「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽④

愛してる、そばにいて0882

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 「でも、結局道明寺さんは約束を破ったのよ」
 「……………」
 怨嗟の声が千恵子から溢れて、むしろ戒よりも晴男の方が驚いたように、彼女の顔を唖然と眺めた。
 「だって、そうでしょ?ずっと妻として大事にしてくれるって言うから、大概のことには目を瞑って、いきなり外国になんか連れていかれてしまっても我慢して、あたしたちはよけいな口出しをしたり、文句を言ったりなんかしなかったわ」
 「ママ」
 一度、零してしまえば、溢れ出した憤懣は怒涛のように千恵子の口から止めど無く次々について出た。
 「いくらあの子が昔のことを全部思い出して、冷たくなったからって、他の女に逃げたあげくに、子供まで作ってあの子を追い出すなんてひどいじゃないの!」
 「マ、ママ」
 チラチラと戒を振り返る晴男が、慌てて千恵子を制止するように手を抑えた。
 「だって、道明寺さんのせいであたしたちまで長年あの子や、進に恨まれて疎遠にされたりしていたのに、孫の戒君にも合わせてもらえないで、……こんな風に悪者みたいに責められなきゃならないなんて、わりにあわないじゃないのっ!」
 「しっ、ママ、シィ~っ!!」
 焦る晴男と、膨れる千恵子の醜悪な滑稽さが堪らず、戒がくくくと笑い出した。
 「か、戒君?」
 「いいですよ、そんなに頑張って気を使ってくれなくても。……あらかた調べてきたと言ったでしょ?でも、確証がなかったこともある」
 それは母の記憶喪失だった。
 期せずして千恵子が自ら語ってくれたのだが。
 戒が会った使用人たちの中には19年前に世田谷で働いていた人間だけではなく、10年前、戒が両親と共に帰国した頃に働いていた人間もいた。
 戒の記憶には残っていなかったが、戒自身を憶えていて懐かしがってくれたメイドは当時、つくしの専属にてタマがつけていた人物で、母が記憶を失う前後ともに彼女に仕えていたらしい。
 『若奥様は急に人が変わられて…詳しいことは存じ上げなかったのですが、ただ事故の影響で、一部の記憶を失われてしまったのだとタマ先輩から窺っていました』
 19年前ほどに厳重な箝口令が引かれていたわけではなかったが、それでも道明寺家のトップシークレットの一つでもあり、戒を直接に見知っている相手ではなかったら、いまだ道明寺グループで働いているその女は戒に口を割るよりも、口を噤んで司もしくは楓に奏上することを選んだかもしれない。
 「母は19年前、……階段からの飛び降り自殺を図ってそれまでの人生すべての記憶を失ってしまった」
 「「なっ!」」
 夫婦が似たような反応で、ギョッと驚いて戒の顔を呆然と見つめる。
 「じ、自殺未遂だなんて、とんでもない!」
 「そうよ、事故よ。あ、雨で足を滑らせて階段を落ちたのよ」
 果たしてこの夫婦が心底驚いているように見えるのは演技なのか、本当に何も司から聞いていないからなのか。
 演技には見えない。
 それならば、司が欺いたのか。
 ありえない話ではない。
 真実つくしが欲しかったのなら。
 彼女に偽の記憶を与え、10年もの年月、もっとも身近なところで彼女を騙し続けるよりはよほど容易なことだっただろう。
 しかもこの夫婦は、けっしてつくしの記憶喪失を否定しなかった。
 「そうですか?…まあ、もう過ぎ去ったことだ。そこらへんはどちらでもいいとしましょう」
 事故であろうと、自殺であろうと大した違いはない
 イヤがるつくしを司が捕らえて、逃げようとした彼女がしくじり、……階段を転落した。
 要因も結果も決して変わりはしないのなら、結局は同じことなのだ。
 いまさらながらに事の真実に青ざめている夫婦を無視して、戒が話を進める。
 「でも、俺が聞きたいのは、19年前のことじゃなくって、9年前のことだ。さっき、あなたは…」
 ‘あなた’で、戒は千恵子へと視線を向けた。
 「母が昔のことを全部思い出して、父に冷たくなったって言いましたよね?」
 「い、言ったかしら?」
 「ええ」
 空惚ける千恵子へと、確信を持って頷きかける。
 「ということは、母は19年前に失ってしまった記憶を9年前に取り戻したということですか?」
 司に強引な手段で囚われ、欺かれ続けた自分自身の真実を。
 「……………」
 「どうなんです?いまさら隠してもしかたがないことでしょ?」
 それに自分には真実を知る権利があるはずだった。
 「………そうよ」
 「っ」
 「あの子が一度は失った高校生の時までの記憶を全部思い出して、……その後の10年間、道明寺さんの妻だった記憶を失ってしまったの」
 戒の母であることさえも。
 「…どうしてっ?」
 喉が渇く。
 その答えを聞いてはならないという本能の叫びが、まるで耳鳴りのようにワンワンと耳打ちで響き渡る。
 「じ、事故で。……9年前にも、あの子ったらどこかの公園か何かで足を滑らせて、階段を転落したそうなのよ。それで」
 それで、つくしはすべてを思い出し、……泡沫の家族は崩壊したのだ。
 戒ゆえに。
 …それなら俺がすべてを壊したのか。
 仲睦まじい家族の幻想を、司の夢見た虚構の世界を壊して、……父や母を失う結果となったのは戒自身のせいだったのだ。
 ―――お母さん、俺のことが嫌いになっちゃったのかな。俺がお母さんに怪我をさっせちゃったから、お母さん、今までとは変わっちゃったんだ。お母さんなのに、お母さんじゃない。




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こ茶子さん、こんにちは♪

戒、あなたは何も悪くない。 ―― それを言って説得できるのは つくしと司だけなのに。

「誕生では、佑都も、多くの大人たちの思惑によって作られてしまった子なんだよ。」と戒に言ってあげたいけど、それは酷ですか。
佑都は、自分のことでいっぱいいっぱいの大人たちのため、悪をなすことも葛藤することもなく 無垢のまま亡くなってしまいましたが、生きていたら 戒以上に苦しんだかもしれません。

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