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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0867

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 その女は、父と母が高校生当時、世田谷でメイドをやっていただけではなく、つくし付きとして、特に近しい位置にいたらしい。
 だが、女の顔はつくしへと嫉妬もあらわに、彼女の主観によるものではあっても、二人の過去を戒へと暴き立てた。
 『たしか、牧野つくしも英徳だったはずだよな?』
 司の英徳での権威を知っていたはずだ。
 英徳の王者、誰もが敬い崇めることはあっても、厭うことなどありえない絶対的な権力者。 『詳しいことなんて、私も知りやしませんよ。でも、ある日、司様があの人を突然連れてらしたんです。その…怪我をしていたみたいで、同僚だった小川さんと私と、あと何人か交代で、あの人の看病をしたりしたのが始まりです』
 最初、その女が言いにくそうに言っていた怪我の意味を戒はわからなかった。
 母が英徳で赤札を貼られ、全校生徒からイジメを受けていたことはすでに既知のことだったから、そのことによる怪我かと思っただけだ。
 けれど、話を聞いてゆくうちに、そうではないことに気がつかされた。
 『イヤがる女なんかに手を出されなくても、あの方ならいくらでもどんなにお綺麗な女性だった、資産家のご令嬢だって手に入るのに』
 悔しそうな声音に含まれていた真実。
 恐ろしい予感に、とっさに戒はそれを尋ねることができなかった。
 あたりまえだ。
 どうして、自分の父が母に乱暴をしたのかなどと、平然と尋ねることができただろう。
 けれど、
 『最初のウチは泣いてばかりで、司様も鬱陶しく思われていたはずなんですよ?あの方は泣く女がお嫌いだから。でも、そのうち、おもねって媚を売ることもあって、ああ、やっぱりって。でも、何が気に食わないんだから、そうかと思えば、司様を怒らせるようなことをしたりして』
 『な…んで、泣いてばかりいたんだ?』
 『……それは』
 言いにくそうな女へと畳み掛けた。
 『道明寺司が見初めたらなら、どんな贅沢だってさせてやっただろうし、誰だって喜ぶものだろ?』
 あえて俗物的な表現を使った。
 そして、たいがいの女が実際そんなものだった。
 愛が欲しいと、欲をかくほどに司に近づける女はそうはいなかったから、たいがいの女はそうして彼のオプションで満足したはずなのだ。
 この期に及んで迷う風な女に、自分が調べたこと―――会社の営業成績が良くなく出世が伸び悩んでいる夫への便宜をチラつかせ、もし自分の意に沿わなければせっかく長年勤めている会社からも容易に放逐されることになるかもしれないという脅しを含ませた。
 戒は自分が何者かはハッキリと名乗らなかったし、未成年ということから日本ではまったくメディアに露出したことがなく、知名度がなかったから何者かまではわかっていなかっただろうけれど、それでも戒の容姿が彼の身分証明書となっていただろう。
 コクリと唾を飲み込み、女が完全に落ちた。
 『司様はかなり強引なことをされていたんですよ』
 『……………』
 『あたしたちだって、司様があの人のベッドに入られていた時には遠ざけられていたから、本当のことなんてわかりはしませんけど、最初に来た時にはかなりひどい有様で、…さすがの私も、その驚きましたし……たまに叫び声とか、悲鳴とかも聞こえてましたし、たまに凄く様子がおかしい時とかもあって、ボウッとしてたり、泣きじゃくったり。犬が来た時にはマシになってましたけど、その犬が…あ、いえ』
 『ハッキリ言え。最初ってなんだ?なんで叫んだり悲鳴を上げたりするんだ?…あいつは、道明寺司は自分の女に、暴力を奮ってたってことか?』
 『そんな滅相もない…ただ』
 『ただ?』
 『……あの人は、つくしさんは、司様とその…そういうことをするのがイヤだったのだと。わかるでしょ?最初もね?たぶん、イヤがって、それで』
 嫌がる女と同衾し、強要する行為。
 それは一つしかない。
 ―――レイプ。
 初めて邸に連れられきたつくしは、司贔屓の女から見ても、暴行を受け意識を失くして連れてこられたのだと。
 まるで道端で拾ってきた犬猫のように。
 犬猫との違いは、それを嫌だと抗うことがあり、つくしは司を毛嫌いして寄せつけようとしなかったが、それは肉体的にも彼らの上下関係的にも出来ることではなかったというだけのことで。
 「はっ……はは…ははは」
 その引き攣って乾いた耳障りな笑い声が、自分のものだと、戒は最初気がつかなかった。
 おかしくもないのに笑えてしょうがない。
 情けない泣き笑いが、呻き声に変わる。
 …馬鹿な。あいつが、そんな。
 いくらなんでも信じられなかった。
 あいつは道明寺司なんだぞ?
 女の言ったとおり、どんな美しい女も財産家の女も手に入る。
 自ら媚びて、彼のものになりたい女などいくらでもいるというのに、自分を嫌がる女に無理強いなどするだろうか?
 だが、嘘じゃない。
 あの元メイドが、そんなウソをつく理由がまったく思いつかなかったから。
 そしてこれまでの過去、彼が得てきた様々ピースが、それが真実なのだと彼に指し示す。
 その女は、つくしが世田谷の屋敷にいた間、ずっと道明寺邸にいたわけではなく、途中自己理由でやめていたらしいからその後のことは、偶然街中で出くわした元同僚から聞いたそうだ。
 司に半ば監禁され、飼われていたような状態だったつくしはやがて妊娠し、…自殺未遂を図ったらしい。
 流産。
 そして、記憶を失った。
 すべての過去を、自分自身さえも捨て去って、過酷な現実から逃れようとしたのか。
 『閉じ込められていたわけじゃないんですから!』
 まるで免罪符のように言っていたが、司に目を付けられてしまえば、たとえ身体的に拘束されていなかったとしても精神的には監禁されていたも同然だっただろう。
 …逃げられるはずがない。
 司にはそれだけの権力があった。
 少なくても、当時、そう英徳の学生たちに思われていたことは、同じような立場を自ら作り出していた戒には容易に察せられる。
 NYでもイギリスでも戒は、絶対的な支配者であり、自分に逆らうものには容赦ない制裁を加え、その苛烈さで、大人たちの世界での権力とは別の権力を有していた。
 ましてや、当時、楓が司の暴挙をかなり見過ごし、その結果に引き起こした数々の事件をもみ消していたフシがある。
 自分の息子をロクに制御することもできず、その不始末の尻拭いに奔走していたような女が、偉そうな顔で自分に説教をしていたとは笑止千万な話だ。
 戒の顔に初めて祖母への明確な嘲りが浮かぶ。
 彼が雇った調査員がどこからか引っ張り出してきた、当時シンデレラガールと持て囃され、雑誌等に掲載されていた母の写真を戒は思い出した。
 美しく装われ、いかにもそのキャッチフレーズに相応しい身なりを整えられていたが、どこかその顔は不安そうで、儚げというよりは不安定な弱さを垣間見せていたように思う。
 …今とは全然違うよな。
 だから最初気がつかなかったのだ、きっと。
 若々しくも、明るく溌剌とした現在の母の顔を思う。
 『ごめんね』
 母が自分を見て、切なさそうな顔で謝るたび、苦しそうな顔をするたびに、いつも叫び出しそうな自分を堪えるのが難しかった。
 …あんたは何一つ悪くない。
 それなのに、そんな悲しい顔をしないで欲しい、と。
 母が夜中に魘されるたび、許しを請いたかった。
 iPodをつくしの下へ忘れてきたことに気がついて、だが、戻るかどうか迷ったのはだからだったのかもしれない。
 もう二度と会わないはずだったのに、後ろ髪ひかれる思いに戻らずにはいられなかったのだ。
 …母さん。
 病院の敷地を通り過ぎ、門を出てすぐに、背後を歩く別の人間の気配に気がついた。
 何食わぬ顔で塀の角を曲がって、そのまま何も知らないで彼をつけてきている相手が、角を曲がって、間近で待ち受けていた戒の姿にギョッと仰け反った隙を付き、羽交い締めにする。
 肩を完全に硬め、腕で首を絞めあげてやる。
 「ぐわっはぁっ!は、離せっ、か、戒っ!く、苦しい、うぅっぁぉっ」
 「……お前も懲りない奴だな、徹。さすがの俺も愛想が尽きた。そんなに俺にシメてもらいたかったのかよ?」



