「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0854

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 「ごめん、待った?」
 我ながらまるで恋人にかけるような声をかけると、エントランスロビーの入口の柱に寄りかかって、スマートフォンの画面に目を落としていた戒がつくしを振り返った。
 当の戒の方は、待たされた自覚があまりなかったのか、つくしの謝罪にあらためて腕時計で時間を確認している。
 「ああ、もう18時過ぎてるんだ?…別にいいよ。どちらにせよ、終業時間ぴったりになんか終わらないってあらかじめ言ってたんだしさ」
 柱から体を起こし、つくしと並んで外へと歩き出す。
 ただそれだけで、撮影の一コマかなにかのようにサマになって、まばらにロビーを行き来する人々の視線を釘付けにしている。
 …こりゃ、誰がどうみたって、この子が私の息子だなんて普通思わないわ。
 見破った奥苑がお見事としか言いようがない。
 それも同じ年頃の息子を持ち、…やはり前夫の元へとその子供を置いてきた者同士、相通じるものからだったのではないか。
 戒とつくしの容姿の相似ではなく、彼と一緒に過ごせることへの喜びと…いずれそんな時間を失うことへの哀切に軋む彼女の心情を、奥苑が感じ取った所以だったのかもしれなかった。
 「だから、どっか近くのカフェとか本屋さんででも時間潰しててくれれば良かったのに」
 「……スマホがあれば、どこにいても同じだし」
 「それはそうかもしれないけど」
 戒とつくしが一見親子だとは思われなくても、彼女が勤めているような大学病院では、どこでかつての知り合いに出くわすともしれない。
 それこそ遥か以前、つくしが司と離婚したばかりの頃、あの浅井百合子と出くわしたように。
 病院のように多くの人達が行き来し、通り過ぎる場所は、さまざまな出会いや思わぬ再会を用意しているところでもある。
 「病院には…職場には来ないでって言ってあったのに」
 言わぬつもりだった言葉を、思わずポロリと零してしまって、あっと恐る恐る戒の顔を見上げ、彼のご機嫌を窺う。
 「……迎えに来たかったんだ」
 「戒?」
 「早くマキさんに会いたかった」
 柔らかく微笑む戒の顔は、泣きたくなるほど優しくて…ひどく美しく、なぜか消えてしまいそうに儚く思えて、つくしを切なくさせる。
 「なんて、グッと来た?」
 すぐに悪戯っぽい顔になって、面白そうにクツクツと笑い出す。
 「ちょっと!いい大人をからかうなんていい度胸してるじゃない!?」
 うっかり自分の息子に見惚れてしまい、羞恥にか怒りにか顔を赤く染めて、つくしが戒の背中をドンッと軽くど突いて憤慨する。
 「なんなのよ、その妙に世慣れた女たらしみたいなセリフは!」
 元々それなりに女慣れしてそうではあったけれど、それでもとてもあの司の息子とは思えない。
 「たまたまこの前、どっかのバーで西門に出くわした時、あいつが女を口説く時に使ってたからさ」
 「はあ?西門さん?」
 どっかのバーに、そもそも中学生の戒がいること自体が聞き捨てならないことだったが、意外な名前に耳を疑う。
 …ていうか、なぜかこの頃やたらと西門さんづいてるわよね?
 ついさっきも、総二郎話題で余計な時間を費やしたばかりだ。
 世の中の女たちの関心を一心に集め、世間一般ではホットに語られる洒脱な美男の話題も、彼女にとって余計な時間潰しでしかない。
 総二郎の個人を知れば、つくしも人として魅力的な人間だと思うが、誠実さの欠片もないプレイボーイなど、つくしの価値観ではゴキブリにも劣る。
 「なんか女と待ち合わせに使った店で、どうも違う女とブッキングしたらしくて、待ち合わせしてる女が来ないうちに、慌ててその違う女連れて店出てたけど、どう見ても怪しいのにその女が何の疑問も持たずに、うっとりした顔で西門の言い訳鵜呑みにしてたからさ。そんなに効き目があるものなのかと思って、ちょっと試してみた」
 「……西門」
 相変わらず実のないことをしてるらしい総二郎に、軽蔑すら感じる。
 …あの人、つい最近離婚したばかりじゃなかったっけ?
 「あんたも、あんなヤツのマネなんかして、不誠実なことしないのよ!?」
 「女に声をかけるなってこと?それとも二股するなってこと?」
 「うーん、女の子に声をかけるのは…中学生でとは思うけど、そんなに悪くないかな。二股の方」
 「なら、そっちは問題ない。…俺、誰とも付き合ったことないし」
 「え?付き合ったことないの?」
 意外すぎる返事に、誤魔化してるのかと思えば、
 「一度や二度寝たくらいじゃ、付き合ってるってうちに入らないだろ」
 赤裸々な返答が返って、言葉に詰まってしまった。
 …まったく何ていうか、今時の子は?
 もちろん戒が彼女を母親だと思っていないからだろうが、息子に自身の奔放な性経験など赤裸々に語られたくなかったのが正直なところだ。
 もちろんイロイロと心配ではあるが、それでも男の子ということもあるからか。
 なんとも複雑な心境だった。
 …そ、そっかぁ。やっぱり経験あるんだ。
 いやわかっていたことだったが、それでも微妙にショックを感じるのはなぜだろう。
 「妊娠とか、病気とか…」
 「もちろん、そういうのは気をつけすぎるほど気をつけてるよ。家庭教師からも煩く言われてたし」
 「そ、そう」
 なんともはや…。
 「なに?知りたくなかった?」
 「…いやぁ、そういうわけじゃないんだけど、なんて言っていいのか」
 「ふぅん」
 「で、でもさ。何事も完璧っていうのはないんだから、そういうことするなら、この人!って、真面目な気持ちで好きになった人としなよ」
 自分でも何をありきたりな説教じみたことを言ってるのかとは思ったが、戒もそう思ったのか、チロリとつくしを一瞥しただけで、同意も反論もしてこない。
 …そうだよ。体だけの関係とか、そんな虚しいこと、して欲しくない。
 戒の場合は少し早い気もするが、10代の男の子と言えば、ちょうど性に対しての興味も欲望も強い頃合だ。
 だからもしかしたら、彼にはそこまでの自覚はないのかもしれなかったが、つくしの中では誰かと温もりを共有すること、肌を合わせて一つになることは、互いへの好意と愛情を確かめ合うもので、愛と幸せを実感ためのものだった。
 なんとなく気まずい空気が流れて、…だが、そう思っていたのはつくしだけだったようだ。
 「で?」
 「え?」
 「これからどうすんの?スカイツリーに行くんだろ?」




