「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0857

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 「ふわぁ、可愛い」
 それほどペンギンやアザラシが好きだというわけではないが、やはりこうして間近で見れば可愛くて、ついつい水槽にべったりと張り付いて見入ってしまう。
 「…ふ」
 つくしと同じく水槽の向こうの海獣たちに見入っていた戒が、そんなつくしの声に小さく笑う。
 「なによ?」
 「いや、マキさんの方がよほど可愛いじゃんって思っただけ」
 「はぁ?なに、生意気なこと言ってんのよ」
 憮然と、戒の背中をドつくマネをする。
 「褒めただけだろ?」
 「…どこがよ」 
 この年齢で言われるのも気恥ずかしいだけだが、それ以上に、自分の息子のような年代の少年にそんなことを言われて喜ぶ女がいるはずもない。
 下手をすればイヤミかと穿ちたくなってくる。
 ましてやつくしの場合は、息子のような…ではなく実の息子だ。
 …でも、ちょっとは嬉しいかも?
 「ゴッホン。あ~、でも、ホント残念。プロジャクションマッピングは、今日の部はもう終わっちゃってるんだもんねぇ」
 「プロジェクションマッピング※?」
 「そう、あれ」
 怪訝に首を傾げている戒に、展示水槽上部に掲示してある説明とスケジュールの案内板を指し示す。
 「へぇ、ここでもやってるんだ」
 「見たことある?」
 「何度かね。ディズニーランドとか、シドニーのオペラハウスとかでだけど。水族館のは初めてだな。マキさんは?」
 「私はここで以前、一度見たことがあるだけかな」
 …あの時は司と一緒だった。
 遥か10年前までの失った記憶を取り戻し、代わりのように直近の10年間の記憶を忘れ、司への複雑な気持ちと自分自身の心のありようにおそれを抱いて、…逃げ出したがってばかりいた。
 …いつか、戒も一緒に連れてきてあげたいって思ってたけど。
 まさかこんなにも、時を経過してから後のことになるだなんて、当時は思いもしなかった。
 そして、あれほど自分も行きたかったと拗ねて強請っていた戒には、その記憶はもうないのだろうけれど。
 「ここ、来たことあるんだ」
 「うん」
 「誰と?」
 「………大好きだった人と」
 「へぇ」
 大好きで、大切で、……逃げたがっていたあの頃でさえ、溢れ出してしまいそうなそんな自分の気持ちとの葛藤を必死で抑えていた。
 「それで?そいつと、今も一緒にいるの?」
 「え?」
 戒の顔は彼女ではなく、水槽に向けられていたけれど、彼が目の前のつぶらな目をした生き物たちではなく、遠い別の世界へと向けられているのがわかる。
 戒がひどく遠い。
 そんな感慨が初めてではないことに、あらためて気がつかされ、切なく思う。 
 「もしかして、それって…西門?」
 けれど、戒の口から飛び出した名前に、一瞬でそんな切なさは吹き飛ぶ。
 ひくりひくりと引き攣り笑って、戒を睨んだ。
 「まったくどいつもこいつも、冗談よしてよ」
 「………………」
 「私にだって、選ぶ権利ってものがあるんだからね!誰があんなスケコマシに誑かされるかっつーの!」
 仁王立ちに、つくしはビシッと言い切った。
 「ぷっ」




