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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0866

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 まさか、と思った。
 こんなところに司がいるはずがないのだから。
 けれど、半信半疑に尋ねかけた問いかけに、司が頷き肯定した。
 「ああ、久しぶりだな」
 「な、なんであんたがここにっ?!」
 慌てて飛び起きかけて、クラリと目眩を誘発しかけて、そのまま枕へと逆戻りしてしまう。
 「急に起き上がるな。…さっきまで鎮静剤の効果で眠っていたんだ。急に起き上がれば立ち眩みもする」
 「……私?」
 状況がわからない。
 …たしか、戒?
 戒のiPodを届けに、必要最低限、めったに一人では出歩かない暗い夜道へと飛び出した。
 「あ、ああ」
 途端蘇った記憶に、再び過去の記憶をフラッシュバックさせかけ、呻いて顔を覆う。
 …何もなかった。
 何もなかったというのに、ドキドキと胸が動悸打ち再び過呼吸の発作を誘発しかねない不安に襲われる。
 パニック障害※―――。
 これも彼女が患っていたPTSDの一つで、過呼吸そのものもそうだが、過呼吸を起こすのではないかという不安が、新たな障害を引き起こして彼女を悩ませた。
 それさえもここ数年は出ることなく、快癒へ向かっていると思っていたのに。
 …ダメね。私ったら。
 いつまでたっても乗り越えることができない自分の弱さが疎ましい。
 けれど、
 「大丈夫か」
 懐かしい美声に労われ、覆ってしまっていた手をゆっくりと外し、顔を向ける。
 …司。
 まだ、信じられない。
 そこに彼がいることが。
 あまりに非現実的すぎて、今そこにいる彼に自分が感じている感情を処理しきれていない。
 かつて、憎んで、恨んで…そして、愛していた。
 今も忘れがたい人。
 けれど、今の自分が果たして、彼をまだ愛しているのか、それとも遠い過去の人だと懐かしんでいるだけなのかさえもよくわからなかった。
 類を愛していた時には、同時に司のことをもまだ愛していたように思う。
 けれど、すでに彼と別れた時から10年近くの歳月が経っているのだ。
 第一、いまさらどんな感情を彼に抱いていたとしても、彼には何ら関わりのない話には違いない。
 「えっと」
 「ああ?」
 「その…なんで、あんた、いや、つ…、道明寺、さん、あなたがここにいるんですか?」
 どう彼を呼ぶか、そんなことさえも迷って、結局もっとも他人行儀に尋ねかけてしまう。
 わずかに司の眉根が寄ったと思ったのは目の錯覚か。
 …変だったかな?
 だからといって、今や他人である地位ある男にタメ口で馴れ馴れしく話すのも躊躇われて、そのままの口調を維持することにする。
 「戒が世話になっていたそうだな」
 「……あ」
 司の言葉に、つかの間の懐古や戸惑いはぬぐい去られ、現実的な自分の立場を思い出す。
 よもやいきなり訴えられるなどということはあるまいが。
 それでも見方によっては、つくしが持った戒との交流は、親による拉致が珍しくないアメリカなどだったら、容易に訴訟問題にも発展しかねない所業だった。
 「あの……」
 何をどう言えばいいのか困惑して、何度も唇を舐め、意を決したところで、
 「あら、牧野さん、目が覚めていたのね。良かったわ」
 仕切りのカーテンがわずかに開いて、看護師が顔を覗かせた。




*****




 つくしが自分を生んだ母親だと、戒が気がついたのは、彼女と再会してずいぶん経ってからだったが、それでもつい最近というわけではなかったと思う。
 しかし、わかっていて、知らないフリをしていた。
 いや、きっと、自分自身にすら嘘をついていたのだ。
 かつて、真実を知りたいと渇望しながら、婉曲な方法ばかりをとって、その全てを知っているだろう当の父親から聞こうとはしなかったのと同じように、知りたくない真実を知ってしまうかもしれないという怯懦から。
 …まったくとんだ臆病者だ。あの人に知られたら、また、まだまだだと嗤われるだろうな。
 楓の冷笑を思い浮かべて、自嘲する。
 戒はつくしを母だとわかって、…このつかの間のサマーバカンスを終えれば、もう彼女とは二度と会わないつもりだった。
 かつて、父が彼に言ったことがある。
 ―――つくしのことはもう二度と口にするな。あいつのことは忘れろ。それがお前の母親を守ることになる。あいつが望んだ通りの自分の人生を自由に生き直せる唯一の方法だ。
 司がどういうつもりでそう言ったのかはともかくとして、それは真実だった。
 戒が道明寺戒であり、つくしがその彼の産みの母であるかぎり、そのことは彼女に一生ついてまわることなのだ。
 そして、もし、彼女の幸せを願うなら。
 …俺は他人のまま、もう二度と会わないほうがいい。
 いまさら母親が恋しい年齢でもない。
 最後に、彼女が望んだ場所へ出かけて、それで終わりにするつもりだったのだ。
 それなのに、
 ーーー戒って呼べば?
なぜ帰り際、寂しげな彼女に、まるでこれからがあるようなことを言ってしまったのか。
 さらには母を家まで送り届けて、何度も通ったその道を逆に戻ってそぞろ歩きした。
 母の住む街。
 母がこれからも生きている場所。
 自分とは縁のないその場所を憶えておきたかったのかもしれない。
 …俺のもう一つの半分である女。
 子供みたいな笑顔で、彼の一挙一動に喜び、愛しそうに見つめてくれた。
 どうして、自分なんかを、生まれてこなければ良かったと疎まないのかと、何度も聞きたかった。
 どうして、そんな顔で自分を見ることができるのかと。
 かつて、世田谷の道明寺邸で勤めていたという女が言っていた。
 『司坊ちゃんが、司様があの人を閉じ込めていたんですよ。あんな普通の女、どこが良かったのか。司様から見初められる光栄がわからないなんて、多少おかしくなったって自業自得です。どんなことだって望めば叶えてくれる方だっていうのに、家に帰りたい、そればっかり。信じられなかったですよ!』
 …あいつが、あの男が、イヤがる母さんを奪って監禁して、―――壊した。



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違う意味でも泣ける

くぅ・・・相変わらずこ茶子さんの変化球が冴えている。
ええ、分かってましたとも。こうくるだろなと(・ε・` ;)
そして、誰もが思ったはず・・・。

「(看護師、来るのはえよ!てめえはまだ呼んでねえよ!)」
「(やっと再会したんだぞ・・・)」
と、心の叫び。 by司

同じように思った読者もたぶんいるはず(笑

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懐かしい美声

こ茶子さん、おはようございます♪
はー、有無を言わせない圧倒的な再会でしたね☆
>懐かしい美声
ついウットリしてしまいました^^

さあ、戒だ★
14歳でなくても息子なら許せない父親の所業だし、あとを付けてた少年ともどう対決するのか。
こ茶子さんに期待してしまうではないですか(^^)

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