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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0862

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 「あ~あ、…帰っちゃったぁ」
 長く続くことではないとわかっていて、それでもそう呟かずにはいられなくて。
 鍵を開け、玄関に足を踏み入れたまま、三和土を上がる気力さえ湧かずに、つくしはヘナヘナと上がり框に腰を下ろして項垂れた。
 だが、肩からかけたショルダーバックから鍵を取り出す際にファスナーを開けっ放しにしていたせいで、ゴロンと中から財布や携帯電話が飛び出してしまう。
 ぼんやりと散らばってしまっているそれらを見やり、小さくため息をついてかき集めようとして、ふと手を止める。
 「ありゃ」
 携帯電話だと思ったのは、携帯電話ではなく…戒のiPod。
 駅についた際に、トイレに行ってくるからと戒から預かったまま、返し忘れていたらしい。
 「あの子、これがないと困るわよね」
 生活に困るということはないし、大抵の物ならばないならないであっさりと買い直してしまうだろう。
 けれど、この小さな機械の中身は、戒が自分で選んで手間暇かけてストックしたものだった。
 また明日ね、と会える相手ではないのだ。
 迷うことなくつくしは立ち上がって、急いで外へ出て今開けたばかりの玄関に鍵をかける。
 歩幅が大きく歩く速度が速い長身の少年のことだ。
 ざっと見合わした周囲にはすでに戒の姿はなかったが、そんなにすぐに迎えの車に出くわすとも思えず、急いで追いかければ追いつけるかもしれない。




*****




 戒が道を戻って行ってすぐに追いかけたつもりだった。
 いくら元々のコンパスが違うにしろ、戒は別に走って行ってしまったわけではない。
 道明寺家の車が通ってくるだろう国道を目指して歩いているだろうから、方向的にはあっているはずなのに、一向に戒の後ろ姿が見えないことに、つくしは焦り始めていた。
 …もしかして、こっちじゃなく駅の方へ行った?
 ありえない話ではないが、送迎を頼んでいて必要もないのに、公共の交通機関を使うはずもない。
 雨が降りそうなわけではなかったが、それでも曇った空は闇夜に近く、疎らな街灯と街灯の間の闇が深い。
 大きく整備して作られた新興住宅街なだけあって、街の中央を通る道路は人口の規模のわりには立派で太く、美しい並木道に挟まれ、いくつもの公園は人々の目を楽しませ憩わせていた。 
 昼間はジョギングをする人々や、散歩をする人たち、楽しげに買い物をする家族連れに賑わっている。
 道の周囲には大きな病院や学校、スーパーまで要して、便利なこの地をつくしも気に入っていた。
 ―――こういうところに住まいをかまえるのもいいかもしれない。
 そんなことを思ったりもしていた。
 けれど、明るく賑わいでいるこの界隈も、夜にはまったく別の顔を持つ。
 並木道の周囲が住宅ではなく、隣接しているのが商業施設や公共施設のせいか、街灯の間隔が広く、圧倒的に街の灯が少なく暗い。
 ピンスポットで訪れる時には賑わっている場所も、あてもなく歩いているとそのスポットとスポットの間はいかにも寂しく物騒だった。
 実際、チラホラと夜間には痴漢や変質者の出没を噂され、近隣の学校ではそれなりに警告もあると聞く。
 …気のせいに決まっている。
 いつもの不安症が出てしまっているのだと、さっきからつくしは自分に言い聞かせていた。
 すでに20時で閉店し、店員たちが帰宅した後の真っ暗なスーパーを通り抜けたあたりで、背後に人の気配を感じて、何度も振り返っては単なる通行人だったり、気のせいだったりを繰り返して、安堵と焦燥を繰り返している。
 …どうしよう。
 右も左も分かれ道のない道筋で、さっき気のせいだと言い聞かせてからもう何分も、ずっと同じ気配と足音が近づいてくるような恐怖に、つくしは振り返ることできないでした。
 かといって、突然走り出したとしても、民家のあるあたりまで出るにはまだ数kmの距離を行かなければならない。
 …でも、だからって。
 めったに横断歩道も分かれ道もない一本径なのだ。
 戻ることもできない。
 男の足には叶わない。
 ましてや、若い頃とは違う。
 すぐに追いつかれてしまうに決まっている。
 逆に相手を刺激してしまうことをこそ、つくしは恐れていた。
 すでに、彼女の中で背後にいる人間は‘男’であるという確信が出来上がってしまっている。
 ただ問題は、それが何の関わりもない単なる通行人であるのか、そうでないかだけだった。
 カツカツカツカツカツカツカツ。
 カッカッカッカッカッカッカッ。
 単調な足音の差し迫る音が怖い。
 …逃げなきゃ。
 どこへ?
 もはやほとんど駆け足に、前へ前へと足を進めながら、つくしの頭の中には一つの情景が広がって、その時の恐怖が再現され、まるで今その時へと戻ってしまっているかのような錯覚に半ばパニックへと陥りかけていた。
 ドキンドキンと胸が嫌な音を立て、全身から滲みでた冷や汗がぐっしょりと衣類を濡らし、夜風に体温を奪われる。
 ガクガクと震える体の震えが、果たして恐怖によるものなのか、あるいは寒さによるものか、彼女自身にもわからなかった。
 いや、その寒さを感じる余裕を失い、今の彼女の脳裏にあるのは、二つのことだけ。
 ただ怖い。
 そして、
 …どうしよう、あいつに追いつかれちゃう!
 背後に差し迫る足音は革靴ではないのに、彼女の耳にはたしかに革靴の音が聞こえていた。
 「あ…」
 少し行った先の街灯の向こう側に、脇へと抜ける道を見つけた。 
 すぐに民家に出るわけではなかったが、そちらへと抜ければこの永久に続く迷宮のような道路沿いから外れて、いずれは民家のある界隈へと戻ることができるはずだ。
 恐怖に固まってしまっているかのような首を無理矢理に捻じ曲げて、背後を振り返る。
 そこには―――、
 『よくもこの俺をコケにしてくれたな。この淫売が。おまえをメチャクチャにしてやる』
 「いやあああああっ!!!」
 脇道へと向かって猛然と走り出した彼女の横合いから伸びた手に………捕まった。
 ―――誰かっ、助けて。
 …司ぁ!!
 なぜか彼女が助けを呼んだのは、彼女をその時奪い苛んだ少年が―――大人になった男の姿だった。
 


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「」

こ茶子さん、こんばんは♪
20年前類の名前を呼んだ少女が、20年後司の名前を呼ぶ女性になった。
つくしと戒の日々があったから、でいいですか?
まったく先が読めませんが、ひとつだけ。
この日が雨が降る日じゃありませんように…

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