「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0874

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 「え?」
 「だからかなり意外で、…それでちょっと心配になっちゃったかな」
 「……………」
 沈黙が落ちる。
 いや、口にした滋の方は何のわだかまりも感じてはいなさそうだったが、つくしの衝撃は激しかった。
 ドキドキという心臓がたてる鼓動の音がうるさいくらいに耳について、じっとりと流れだした汗が目に滲む。
 「あのっ、…それ」
 「夫婦のことだから、実際にはどんなことがあったのかなんて、私には窺いしれないことだけどさ。遥香ちゃんから、あなたたちの不仲をちょこっとだけ聞いてたから」
 「………………」
 遥香…神崎のことだ。
 …そっか、滋さんって神崎さんの親戚だっけ。
 神崎もつくしと司の真実は知らなかったけれど、それでもその一端には触れていたのだし、彼らがいかにも当時不仲だったと彼女の目には写っていたことだろう。
 そして、そんな彼女の誤解と司への思慕を利用したのだ―――つくしと楓は。
 苦いものが胸の奥に蘇る。
 あの日、神崎を傍らにショックを受けたような司の顔が、いつものフラッシュバックのように脳裏に溢れて、つくしはゴクリと唾を飲み込み、滋から視線を反らせた。
 「意外といえば、私、あなたたちと年が近いじゃない?」
 「え?ええ…」
 たしか滋は司と同年、つくしより一歳年上だったか。
 「私は英徳じゃなく栄林だったんだけどさ。あ、永林学園、知ってる?」
 「ええ、まあ」
 英徳と並んで、富裕層の子女が通う名門私立校で、たしか数年に一度共同で開催されるミスコンのようなことも行っていたはずだった。
 「F4の噂はそれなりに聞いてたんだけど、…なんていうか、華やかな表の顔とは真逆っていうのかな、裏ではあんまりいい噂聞いたことなかったのね」
 「……ああ」
 箝口令は引かれていた。
 しかし、いくら道明寺家の威光があまねく行き渡っていたにしても、人の口には戸は立てられない、どんなことでも。
 「当時、司と恋人同士だったつくしにはあまり気分のいいことじゃなかったと思うけど」
 「……………」
 「私、高校時代、司と縁談話があったのね。知ってる?」
 「………ええ」
 滋の認識はすでに前提―――つくしと司が恋人同士だったということからして間違っていたが、だからといってそれを否定することもできずにつくしは仕方なく曖昧に相槌を打った。
 「そっかぁ、そうだよね。でもさ、その後の流れからして、司も当時そんな話に聞く耳持たなかったんだと思うけど、私は私でね、政略結婚なんかごめんだ、好きな人くらい自分で見つける、恋愛したいって思ってたのよ」
 おかしなことではなかった。
 むしろつくしの常識の中では、滋の方があたりまえの感性の持ち主で、高校生のうちに家の為に結婚を決められるということの方が考えられないことだった…当時は。
 「しかも、なんかとんでもないヤツぽかったし」
 「ははは」
 とんでもないヤツ。
 まさに。
 当時、恋人同士だと思っているつくしへの配慮が表現は控えめだったが。
 「まあ、それも今考えば、しょせん世間知らずのお嬢様考えってやつでさ。たぶん、司が強行突破してあなたとの結婚を成し遂げていなかったら、…その縁談を私からは断れなかったと思う」
 「そう、ですね」
 おそらく滋の言うとおりだろう。
 …司の運命の人。
 元々結ばれるべき人であり、そして結局は運命によって結び付けられた人でもある。
 「その後、いろいろあって、…えっと、私、実は司とは再婚なんだけど?」
 滋の知ってる?という視線に、つくしも自分の知りうる滋についての情報を開示する。
 「えっと記事に載ってた範囲と…その、実は、道明寺さんの交友関係で、未だに何人か顔を合わせたり話したりする人がいて…あ、その滋さんのではなくって」
 「うん、司のね。西門さんだよね?」
 「…ええ」
