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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽④

愛してる、そばにいて0879

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 道明寺家の当時の事情―――19年前に起こった出来事については、箝口令が引かれていた。
 戒が使った調査会社はかなり優秀な部類だったが、それでも道明寺家が直接圧力をかけた中でも、特にそのことはトップシークレットだったらしく、皆口が堅く容易には口を開かず、そうであればどれだけ優秀な調査会社といえど太刀打ちできるはずもない。 
 しかし、戒の容姿が物を言った。 
 おそらく父なり―――祖母なりの横槍が入れば、そう簡単にはいかなかったのだろうが、戒は強引な手段ではなく、あくまでも自分自身の足を使い地道な手段で情報を得ることを選んだ。
 もちろん、それだけではなかったが。
 「な、なあ、戒、いつになったら約束どおり、時間作ってくれるんだよ?お前の要望はちゃんと先方に伝えたし、実際にもう叶えられたんだろ?」
 フてくされたように文句を言っていた徹が、それでも戒の冷たい一べつで、ビクリと仰け反って一歩も二歩も遠ざかる。
 元々戒を恐れているのだ。
 さらに、つい数日前にはかなり痛めつけてやったから、なおさら彼への恐怖は高まっているだろう。
 それでも青ざめながらも、文句を言えるだけ大した根性の持ち主なのかもしれない。
 「たく…俺に繋ぎを取らせるだけ取らせやがって」
 「お前はもう戻ってろ」
 「…どこ行くんだよ?」
 「失せろ」
 「なっ」
 あまりの戒の言い草に反駁しようとした徹を、戒が一睨みで威圧する。
 「この前みたいに俺の後をつけたり、…あの人を脅かすような余計なマネをしてみろ?その腕一本と言わず、両足もへし折られることになるぜ?」
 「ひっ」
 とたん、その時の痛みを思い出したのだろう。
 包帯の白さも痛々しい肩から吊った手首を抑えて、ガタガタと震えだした徹へと、戒があえて酷薄な笑みを浮かべて見せる。
 こけつまろびつ慌てて逃げ去る徹を見送ることなく、戒はさっさと踵を返した。
 へし折る…とは言っても、実際には手首の関節を外してやっただけだ。
 痛みは相当なものだっただろうが、怪我自体は大したものではない…戒的にはだが。
 もちろん徹がつくしに危害を加えていたのならそんなものでは済ませなかっただろうが、徹が彼女をつけていた意図はわかっていたし、実際に彼女を脅かし過呼吸の発作を起こさせてしまったのは徹ではなく、戒自身であり…元はと言えば彼女の心に傷を負わせた司だった。
 もちろん徹に追尾されてことで恐怖心を煽られた結果でもある。
 たとえ徹を追い払ったところで、別の見張りをつけられていれば同じことだろう。
 しかし、どうせ相手は戒が知りたいことも、知ろうとしていることもすでに知っているに違いない。
 だが、相手の手の内を知らないでいることは、すでに交渉の前段階で失敗なのだ。
 そもそも、果たして自分は本気で相手と交渉しようと思っているのだろうか。
 まるで水の中にいるような奇妙で気味の悪い曖昧な感覚を、ここ数日、戒はずっと感じ続けていた。
 いや、違う。
 それは遥か以前、自分が抱いていた両親像が実際にはまるで違うものではないかと、他人の悪意によって教えられた時から続いているものではなかったか。
 …暑い。
 いつかもこうして、自分は熱いアスファルトの陽炎を眺め、目に沁みる汗を手で拭い、目眩を堪え思わなかったか。
 いつか自由に。
 いつの日か、自分も自分を置き去りにした母のように、道明寺家という囲いを抜け出して、外の世界へ羽ばたくのだと。
 けれど、弟の死によってすべては水泡に帰した。
 受け取るべきものがこの世を去り、本来いてはならない人間は今この場にいる皮肉を思う。
 ―――罪の子。
 戒の唇に皮肉な笑みが浮かぶ。
 誰が今の彼を指差し、そんな嘲りを口にすることができるというのか。
 けれど、誰が嘲らずとも自分が知っていた。
 …ここか。
 一般的な家屋の並ぶいわゆる高級住宅地と呼ばれる一角に立つ。
