「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0863

 ←愛してる、そばにいて0862 →愛してる、そばにいて0864
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「きゃあああああっ!いや、いやっ、いやああああああっ」
 完全にパニック状態になって、羽交い締めにしてくる少年の顎をツッパリ、手を鉤爪にして相手の胸を掻きむしり、死に物狂いで暴れ続ける。
 だが、どんなに逃れようとしても逃げられない。
 あの時と同じで、女の細腕では大きな男の力に抗うことなどできなくて。
 …助けて、助けて、助けてっ!
 恐怖に埋め尽くされた頭が沸騰しそうな熱で爆発してしまいそうになる。
 本当に怖くて。
 しかし、
 「落ち着け!落ち着けって」
 「離してっ!」
 ガリッと鈍い音を立て、人差し指の爪が男の頬の皮膚を捕えて引き裂く。
 「…っ!」
 小さく悲鳴があがって、咄嗟に拘束が緩む。
 そのまま崩れ落ちて、つくしが地面に蹲った。
 本来ならば逃げなければならないだろう事態だというのに、今の彼女はそんな冷静な判断もできないくらいの動揺と衝撃に、全身をガタガタと震わせ泣きじゃくるだけで何もできない。
 そんな彼女を見下ろし少年―――戒は舌打ちをした。
 とりあえずそんな彼女を放置して、彼の姿に立ち尽くす相手へと目を凝らす。
 暗闇に影になった男は、おそらく自分と同じ年頃の少年で、彼よりもずっと小柄で痩せて貧弱だった。
 やがて、闇に慣れた目に次第に相手に姿が見え始めて、戒が目をわずかに見開き怪訝にな呟きを落とす。
 「お前……」
 けれどその呟きで、相手も呪縛から解かれ、瞬時に身を翻し、脱兎のごとく走り出す。
 「待てっ!」
 戒が追いかけようと足を踏み出した途端、足元に蹲っていたつくしが引き攣った小さな悲鳴を上げ、喉を抑えて床を転げ回り出す。
 「マキさんっ!」
 慌てて抱き起こす戒の声もつくしの耳には届いていない。
 …く、苦しい。
 過呼吸の発作だった。
 闇の中から現れた襲撃者が過去の悪夢をフラッシュバックさせて、つくしの精神をパニックに追い込み、発作を引き起こす。
 苦しむつくしの体を抱き寄せ、戒が必死に声をかけ、大きな手で鼻ごと口元を覆う。
 「クソッ、落ち着いてくれ。頼むから、大丈夫だから!」
 「ひ――ッ、ふっ、ハッハッハッ……ハァハァ……ハッ」
 呼吸ができない苦しみと酸欠による苦痛に生理的な涙が溢れ出す。
 抱きしめてくる体の温もりは、先程まで感じていた恐怖ではなく柔らかな慰めと力強い安心感を伝えてくれる。
 目が見えない。
 …誰?誰なの。
 霞む視界の向こうに見える面影に、つくしは必死で手を伸ばす。
 「母さんっ」
 …戒。
 やがてはつくしの意識が遠ざかり、視界も閉ざされ……完全な闇に飲み込まれた。




*****




 「ハァ~、どう見ても、やっぱ俺の酒量って若い頃に比べてだいぶ落ちたよな?」
 ボヤく総二郎は、個室でひと目もないのを良いことに、だらしなくソファに横になり片腕を目の上に置いて寝る姿勢になってしまっている。
 もちろんそれこそ若い頃とは違って、それなりにセーブもしているだろうから、半ばポーズであとは一休憩しているだけのことなのだろう。
 「お前の方は相変わらずってやつだな?」
 チラりと司を振り返る総二郎の目には半ば感嘆、半ば呆れが含まれている。
 そんな総二郎をよそに司の方は、両膝を肘置きに俯きかげんに淡々と酒を傾け、普段自室の寝室での晩酌と大して風情が変わらない。
 実際、これくらいの酒量で潰れることを心配する必要もなかった。
 「お前、明日も仕事だろ?」
 「…いや」
 「へぇ?オフなのか?」
 「いや」
 「どっちなんだよ」
 どちらも否定する司に仕方なさそうにため息をつき、総二郎もソファから起き上がる。
 「まったくお前に午前様まで付き合ってたら、こっちは潰されちまいそうだ」
 「とことん付き合うんじゃなかったか?」
 司の揶揄に、総二郎が大げさに顔を顰める。
 「冗談。俺は明日仕事」
 「酒の臭いをプンプンさせて茶席ってか?」
 「だから、ここらで俺は退散させてもらうの。…ま、午前中一杯はここんところ放ったらかしにしてた、雑務の処理をうちん中でやるだけだし、午後になるころには酒も抜けるだろ」
 「ふ…ん。スペアが控えてる若宗匠は気楽なもんだな」
 「フざけろ、そんなわけあるか」
 さすがの総二郎も多少はムッとしたらしい。
 が、しょせん気の置けない間柄のジャレ合いの延長のようなものだ。
 歯に衣着せぬ物言いも互いに慣れたもので、一々腹を立てていては子供の頃からの友情など続きはしない。
 「とはいえ、お前だって本拠地留守にしてこっちに戻ってきたからには、それなりに気楽になれるような対策作ってきたんだろ?」
 肩を竦めて答えないのは、総二郎も想定内だ。
 司にしても、探りに一々答えてやる義理はない。
 そんな感じに互いにジャブやフック、時にはスリッピング※を繰り返し、自分の得たいものを得る。
 ブー、ブー、ブー
 「お?」
 咄嗟にお互いにスラックスのポケットを探り、いち早く携帯画面を確認した司が総二郎へと顎をシャクった。
 「なんだ、俺かよ。………おいおい」
 なにかトラブルか、携帯画面を確認した総二郎が珍しく困惑した顔でチラッと司を省みる。
 そうした場合の互いへの気遣いで、何食わぬ顔で司もさりげなく総二郎から目を反らし、手の中の酒へ視線を落とす。
 しかし、意識はやはり電話を受ける総二郎へと向かってしまっている。
 「お前か。ああ、俺………ああっ?!なにぃ、牧野がどうしたってっ?!」
 総二郎の口から飛び出した思わぬ名前に、司が大きく目を見開き、ハッと総二郎を振り返った。
 …つくしっ!?



◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ




web拍手 by FC2





※スリッピング…スリッピング・アウェー。ボクシングの防御技術の一種でパンチをかわしたり、衝撃を和らげる高等技術のこと。ちなみにジャブやフックは同じくボクシングの攻撃技。




関連記事
総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0862】へ
  • 【愛してる、そばにいて0864】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

目が離せません

こ茶子さん、こんばんは♪
読みながら涙ぐんでいました。
これは、戒につくしの今までを全て見せるということなのでしょうか。
戒にも頼れる大人がいて本当に良かった(総二郎、あなたは良い人だ)。
司も一緒に行くでしょうね!?
司vs.戒や、司とつくしの再会、目が離せません。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0862】へ
  • 【愛してる、そばにいて0864】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク