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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0869

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 思わぬ礼の言葉に驚いて、ポカンとした間抜けヅラを司の前で晒してしまう。
 そんな彼女の子供じみた顔がよほどおかしたかったのか、冷たい一方だった司の顔がわずかに緩み、笑った気がした。
 気のせいだったかもしれなかったが。
 しかし、さすがにそれで一気に気まずさが解消されるというはずもない。
 「あ、…えっと、まさか、お礼を言われるとは思っていなくて」
 首を傾げて、言葉なく先を促すような司の待ちの姿勢に、なんとか自分の中の気持ちをできるだけ平坦にと心がけて、口にする。
 感情的になってしまうわけにはいかない場面だ。
 それでも、どうしても緊張にシドロモドロになってしまう。
 「その、…戒と出くわしてしまった経緯はともかく、あの子を勝手にウチに泊めたりして、結果的に離婚の時の取り決めを破ってしまったので」
 「文句を言われるとでも思ったか?」
 「えっと」
 「訴えられるとでも?」
 危惧していたことをそのまんま言い当てられてしまう。
 海千山千の狐狸妖怪渦巻く経済界でその人ありと謳われるほどの人物なのだ、司は。
 彼女の考えていたことぐらい見透かされていても、少しもおかしいことではなかっただろうが、あれほど気に病んでいたことをこうもあっさりと口にされてしまうと反応に困る。
 「たしかに書面にもして、約定したことを反故にされては困る」
 「……っ」
 「が、勝手に泊めたもなにも、戒の方が転がり込んできたんだろ?」
 「それは…」
 自分もそれを望んでいたのだ。
 家に帰れ、連絡をしろと戒をたしなめながら、その本心では彼が家に来てくれることを喜んでいた。
 少しでも戒と一緒にいたかった。
 たとえ産みの母親だと名乗れないにしても。 
 「どのみち」
 「………?」
 「お前が泊めなければ、別の女のところなりに転がり込んでいただろうからな」
 「それって」
 『………お待たせいたしました。そろそろ廣方様のお宅に到着いたしますが』
 インターフォン越しに運転手の声が割り入った。
 窓の外へと視線を向ければ、たしかに見慣れた自宅近辺の界隈だ。
 運転手は道明寺家お抱えの運転手で、戒の送迎にこの辺にも何度か訪れ道を知っている。 
 「えっと、そこの角のところで降ろしてもらえれば助かるのだけど」
 司へと依頼するが、
 「家の前まで行って、そこで停めてくれ」
勝手に指示されてしまう。
 「ちょっ!待って、家のまん前じゃなくって、いつものところにしてくださいっ!……こんな目立つ車を家の前になんか停められたら、近所の人たちに何事かと思われちゃうわ」
 戒もそこらへんは気遣って…というか、つくしが一度頼んでからは、3ブロックほど離れた、他の場所より少し道幅の広いあたりに車を待たせるようにしてくれていた。
 こんな時間帯だ。
 近所も寝静まり、見られることもないとは思うが、やはり物見高く特別視されてしまうよなことは避けたかった。
 『どう致しましょうか?このあたりでお停めしてかまいませんか?』
 そんな彼女の心づもりを完全に理解できたわけではないだろうが、それでも司もため息一つ落としただけで、二つに分かれた指示に困っている運転手へと指示を出しなおす。
 「ハァ……そうしてやってくれ」
 『かしこまりました』




