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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽④

愛してる、そばにいて0881

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 戒が会ったのは、19年前につくし付きだったというメイド一人だけではなかった。
 他にも幾人かのメイドや執事、庭師や運転手、学園での同級生―――そして、つくしを診察した医師。
 もちろん、すべての人間を探し出してさらに口を割らせることなど、さすがに無理な話ではあったが、それでも関係者一同を闇から闇へと葬り去ることでもできないかぎりは、どこからでも綻びを見つけ出すことは可能だったし、すでに19年の歳月が流れているのだ。
 司が当時未成年だったということを除いても、一般的な誘拐の事例からすればすでに時効が成立している年月であり、醜聞にするにしても時が経ちすぎて物的証拠もない人物証言だけでは弱い事柄であり、そうしたことから人々の口は当時よりもむしろ緩んでいたのだろう。
 もちろん、最初に会った人物同様、戒自身の身分証明にも等しい彼の司に瓜二つの容貌や、鼻薬と脅しを適材適所で彼が使い分けた結果でもある。
 ある人物は言っていた。
 『牧野様がお屋敷に連れてこられた時は、満身創痍な状態で。あきらかに暴行を受けて、意識を喪失した状態で司坊ちゃんが連れて来られたんです』
 言葉を濁した‘暴行’の言葉の意味に気がつかないほど戒は子供ではなかったし、すでに司が犯した罪については別のメイドからも聞いていたのだ。
 ただ確証を得ただけ。
 まさか、あの道明寺司が―――父がと、まだ彼を信じていたかった自分を再確認させられることになるとは。
 …そうだ。
 自分は虚構の中の父に憧れる幼い少年のまま、かつての幸せな家族の幻想を取り戻したいと求めて、いまだに母親を探し続けていたのだ、きっと。
 『司坊ちゃんは、人を人とも思われないところがお有りでしたから。当時、気に入らないことがあると、暴れて物を壊したり、人に暴力を奮って怪我をさせることも頻繁で。牧野様に殴る蹴るの暴力を奮われているようではありませんでしたけど、…それでもまるでペットか何かを引き連れるように無理強いされることも頻繁で、ひどいことを言われていることも珍しくありませんでしたから、お気の毒でした』
 人を人とも思わない傲慢さや、気に入らないことがあると物にあたる性質は、今も司に残っていて、戒もよく知っている父親の性質で、若き日のようにあからさまではなかったが、今でも父にとってごく一部の親しい人間以外彼にとって価値ある人間ではないのは今も同じことだ。
 『道明寺さんのご命令だったんです。元々赤札は、ターゲットが尻尾を巻いて逃げ出すまでのゲームでしたから、かなり際どいこともしていましたけど、牧野…いえ、元奥様の場合はかなり道明寺さんに逆らったりされていましたので、特にご立腹で。あ、あんなことをしたのは、もちろん俺らの意思じゃなかったんですよ!だって、発覚したらそれこそ犯罪じゃないですか!?学園だって退学になるだろうし、道明寺さんの庇護があればこそだったんです。それがまさか…道明寺さんと結婚されるだなんて』
 『あんなこと』の詳細を聞いた時には、ショックを受けたり絶望するよりも、…むしろ呆れたくらいだ。
 一人の女を集団で襲わせ、レイプさせようとするなどいったいどこのチンピラやヤクザだ、なんの冗談だともはや笑うしかなかった。
 それが彼の父親。
 そんな卑劣な男が、世間でひとかどの人物として評価され、崇敬されていることがおかしくて……憤ろ如くて。
 『御子息のご依頼で、たしかに私が診察いたしました。たぶん週数にして12週から16週の間。……ただ母胎の16才という年齢的な未熟さだけの問題ではなく、当時奥様はかなり精神的にも肉体的にも衰弱されておりましたから』
 だから、流産したというのか。
 いや、違う。
 『まるで鳥のようだったと聞いています。私は直接目撃してはいなかったのですが。あの日、牧野様は屋敷を逃げ出そうとして、使用人一同の大捜索となっていてんです』
 しかし、人は鳥には決してなれないのと同様、宙を飛ぶことなど出来はしないのだ。
 だから、彼女は最初の子を流してしまった。
 嫌って憎んでいた男に望まぬ妊娠をさせられ、精神を病んで、自殺未遂を図ったせいで。
 そして、この目の前にいる祖父母はそれらを見過ごした。
 自らの野心ゆえに。
 人生の安寧と引き換えに、娘を司に売った。
 彼らが何も知らなかったはずがない。