*****




 「へっくしゅっ!」
 「……汚ねぇな」
 派手にくしゃみをした総二郎に顔を顰めて、わざとらしく手に持った酒のグラスを遠ざける。
 「どっかの女が、お前を恨んで呪いでもしてんじゃねぇの?」
 そんな司のイヤミを、フンと総二郎が鼻で嗤って笑い飛ばす。
 「バカ言ってんじゃねぇよ、お前じゃねぇんだ。俺は綺麗な遊び方はしても、これまで恨まれるようなヘマはしたことがねぇんだよ」
 「よく言うぜ。綺麗な遊び方をしてやつが、女房の妊娠と同時期に隠し子ってか?」
 知られていないとは思ってはいなかったが、それでも普段まったくそうしたことに興味がないだろう司から飛び出したことに、総二郎がため息をつく。
 「…で?そうやって、俺に八つ当たりしたくてわざわざ俺を呼び出したわけじゃあるまい?何が聞きたいって?この際だ、お望みどおり、なんでも答えてやるさ」
 「どうして、つくしのことを俺に話さなかった?あいつが、黙っていてくれとお前に頼んだのか?」
 どうやってつくしが戒や総二郎と再会したのか、そこら辺のことはすでにあらかた調べてあったし、戒と出くわした時の事情や状況に関して、総二郎もウソや偽りを言ってはいないだろう。
 ただ、それ以上のことは黙っていたというだけのことで。
 「いや、牧野からは、別にお前…道明寺家や戒本人に、自分の正体をバラさないでくれとは頼まれてねぇよ。だが、そうして欲しくないと思ってるらしいことはあきらかだったからな。俺も一々お前にご注進するほど暇じゃねぇし、まさかいまさら誘拐だなんだと、戒やお前らの不利益になるようなマネをあいつがするとも思えなかったから黙ってた。だからたぶん戒も、牧野のことを自分の母親だとはわかっていねぇだろうし、お前も実際追最近まで知らなったんだろ?」
 「ああ。唯一、知り得る立場にいたお前が、シラばっくれてやがったんだからな。…だが、それでお前が親友の俺ではなく、あいつを優先した理由を答えたつもりか?」
 「はぁ~、なにをそう目くじら立ててんのかわかんねぇんだけど。そりゃあな、曰く有りな元妻が、息子に近づいてるのが気に入らねぇっていうのはわからないでもない。が、牧野は戒の実の母親じゃねぇか。離婚の時に、どんな取り決めしたか詳しいことはしらねぇけどよ。あいつら、ついこの間再会するまで、10年近くも会ってなかったんだろ?」
 「……………
 「戒といる時の牧野の様子を見れば、あいつが自分の子供に関心のない…もう無関係だと割り切って戒と距離をとっていたわけじゃないってのは、一目瞭然のことだ。ってことはだ。お前が戒との接触を禁じたってことじゃないのか?……俺は、お前が牧野と離婚した当時、お前があいつにまだ未練があったことを知っている」
 「ふっ」
 総二郎がそう言うのも当然だろう。
 つくしが屋敷を出た時、総二郎やあきらと顔を合わせ、未練タラタラで酒に逃げていた姿を見られてしまっているのだ。
 「お前は昔から気性の激しいヤツだ。可愛さ余って憎さ100倍とばかりにあいつを憎んでもおかしくはない話だ。…自分が、恋女房にツれなくされたあてつけなんだか、逃げなんだかで他の女を孕ましたことが、離婚の直接の原因だったにしてもな」
 さすがに司もたとえ総二郎やあきら、親友が相手にしても、つくしが記憶を失うことになった経緯や離婚の真相について、すべてを話してはいなかった。
 おそらく高校時代、つくしが好きで司と同棲まがいに一緒にいるわけではないと気がついてはいただろうが、それでも赤札に屈して彼の権威におもねって保身を図っていたくらいにしか思っていなかっただろう。
 それが普通だったから。
 そもそも彼らに反抗して、向かってくる人間すら稀だった。
 自分たちを心底から拒めるはずがない。
 その傲慢を持っていたのは司だけではなかったのだ。
 つくしとのことは、司も意識的に隠していたわけではなかったけれど、誰にもつくしを奪われたくない警戒心が、親友たちにですら司に口を噤ませた。
 だから、ある程度の事情は察していたにしても、憎んだり…ましてや忘れるどころか、いまだ彼がかつてと同じ気持ちで、今も彼女を愛し続けていることを知らないのだ。
 「それでも、だ。お前、愛してるから別れてやるとまで言い切った女だろ?どんな事情からにしても、そこまで惚れた女から息子を引き離して、それでもう二度と会うな、会わせないって言うんじゃ、どっちに対してもあんまりな仕打ちなんじゃねぇの?」



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※プロジェクションマッピング…コンピュータで作成したCGと映写機器を用い、建物や物体、あるいは空間などに対して映像を映し出す技術のこと。建物ではディズニーランドのホーンテッドマンションやJR東京駅の丸の内駅舎などで行われたものが有名。投影される対象は建築物だけではく、靴、テーブルや椅子、額縁、描かれた絵、人体、部屋、鞄、楽器、樹木などありとあらゆる物。


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~ Comment ~

素敵です

こ茶子さん、こんにちは♪
>「………大好きだった人と」
戒に言うつくしが、素敵です。

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