*****




 「すぐそこなんだから、一緒に降りてなんてくれなくても良かったのに」
 「今さっき、妙なヤツに付け回されて、倒れたのはどこのどいつだよ?」
 そう言われてしまうとその通りなので、言い張ることができない。
 実際、そんなことがあったさっきの今で、ホンのわずかな距離でも夜道を一人で歩くことを心細く思っていたところだ。
 ついいつもの習慣と、司への複雑な感情、彼にこれ以上のなにを言われていまうかという恐れと気まずさに、一刻も早く車を降りることを選択してしまっていたが。
 …こんなことなら、今日くらいは家の真ん前で停てもらった方が良かったかも?
 それでも密室の中で二人っきりよりは、気まずさは多少紛れる気はした。
 「…ここか?」
 恐怖を感じながら歩く3ブロックは遠いが、距離にすればホンの5分ほどのことだからあっという間だった。
 ましてや、人一倍体格の良い司が一緒なのだ、恐怖を感じる間もない。
 いつもは行き過ぎる通行人にさえ、妙な妄想をしてしまいビクついてしまうこともあるというのに、背後を歩く別の通行人の足音にさえ平静でいられたのは、司のおかげに違いない。
 そうこうしているうちに道明寺邸の屋敷のように門扉などないから、道路から駐車場を兼ねた猫の額の敷地を抜ければすぐに自宅の玄関の前に辿り着いてしまう。
 「今時、熱感知式じゃなく、つけっぱなしの外灯なんて、一般の住宅では珍しいんじゃねぇの?」
 「よく知ってるわね」
 不夜城のごとく、広大な建物全体で煌々とした明かりを灯している屋敷に住んでいる男の常識的な言葉に驚かされる。
 「バカにすんな、防犯の基本だろ?最近じゃ、省エネの余波もあって、ウチでも今は主体を自動点滅型のもの変えている」 
 「へぇ、そうなんだ」
 たしかにそれだけでも、各国に複数の広大な大邸宅を持つ道明寺家の維持費は大幅に削減できることだろう。
 見えないところでのそうした地味な努力は、その道明寺家の家屋敷を取り仕切る立場だったこともあるつくしにもよく理解できる。
 「一応、そっちに自動点滅型の外灯もあるんだけどね」
 と、いうか元々についていたのはそちらの方で、今現在使用している手動式の点灯型照明は、つくしが進に頼んで設置してもらった仮設のものだった。
 「使ってないのか?」
 つくしが点灯ランプの真下、本来の外灯の感知範囲に入っても、消灯したまま点灯しない。
 それでは防犯の役目どころか、照明の役目も果たしていないだろうと、司の顔が呆れている。
 「なんか、怖いじゃない?」
 「怖い?なにがだよ?」
 「いきなり暗闇からパッと明かりが点いたりすると自分の方が驚かされちゃうじゃない」
 「驚くから防犯効果が高いんだろ?」 
、「それはそうなんだけどね。でも、イヤなのよ。それに、…今時の家ってどこもかしこも真っ暗だから、自分の家の前くらいは明るい方がホッとするの」
 街灯の明かりの届かない部分の闇を恐れる彼女には、自宅の前に灯る明かりがそれらの恐怖を払ってくれる希望の光のように思えるのだと言っては大げさすぎるだろうか?
 だが、そんなことをこの目の前の男が理解してくれるとは思えなかったし、理解してもらいたとも思わなかった。
 今、どうした運命の悪戯か、再びこうして顔を合わせているが、本来もう二度とは会うこともなかったはずの相手なのだ。
 わずかに眉根を潜めて、彼女の言葉の真意を考え込むようにに髪に潜らせている大きな左手の薬指にハマった金の指輪を見るともなく眺めてそんなことを思う。

 ―――かつては、彼女の指にもハマっていた彼と揃いのあの指輪は、そういえばどうしたのだろう。
 …捨てちゃったか。
 彼女が置いてきたのだ。
 永遠にさよならと、言いおいて彼のもとへと。
 そして、今、司の指にハマっている指輪はその指輪の片割れではないことは、リムジンに向かい合って座っている時から気がついていた。
 …当たり前じゃないの。
 「じゃあ、私はこれで。…送ってくれてどうもありがとうございました」
 頭を下げ、さっさと玄関の鍵を開けて、司を見送ることなく彼に背を向け、家に入る。
 「……戸締り、ちゃんとしろよ」
 ドアが閉まる一瞬前、司のそんな言葉が耳に届いた。



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NoTitle

こ茶子さん、こんにちは♪
戒が母親だと知ってることを知らないのは、つくしだけなんですね(悲)
司視点のお話が読めるんでしょうか?
外灯ひとつとっても つくしはね、清貧に、一人で生きていく準備と覚悟をしてるんですよ(涙)

前に3/21とコメントしたような気がするのですが、3/11ですm(_)m

こ茶子さまこんにちは。

ここからどうなるの!?
とひたすら気になりますε-(´∀`; )

本当に読者を飽きさせないですね!

今1番の楽しみは朝の6時です(o^^o)

更新頑張って下さいね!

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