 道明寺家のような大富豪の家屋敷が並ぶほどではなくけれど、どの家もそれなりのステータスを持つ職種の人々が住まう場所。
 そして、その家はそれらの家よりも若干とはいえ、周囲の家々よりもさらに大きく立派だった。
 もっとも、大豪邸と言われる日本屈指の広さと豪華さを誇る屋敷に住まう戒にしてみれば、周囲の家々との違いはわからない。
 それでも、
 …俺の母親の血と涙と…そして絶望とで得た家だ。
 自分が罪の子ならば、その罪の子をこの世に誕生させることに加担したこの家の人間たちもまた、罪にまみれた罪人たちに他ならなかっただろう。
 伸ばしかけたインターフォンを押す直前、庭だろう、玄関の裏側から雑談に興じる初老の女の笑い声や話し声が聞こえ、戒はインターフォンに伸ばした手を引っ込めスラックスのポケットに戻して庭へと回った。
 暗澹たる闇の中でもがく戒とは、真逆に明るく能天気な声音。
 罪の意識のカケラともなく。
 「……ょ?……なのよね~。ちょっと油断してると、すぐにお酒とか飲んじゃって、ホント意思が弱いっていうか、男ってダメよぉ」
 隣の家の人間だろう。
 戒に背を向けて話し込んでいる女とおしゃべりに興じていた女が、いち早く戒に気がつき、大きく目を見開く。
 年甲斐もなくわずかに頬を染め、まるで彼が幻かなにかだとでも言うように、何度も目を瞬かせ、視線を反らせては再び彼を見上げることを繰り返し、手を口元にあて、「まあ」と小さく歓声をあげた。
 その声にやっと自分の背後に起こった異変に気がついたらしい初老の女も、怪訝に彼を振り返る。
 女に起こった変化は、隣人とは比べ物にならないものだった。
 さすがにそう直ぐには取り繕えなかったらしく、自然にカタチどった口の動きが、彼の名前をハッキリと呟いてしまっている。
 「こんにちは」
 「か、戒君?」
 「あなたたちを探したよ。ガキの頃も、……今も」
 ガタガタっという物音を立て、彼らが立つ背後の家の掃き出し窓が開く。
 「ふわわわわ、ママ。昨日、進んとこのひなちゃんが持ってきてくれたお土産の饅頭どこに仕舞ったっけ?」
 だらしない格好でボリボリと腹をかき、締りのない顔を眠そうに擦った男―――晴男が顔を出した。
 だが、すぐに周囲の異様な空気に気がついて、不審げに周囲を見回して、戒の姿を認めて飛び上がった。
 「ぎゃっ!ま、まさか、道明寺様っっ!?」
 軽蔑も顕に彼らを見据えるその美貌は、彼らにとっては数十年前からよく見知った男の顔に瓜二つだったのだろう。
 あるいは、その遥か過去を彷彿とさせたのかもしれない。
 先にハッと我に返った方の女―――千恵子が慌てて晴男に駆け寄り、その腕を掴みガクガクと揺すって戒を指差す。
 「パ、パパ、違うわよ。この子は道明寺様じゃないわ!か、か、戒君よ!!」
 「ええっ!?」
 まるで幽霊を見たとでもいうように驚き騒ぎ立てる、醜悪で滑稽なその姿に、戒がおかしくてたまらなくなってしまう。
 だから、嗤ってやった。
 …どいつもこいつも、汚い連中ばかりだ。
 この目の前の祖父母だという老いた男と女も、自分の息子の非道を見て見ぬふりをして金で解決してきた道明寺の祖父母、父は言うに及ばず、………そんな彼らの血を受け継いだ彼自身も。
 「くっ、そんなに目玉が飛び出しそうな顔で驚かなくてもいいんじゃありませんか?」
 「な、なんでここに?」
 千恵子の問いかけに、戒がニヤリと笑う。
 「話を聞かせてもらいに来ました。あなたたちには、俺に本当のことを話す義務があるはずですよ。……そうでしょ?」




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外堀

こ茶子さん、こんにちは♪
戒は外堀を埋めていくんですね。
本丸には(司だけでなく つくしにも)、どう臨むのでしょうか、本当に楽しみです★
願わくは司は、戒とした約束、「 真実を受け止める覚悟ができたら、お前には全部話す 」を守って、戒からの断罪として戒と対峙するのではなく、『 父親として、道明寺司として、つくしを愛し続けている一人の男として 』、先に司の方から臨んでほしいです。
そうすることで、少しでも司に自由になってほしいです。

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