*****




 「お、珍しく早えぇな。まさかお前の方が先にいるとは思わなかったぜ」
 待ち合わせた店のカウンターに彼の後ろ姿を見つけて、若き日と変わらない口調の総二郎が隣の席に腰を下ろす。
 ムーディに薄暗い店内をぐるりと見回した際に、こちらへと注目していた女の二人連れと目が合って、バチンとウィンクする。
 「……こっちに呼んだりすんじゃねぇぞ」
 「あきらならともかく、お前と一緒でそんな無謀なことすっかよ」
 女たちが腰を上げてしまう前に、重ねて立てた人差し指と中指を斜めにこめかみに当て、バイバイとジェスチャーして、すぐに前へと向き直る。
 「ハッ、まったくお前は、いくつになってもそう変わらねぇな」
 彼の呆れた口調での嘲りも、総二郎は歯牙にもかけない。
 「変わってたまるかよ。もちろん、公の場ではそれらしく振舞ってるけどな。……逆にお前の方が変わりすぎだろ、司?」



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笑いました

こ茶子さん、おはようございます♪
「総二郎=ゴキブリにも劣る」 笑いました!総二郎に聞かせたい!!
今後の展開に思いを馳せ、胸をパクパクさせています☆
連日のコメント、うるさくてすみません。
ビギナーズ・ハイだと思ってどうかお許しくださいm(__)m

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