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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0860

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 「牽制?あいつがいまさら、お前につくしのことで何を言ってきたって?」
 「……本気じゃないのなら、手を出すな。下手なマネをするつもりなら、自分を敵に回すことになるから承知しておけ、とさ。いくら今は無関係とはいえ、この俺が類や…お前の女だったヤツに、下手なちょっかいなんかかけるかつーんだよな」 
 だが、司は総二郎の皮肉げなボヤきはスルーして、彼が類から受けたという忠告に、思わず握り締めていたグラスを壁に向かって投げつけた。
 ガッシャ―――ンッ。
 「……おい」
 総二郎が、割れたグラスの転がっているあたりを振り返って眺め、眉を潜め不快げに鼻の頭に皺を寄せた。
 個室とはいえ、ムーディでクラシカルな音楽が流れているのみで、特別な防音設備などほどこされていないバーの店内のこと。
 あるいは、経済誌や芸能誌でも見慣れた有名人二人のその後の気配を探っていた客たちや店員の度肝を抜いてしまったかもしれない。
 いつもだったら、そうした衝動もある程度は抑え込めているというのに、なぜか箍が外れてしまったようにイラついて、ブレーキが効かなくなってしまっていることを、司自身が一番自覚していた。
 …あいつがいない。
 この10年耐えていられたはずのすべてが、この上なく耐え難く…押し殺してきたはずの生の感情が再び蘇ってきているのを感じる。
 そんな感情など蘇っても、何一ついいことなどあるはずもないというのに。
 「お前な」
 「……悪い」
 それでも非を認めるくらいには、まだ度を失ってはいないらしい。
 「いいけどよ。まともに俺に向かって投げ付けなくなっただけマシにはなったってことだろうが、そういうところは相変わらずだよな、お前。ムカつくことなんざ、ザラにあるだろうに、よくそれでビジネスの場では180度変わって冷静でいられるもんだ」
 「……………」
 総二郎にワザワザ指摘されなくても、司も自覚している悪癖だった。
 人にあたることはなくなったが、それでも激昂する自分をいくつになっても完全にはコントロールしきれていない。
 それがビジネスの場では逆に冷えて、感情がなくなるくらいに真逆に成り代わる。
 そのアンバランスこそが、彼の激しい気性の現れだったのだろう。
 その極端な性向を、かつて宥めて、和らげてくれていたのがつくしだったのだ。 
 そして、その彼女が去って、ストッパーは失われ…少年の頃に戻ることはなかったが、逆に感情は凍えるばかりで、機械仕掛けの人形のようにただ仕事をして、最低限の生命維持活動をして生きている…ここ数年それだけだったのに。
 トントン、とノックが聞こえて、ドアの向こう側の店員が声をかけてくる。 
 『お客様、どうかされましたでしょうか?』
 人払いしていたので、すぐに押し入ってくるようなことはないが、かといって放っておけば、喧嘩騒ぎでも起こしているのかと下手をすれば警備でも呼ばれてしまっては厄介な事態へと発展してしまう。
 互いに立場ある身だ。
 顔を見合わせ、総二郎が司に目で確認して、司が店員に返事を返す。
 「いや、なんでもない。ちょっと酔って、グラスを倒してしまっただけだ。適当に、こっちで片付けて置くから、すまないがこのまま放っておいてくれ」
 『……かしこまりました』
 メイプルは司の本拠地の一つだ。
 当然、客はともかくとして、従業員側…特に責任者は彼らの正体を承知しているから、不審があっても多少のことは大目に見てくれるから、その総二郎の返事であっさりと引き下がった。
 「…あいつに下手なマネをするつもりなら、自分を敵に回すことになる?それこそいけしゃあしゃあと、ヤツもそんなことを言えたものだな」
 「司」
 「類の女?!誰がだよっ!しかも、あいつをっ、…つくしを捨てて、静をとっておきながら、……よくもそうヌケヌケと偉そうなことを、フけたもんだぜ、類のやつ!許せねぇ」
 司の怒声は重く激しい怒りに軋み、総二郎ではなければ怖気づいただろう陰惨な響きを帯びていた 。
 「落ち着けよ。牧野を捨てて云々ってやつは、俺も当事者じゃねぇからあいつらが別れたホントのところってやつは知らねぇけど、類と牧野、別れた後も繋がってるようだぜ?」
 「…っ」
 「牧野が類を赦してる以上、それこそお前が何かを言える筋合いじゃねぇだろ?」
 司にはけっして赦されなかったつくしにとっての位置づけ。
 自分は別れても未だ、こんなにも彼女を愛し続けて焦がれているというのに、関わることさえ赦されず、ただ忘れ去られる日を待つことしかできない。
 彼女を手にした類を、どれだけ羨み妬んだことだろう。
 それなのに、その地位をあっさりと類は振り捨てたのだ。
 20年前のあの頃と同じように。
 司が喉から手が出るほど欲しかった女の心を、なんの努力をすることもなく容易に手に入れて、何の価値もないと省みることさえもなかったあの親友が憎かった。
 そうだ。
 自分は類を羨み、妬み、…密かに憎み続けて来ただとあらためて自覚して。
 そんな司の心の動きを、怜悧に観察していた総二郎が、小さくため息をつき、空になっていた自分のグラスと司のグラスに氷を入れ直して、酒を注ぎ入れる。
 コポコポコポ。
 奇妙に長閑なその音に、司の意識が一時的に陥っていた昏い思念の底から浮上した。
 「なるほどな。…類のヤツにどれだけ水を向けても、何が原因でお前と仲違いしたのか口を割らねぇから、なんだと思ってたけどな」
 「……………」
 仕方なさそうに苦笑して、グラスの酒を煽る。
 「だからダチと同じ女に入れ込む七面倒臭いマネなんか、俺はイヤなんだよ」
 総二郎の言い草に彼に視線を向け、その真意を探ってジッと司が睨む。 
 「お前はどうなんだ?」
 「おいおい」
 「あいつを、これまでお前が関わってきた女のように扱うつもりなら、類ばかりじゃねぇ。俺をも敵に回すことはお前も重々承知してるはずだよな」
 「……ハァ」
 心底うんざりしたように顔を顰め、それでも司の本気はそれこそ総二郎も重々承知しているのだろう。
 「さっきも言ったろ。面倒はイヤだと。たしかに牧野のことは気に入ってる。…色気はねぇが、さすがにお前や類が入れ込んでた…いや、未だに入れ込んでる女だ。男勝りっていうのとも違うが、俺らみたいな男にも媚びない、珍しいくらいに一本気な誠実さを持ってる。人間的な魅力があるヤツだ。飯食いに行くにしても、飲みに連れ歩いても気楽だし、あんがい一緒にいておもしれぇ」
 他人を斜めに見て、司と同様めったに他人を褒めない総二郎の最上級の評価。
 そんな女にただ人間的な魅力を感じているだけで、女としての興味もないというのか?
 総二郎のような男が。
 睨む司に苦笑して、
 「これまで女のダチなんか作ってこなかった俺にしては珍しく友情めいたものを感じているのかもな。…けど、それとこれとは別だ。俺はダチの女に手を出さねぇ。たとえ今は類とも―――お前とも、少なくても名前のある関係じゃねぇにしてもな。お前らが心を残してんのがわかっていて、そんな面倒に首突っ込むほど、俺も暇じゃねぇよ」



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わくわくします

こ茶子さん、こんにちは♪
丁寧に丁寧にお話を進めて下さるんですね☆☆
私は、総二郎に期待してます★
客観的なつくし像がわかるのと、総二郎にぜひ女友達を♪、というのでです。

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