 まっすぐに見据える戒の視線に、キョドってその追求から逃れようとしている彼らの顔がそう言っていた。
 耳の奥底から蘇ってくる声がある。
 幼い頃からずっと響き、彼の心を縛り、支配してきた声が―――。
 ―――狩りなんだ。お前の父親がやり出したことなんだぜ?赤札を貼ったヤツをターゲットに、みんなでシカトしたり、物をブツけたりして追い込むゲームなんだよ。高等部の時、道明寺司はお前の母親に赤札を貼って遊んでたんだ。
 けれど、戒にはまだ知りたいことがある。
 いくつものピースを繋ぎ合わせて得た真実の他にも、まだいくつかの疑問や謎が残っていた。
 「そんなビクついた顔をしなくてもいい。……何があったにせよ、もう19年も昔のことだ。そうでしょ?」
 「……それは」
 さすがの千恵子も同意してしまうには疚しさを感じていたらしい。
 どうしようというように、晴男へと視線を求めて助けを求める。 
 「わ、私たちは、これでもあの子の幸せを願っていたんだよ」
 何を今更言い訳をしようというのか、軽蔑もあらわに目の前の血縁というの穢らわしい俗物の夫婦を、かいは睥睨した。
 「信じてくれないかもしれないけれど、私たちなりに、あの子の幸せを必死に考えて、道明寺さんにつくしを託すのが最良だと思い至ったんだ。つくしや進には、欲に駆られて…玉の輿に目が眩んでのことと誤解されてしまったが」
 「そうよ!ペットか奴隷だなんて、あなたの誤解よ」
 千恵子も晴男のぞんがいにしっかりした抗弁に勇気づけられたのか、横合いから口を挟む。
 「あの子を傷つけたのは、そこらのチンピラや不良少年なんかじゃなかった。そりゃあ、あれだけイヤがってたのを説得しようとしたのはひどかったかもしれないけど、でも、道明寺さんはちゃんとあの子を大切にしてくれて、愛人なんかじゃなく約束通り結婚もしてくれたわ」
 「……結婚」
 ‘愛人ではなく’、‘結婚してくれた’、という千恵子の言葉尻に、彼らの力関係が実際的のみならず心情的にも歴然としていたことが窺える。
 いや、現在も同様なのは言うまでもない話なのだが。
 「あの時の私たちには、それが一番適切な解決法に思えた。いや、他にどんな方法もありえなかったんだ。どこの世間に、自分の娘をひどい目に合わされて喜ぶ親がいると思うんだい?私たちには、とても道明寺家に立ち向かえる力などなかった。もしそれをしようとすれば、逆につくしの方が世間の晒し者になったあげく、こちらが泣きを見させられる可能性もあったんだよ。それくらい私のように能天気な男にだってわかる」
 晴男の言うとおりだ。
 たとえ彼ら牧野夫婦が、警察や世間に司の非道を訴え法の裁きを求めたとしても、逆に道明寺家の抱える有能な弁護士軍団によって示談に持ち込まれて金で解決されればまだ良い方で、ヘタをすれば名誉毀損や揺すりたかりの類として、逆に訴訟にでも持ち込まれてしまえば、つくしや彼らが晒し者になるだけで、社会的立場などないに等しい牧野一家の未来はさらなる暗礁に乗り上げてしまったことだろう。
 あるいは追い詰められ、…彼らには首を括る以外の道は閉ざされていまっていたかもしれない。
 そうしてしまえるだけの権力が道明寺家にはある。
 そして道明寺家からしてみれば、虫けらも同然の牧野家との間にはそれだけの力の差があるのだ。
 それを晴男や千恵子が理解していたかはともかくとして、少なくても彼らの自己保身本能は正しく機能していたということなのかもしれなかった。
 「だが、道明寺さんは―――君のお父さんはつくしをただ弄んだのではなく、大切にする、妻にする。つくしの将来の面倒も、そればかりかあの子の家族である我々の面倒さえ見ると言ってくれたんだよ」
 「……っ」
 わかっていた。
 けれど、わかっていても、…それでも、その当事者の一人である祖父母から、母は父によって奪われ、買い取られたのだと肯定されてしまったことに衝撃を受け……さらなる絶望が胸に広がるのを感じていた。




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こんにちは

こ茶子さん、こんにちは♪
>あれだけイヤがってたのを説得しようとしたのはひどかったかもしれないけど
へー、わかってるんだ。
だーかーらー、立ち向かわなくても、訴えなくても、1円にならなくても、泣き寝入りでも、ただ娘を守るだけなの! と、あれほど(怒)

戒は司のマイナス部分だけを知りたいのではなく、真実が知りたいんですね。
プラスといえる司のつくしへの思いは、司にしか語れないですね。

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