 総二郎との付き合いは、戒を泊まらせた経緯から滋にも知られてしまっている。
 「まさか西…」
 「違います!」
 カンが鈍いつくしにしては、すぐに滋が言いたいことがわかったのは、すでに一度他の人間に勘ぐられたからだろう。
 「西門さんとはただの古馴染みです」
 「…付き合ってないんだ?あの人、今独身よね?」
 「ありえませんから」
 総二郎が女たらし云々以前に、類に続いて二人も司の関係者とそんなややこしい関係になってたまるかという気持ちがある。
 たとえもはや何の関わりもない元妻にしても、司にしてみても、つくしに目の前をウロウロされては、それこそ迷惑な話に違いない。
 「と、とにかく、雑談の範囲からも…その少しだけですが、社交界のこととかを聞いたりすることもあったので」
 「ふぅん。まあ、戒くんのこともあるものね」
 肯定してもいいのだろうか。
 俯いたつくしに、それ以上追求することなく、滋が再び口火を切った。
 「まあ、話を戻すけど、夫と出逢って、この人がいなくちゃダメだ。今までの自分は本当に生きてなんかいなかったんだ、って本当にそう思ったの。彼がいてくれるなら、今まで持っていた全部、家も家族も、友達も、お金も…何もかも必要ない、そう思えたんだよね」
 たしか滋の元夫はテロで亡くなったのだったか。
 さすがに明るい笑顔を振りまいていた滋の顔が陰って、店の窓の外へ向けた横顔は遠く過去に沈んで懐かしげでもあり、……切なげだった。
 「……まあ、もう二度と誰も愛せない、とかいうほど私も一途じゃないしさ」
 しかしすぐにサバサバといって、つくしへと戻したその顔には一瞬の覗かせたそんな彼女の真情を窺わせない。
 「いつかは誰かのことをまた好きになろうって、ちゃんとそう思ってたし。旦那もさ、けっこうそこらへんはドライって言うか、お互い早死したり、…たとえジジイババアになってても、相手に先立たれたら第二の人生、第三の人生頑張ろう。それがイヤならできるだけ長生きしよう、…なんて生前話してたしね」
 あははは、とか言われて、なんと答えて良いものか。
 冗談ではないようではあるが。
 「もちろん、お互いにお互いが生きているうちは一途にお互いだけだったけどね。ほら、愛って増えるものじゃない?たとえ、違う人を愛しても、過去愛していた人のことを嫌いになっちゃうわけじゃない。愛がなくしちゃうわけじゃないから。悲しんでいつまでも不幸のままでいられるよりも、…誰かを愛して、幸せでいてくれた方が私も彼も嬉しいって人間だったからさ」
 「……本当ですね」
 それは誰も彼もにも当てはまる心情ではないのかもしれなかったが、それでもつくしも思う。
 自分が愛する人の幸せにもはや関わることができないというなら、せめて幸せでいて欲しい、毎日に小さな喜びを見つけて生きる喜びを謳歌していて欲しいと。
 死者ではない自分は、小さな疼くような痛みをいつまでも完全に無くすことはできないだろうけれど。
 …でも、私は大丈夫。
 類が、陽太が、たくさんの愛する人たちが彼女に愛を与え、生きる喜びを思い出させてくれたから。
 「旦那さん、ステキな人だったんですね」
 「うん、すっごくね」
 …そして、滋さん、あなたも。
 ストレートに口にすることは、照れ臭くて、つくしにはとても難しいことだったけれど。




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離婚して10年弱。住む世界も違うのにF3全員と繋がっているつくし。復縁サポート体制万全!
結局原作のように滋は「つくしを愛する司」を愛していたことを悟るんでしょうね。
ちょっと滋に同情しちゃいます。

こ茶子さん、こんばんは♪
類との別れを選択するほど強い つくし。
戒とももう会えないだろうと覚悟できる つくし。
>…でも、私は大丈夫。
そう言い切れる つくしの強さ。
それが、これからどう出てくるのか楽しみです。
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