしたいよな。
 自分をレイプして監禁したあげく、妊娠させられ、自殺未遂へと追い詰められて流産。
 その際に記憶喪失に陥ってしまったことを良いことに、欺かれ妻として10年もの間を過ごさせられたのだ。
 そして、そのペテンが覆されてなお、司は彼女を手放さそうとはしなかった。
 他人事だったら、どこの極悪非道な変質者だと嘲り罵ったに違いない。
 だが、
 …なぜだ?
 愛していたからだ。
 父は母をたしかに愛していた。
 愛?
 …いや、あいつは単に母さんに執着していただけだ。
 妄執とも言える執拗さで。
 とんだ狂恋だ。
 愛する相手に非道をなし、追い詰め、壊してしまうものを愛などとは絶対に戒は認められなかった。
 認めるわけにはいかない。
 あれほど幼き日より求め続けていたはずのその答えは、どうしてこれほどに空々しくも、醜悪で…滑稽なものだったのだろう。
 「あ、あのね、戒君。あたしたちがあなたに憎まれたり、蔑まれてしまうことは仕方がないことだと思うわ。…でも、あの子のことは、つくしのことだけは恨まないであげてちょうだい」
 「……………」
 いつの間にか項垂れ、打ち拉がれて長い足の間に組んだ両手を見るともなく見ていた戒が、そんな千恵子の言葉に、ノロノロと顔を上げる。
 「あの頃、あの子は混乱していた。……どうしても、道明寺さんへの憎しみを克服できなくて、私たちにも何度も離婚したい、道明寺さんから離れたいんだと言っていたわ」
 「……それで?」
 答えはもちろん聞かずともわかっていた。
 そんなもの調べなくても、これまでの彼らのスタンスを鑑みて、つくしがやむなくとったのだろう手段からも十分に察することができる。
 「……反対したの」
 「そ」
 素っ気なく頷いただけの戒の態度に気後れして、しかし、口にした以上それだけは話してしまわなければとでも言う気概で千恵子が望む。
 彼女もまた、彼自身が言うように、つくしにとっての‘親’なのだろう。
 たとえそれが他人から見て、どれだけエゴに満ちた理不尽な主義主張だったのだとしても、彼らなりの愛情で娘を守りたかった、幸せになって欲しかったんだという言葉は、彼らなりの真実だったに違いない。
 だからといって、それで何もかも罪のすべてが赦され、贖われるというものでもなかったけれど。
 「いつか時間が解決してくれるってそう期待したのね。あの子は人がよすぎるくらいに優しい子だし、……道明寺さんがあの子にベタ惚れで、大事にしてくれていたのは、つくしの親である私たちの目から見てもあきらかだったから」
 「……………」
 「本当に仲が良かったんだよ」
 「そう、とっても幸せそうだった。ううん、幸せだったのよ。つくしも戒君あなたも、……道明寺さんも」
 おそらくそれは本当のことだっただろう。
 誰もが幸せだったのだーーーつくしがすべてを思い出し、自分が沈められていた欺瞞の海の存在に気がつくまで。
 だからといって、そのままで良かったわけではないはずだ。
 虐げられ欺かれたつくしの犠牲から目を背け、彼女の真実の心や魂を無視したままで良かったはずかない。
 …罪は贖わなければならない。
 そうでないのなら、かつての虚構の中の一家の幸せが、真実のもので、つくしにとっても最良のものだったというのならば、彼女が今もなお心に傷を負ったまま、過去に苦しめられつづけているはずがなかっただろう。
 「あの子は離婚する最後まで、道明寺さんのことを許せないでいたけれど、でも、あなたのことはとても大事に思っていた。…憶えていなくても、ちゃんと自分の子供だって、愛していたのよ?けっして手放したくなかったはずなの」
 「そのとおりだよ」
 そんなことはわからない。
 彼らが戒に気を使ってそう言っているというよりも、千恵子や晴男がどう考えていようと、結局はいくら親だとは言え、つくし本人ではないのだから。
 彼女はおそらく、再会した最初から戒を誰なのか、ちゃんと認識していたに違いない。
 若き日の司と錯覚し、驚愕して…怯えていた。
 けれど、彼を受け入れた。
 彼女の戒を見つめる眼差しを愛しさだと、母親の情愛と慈しみだと、彼にも十分にわからせてくれたのだから。
 だから、苦しかったのだ。
 ずっと。
 愛される価値がない存在を愛し慈しむ、彼女の優しさが不憫で哀れで……申し訳なかった。
 …バカだな。俺のことなんて、憎い男の子供だ、仇だと嫌って憎んでも、全然かまわないのに。
 お人好しで愚かな女だったから、司のような男に目をつけられ、執着されることになってしまったのか。
 つくしは美しい女だった。
 誰よりも、その心根が。
 「だから、あなたを道明寺家に置いて行かざる得なかったことや、離婚してからずっとあなたに会わなかったのも、あの子の意思じゃないの。親権も監護権も渡さない。面会権も認めない。私たちがそうだったように、…つくしがあなたに会うことは、けっしてあなたのためにならないことだから、もうあなたとは会わないように…って、道明寺さんからそう言われたそうよ」
 「………なるほどね」
 「もしあなたがつくしのことを誤解してたようなら……」
 さらに言い募ろうとする千恵子を片手を上げることで、戒が制止する。
 「それはもういいですよ。わかったから」
 「え…でも」
 「誤解するもしないもない。俺も道明寺家の一員として、父がそうあなたたちに言ったのもわかることだから」
 「……………」
 「……………」
 気まずい沈黙が落ちた。
 いや、戒は気まずいなどとはカケラとも思っていない。
 そもそもここち訪れた最初から、この家やこの夫婦自体には、何の関心や親しみも、愛情も感じていなかったし、こうした会話の内容を持ちかけたのは彼自身だったのだから。
 「話は変わりますけど」
 「ああ、なんだい?」
 もはや毒食らわば皿までといった心境なのか、最初の頃のオドオドとした態度もだいぶ薄れ、もはや隠すことなど何もないのか、晴男が素直に頷き戒に話の先を促す。
 「………母さんには、俺の他にも子供がいるんですか?」




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NoTitle

こ茶子さん、こんにちは♪
戒もつくしが自分を愛してることはわかってるんですね☆

戒は陽太に会うのかな。
陽太も、実母の死、自身の病気、父親とつくしの結婚・離婚と、ただ子供でいればいい子供ではなかったのに まっすぐですよね。
どんな中3になっているんだろう。

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