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NoTitle

今日のお話は胸いっぱいで重苦しいですね~;;
戒はここまで詳しく知ってしまったのですね
坂城ーーー!!!ムキー!女の嫉妬かな
いやあ~きっついですね
徹がらみで司に立ち向かうのは最終章だとしたら、先はまだ長いですね(笑)
司もつくしもここまで詳しく戒に知られるとは思ってないでしょうし、今のつくしの気持ちを伝えてやって、ちょっとでも戒の心を救ってほしい
でも、いつかのチラ見せからは、そうは問屋が卸さない。。。。ってとこですね(^_^;)

ヨシッ!

こ茶子さん、おはようございます♪
>戒の顔に初めて祖母への明確な嘲りが浮かぶ。
ヨシッ!┛
>もう二度と会わないはずだったのに、後ろ髪ひかれる思いに戻らずにはいられなかったのだ。
ヨシッ!┛

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初コメです!

こ茶子様
毎日素敵なお話の更新ありがとうございます!昨年パス廃止になってからなんとなく読み始め、今ではどっぷりハマって年末年始に1話から読みました。
普段はハッピーなつかつく二次専門なので、こ茶子様の他の長編は敷居が高くてまだ読んでいないのですが、短編中編とも素敵なお話が多くて楽しませていただいてます。
先週司が登場してからコメたくさんついてますね。私も毎日大興奮です!でも今日は重い...(:_;)
頭脳明晰で孤独な闇を抱えた多感な時期の戒。ここまで知ってしまったら司を刺し殺してしまいそうでハラハラしてます。
ここからハッピーエンドに果たして辿り着けるのでしょうか?早く続きを読みたいような怖いような。
次のつかつく章を楽しみにしています。お身体に気をつけてください。

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