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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽④

愛してる、そばにいて0880

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 初見の驚きが過ぎ去ると、さすがに晴男と千恵子は赤の他人のようにいつまでも戒に対してテンパり続けているだけということもなく、二人とも人の良さそうな笑顔を貼り付け、嬉しそうにハシャギ出した。
 「よく来たわねぇ!」
 「うんうん、ずいぶん大きくなってぇ。うわぁ、背が高いなぁ。さすがは道明寺様……道明寺さんの息子だ。ウチの血じゃ、こんなに大きくはなれないないよねぇ」
 「そうよお~、それ以前に、相変わらずすっごいハンサムさんで」
 両手を頬にあて、うっとりと戒を見上げる千恵子の表情それこそ女子高生たちと変わらない。
 母によく似たその顔に、彼女との血縁を見出すが、自分との血縁をあきらかにしたものは晴男と千恵子の容貌からは感じられなかった。
 だが、
 「さあさあ、中に入って」
 「暑かったでしょ?お茶を出しましょうね。ハッ、パパ!虎屋のお饅頭、まさか全部食べちゃってないでしょうねっ」
 「そうそう、それをママに聞こうと思ってたんだよ」
 夫婦漫才を繰り広げ出す。
 「お、奥さんっ、まさか、その子、牧野さんのお孫さんなの!?」
 すっかり存在を忘れ去られていた隣家の女が、黄色い歓声混じりに尋ねてくるのに振り返って、誇らしげに胸を張った千恵子が大きく頷いた。
 「そうよぉ!すっごいカッコイイでしょ!?私の娘の息子なの。うふふふ、じゃ、また」
 華やいで若返った彼女の声に屈託はなく、本当に戒が訪ねて来て嬉しいという気持ちに溢れて、以前公園で出くわした時の気後れや困ったような気詰まりな風情を拭い去っていた。
 無言のまま戒は促されて、玄関に回ることなく庭に面したテラスから靴を脱ぎ家へと上がる。
 「ほらほら、ここに座って」
 さすがに体に触れてくるような慣れなれしさまでは発揮出来ていないようだったが、それでも歓迎するその表情や声音に嘘はないように見える。
 これまで戒が知らなかった祖父母の情愛。
 ここに来るまで、戒の中では、自分の父に母を売って金を得た薄汚い人間たちという印象をしかこの二人に持っていなかったし、間違っても彼らに情愛など感じていない。
 そして、今もその気持ちに変わりはなかったが、それでも奇妙な感慨を持って彼ら二人がアタフタとお茶を用意したり、あれこれ棚を探っている姿を居間のソファに腰掛け眺める。
 そして、道明寺家の屋敷とは比べ物にならない、だが、つくしが住んでいるような一般的な家屋とはまるで違う広く美しい居間の佇まいをグルリと見回した。
 贅を凝らしているとは言えないだろう。
 娘を音に聞こえた大富豪の男に売って得たにしては、質素に生活しているとも言える。
 けれど、19年前、つくしが司と関わるようになるまでの彼らの家計状況は最悪だった。
 とてもではないが働かずに暮らし、年に何度も物見遊山の旅行に行き、周辺の家々とは一線を画した広い庭の瀟洒な洋館など持てるような人間ではなかったはずなのだ。
 牧野晴男は現在、60代に入ったばかり。
 定年退職をしていてもおかしくはない年代だが、すでに彼は9年前、つくしが司と離婚したことで道明寺HDの子会社の一つの名ばかりの役職から退職し、以来一度も働いたことがなく、また千恵子にしても19年前以降アルバイトの類さえもしたことがなかった。
 「道明寺家のお茶やお菓子みたいに凄いものじゃないけど、良かったらどうぞ」
 「うんうん、虎屋の饅頭は美味しいんだよ」
 戒の対面側に座った千恵子の横に妙にしゃちほこばった晴男が並んだ。
 優雅に茶を啜る戒をジロジロと眺める目は、突然10年近くぶりにあらわれた孫への興味と親しみ、だがそれ以外にも、隠しきれない気後れや卑屈さは覗いていたが、それでも彼を利用しようという社交界の人間たちのような媚やおもねりめいたものは感じなかった…不思議なことに。
 すでにもう十分な資産分与を受け、生活に困らない余裕からなのか。
 しかし、こういった類の人種は、たいがい吸える限り甘い蜜にぶら下がるのが普通なはずだというのに、すでにこの二人は数年前より道明寺家からの自ら打ち切りを申し出て援助を受けてはいなかった。
 「そ、それで、どうして…ここに?」
 顔を見合わせ譲りあった結果、押し負けた晴男が千恵子に急かされて、躊躇しつつさきほど千恵子が発した問いかけを繰り返し尋ねる。
 「どうして?さっき俺は言いましたよ?それに、理由がなければ、自分の祖父母に俺は会いに来てはいけませんか?」
 「…いや、そうじゃないよ。そうじゃないけど」
 「ど、道明寺さんは、知ってるの?あなたがここに来ていること。…あなた、つくしのところにいたわよね?……できたら戒君にこんなことをあたしたちも言いたくないの。あなたがうちを訪ねて来てくれたことは本当に嬉しいし、できれば遊びに来て欲しいのよ。でも、……あたしたちは、ずっと以前に道明寺さんと約束をしていたから」
 戒も千恵子が言い出したことの大半は予想していたことだ。
 「俺とはもう二度と会うなって?」
 皮肉に笑う戒から視線を反らして、けれど意をけっしたように頷き同意する。
 「二度と…とまでは言われていないけど、あなたが大人になって、あたしたちとのことや自分自身の生い立ちの何を知ることになっても、傷つかずに自分は自分だと一人で立つことができるようになるまでは…と、そう言われてるの」
 「ふっ……生い立ちの何を知ることになっても?」
 戒の言葉は慇懃で晴男達に対してもあくまでも礼儀を守ってはいたが、それでもその声音に宿る嘲りは隠せてはいなかった。
 そして、戒自身にしても隠すつもり必要も感じていはかった…欠片とも。
 「それって、……俺の母親が自分の意思とは関係なく、犬猫だか奴隷をやり取りするみたいに、あいつに―――俺の父親に売り渡されたことを言ってるわけですか?」
 「……っ」
 千恵子の目が大きく見開かれる。
 隣に座る晴男もオロオロと彼女と、静かな…けれど、たしかな怒りを内包し糾弾する戒を交互に見るしかできないでいる。
 夫婦のうち、あきらかに主導的な立場にいるのは千恵子の方だったが、しかし、黙って従ってその利益を甘受していた以上、罪は当然晴男にもあるのはたしかだった。
 「ど、奴隷だなんて!あ、あたしたちは、あたしたちは、そんなっ…」
 「俺も、ただあなたたちが懐かしくて、ここに来たわけじゃない。さっきも言ったでしょ?あなたたちの話を聞きに来た。それは世間一般の…久しぶりに会った祖父母との懐かしい語らいをする為なんかじゃない。………適当なおためごかしなんかで、俺を誤魔化そうとしない方がいいですよ。俺は19年前何があって、俺の母親が―――母さんが記憶を失い、望まぬ、いや嫌って憎んでいた男の妻となり、子供を産むハメになったのか、あらかた知ってここまでやって来たのだから」




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こ茶子さん、こんにちは♪
牧野両親がダメな私です。
間を取り持とうとするときは進も。( 双方に誤解があるならともかく、このことでは、娘を守れなかったことに誤解などあるはずがないと思っているので… )

「 俺の母親が―――母さんが 」・・・戒の心がよくわかりますね。

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