「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽③

愛してる、そばにいて0850

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 「レイプ」
 つくしが弾かれたように戒の顔を窺う。
 手の下から現れた戒の顔は、表情をすっかり失い…どこか、あの恐慌の日の司によく似て、それでいて非なるものだった。
 ひどく傷ついて憤っているのがわかるのに、冷たい怒りと憎悪に染められたその目には鈍い光が覗くばかりで、虚のような目の狂気…と絶望がつくしはひどく怖かった。
 その怒りと哀しみに飲み込まれてしまった戒がどうにかなってしまいそうで…。
 片手で震える唇を抑え、つくしが思わず一歩戒から後退る。
 そんな彼女の怖気づいた気持ちが戒にも伝わってしまったのだろう。
 まるで夢から醒めたように小さく泣き笑いに苦笑した戒の顔には、深い哀しみと紛れもない痛みに翳り、彼の今感じている苦悩をあらわにしていた。
 「怖くて、痛くて、辛くて、苦しかった」
 「……あ」
 「そうその女は言ってたよ。……何年経っても忘れられないって。何年経っても、どれだけの年月が経っても、辛くて、苦しくて堪らないって泣いてたよ」
 …怖くて、痛くて、辛くて。
 苦しかったその気持ちは、どんなに時が経っても忘れることができない。
 それはそのまんまかつて叫んだつくしの想いで、戒の言う女の言葉は、彼女の胸の奥底深くに沈めたはずの傷痕を思い起こさせ、物理的な痛みさえも感じさせてしまう。
 「か……マキさんも、苦しかった?ずっと?」
 「……私は」
 戒の問いかけに答えることができない。
 否定することも、否定することさえできずに、ただ首を横に振る。

 そんな彼女から視線を反らし、俯いた戒が自分の手のひらを眺め、まるでその手の中にある何かを握り潰すようにしてゆっくりと握り締め、吐き捨てる。
 「レイプなんて人間として最低の行為だ。デカい男が力の弱い女を無理やりにヤって、その女を…何度も何度も殺すんだ。たとえ本当に殺さなくても、その女の心を壊してめちゃくちゃにして、未来永劫ずっと苦しめ続ける」
 胸が苦しい。
 喉が詰まって、ドロドロとした熱い塊のようなものが、胸の奥から込み上げ、言葉にならない感情が溢れ出す。 
 乗り越えたつもりだった。
 それなのに、あの日、あの時の司の姿をした、目の前の少年が、彼女の感じていた苦しみを、悲しみと絶望を語るのか。
 まるで司がその場に現れたような錯覚につくしの体がその場に崩れ落ちる。
 「ぁあっ」
 …違う。
 違うのに。
 ここにいるのは、あの日の司などではなく、彼女が産み落とした彼女の息子だというのに、蘇った自分の憎悪が、この目の前の最愛の息子へと向けられてしまうのをつくしは怖れた。
 それなのに、
 「……ごめん」
 「っ!」
 「ごめん」
 「どうして…どうして、あんたが、私に謝るの?」 
 なぜ、戒が。
 謝らなければならないのは、幼い彼を捨てた母親である自分のはずなのに。
 彼が自分へと謝る理由がつくしにはわからなかった。
 「あんたを傷つけて、苦しめ続けた男の代わりに」
 戒の返答につくしが大きく目を見開く。
 驚く彼女を脅かさないように、ゆっくりと体を起こした戒がつくしの傍らに跪く。
 「触ってもいい?」 
 「……戒?」
 「俺が触ったら怖いかな?」
 怖いはずがない。
 どんなことがあっても、なにがあったのだとしても、彼はいつの日も、つくしの大切な大切な可愛い我が子なのだから。
 「大丈夫だよ」
 つくしの返事に小さく頷いて、戒の優しい腕が伸び、彼女の体を柔らかく抱きしめる。
 「………傷つけられて、ずっと苦しめられてきたあんたに、俺が謝るよ。悪かった、ずっと苦しめてきて」
 「うっ」
 …なんで、あんたが謝るのよ。
 戒は何も悪くないのに。
 そう言いたいのに堪えるまもなく、溢れ出した涙が止まらない。
 大きな手の優しい温もりと、真摯な謝罪につくしは嗚咽し、泣き咽いだ。




*****




 いつの間に眠ってしまったのだろう。
 あの小さかったつくしの息子が、彼女を抱きしめらて、慰めることができるくらいに大きくなったのだ。
 ポンポンと小さく背を叩いてくれる優しいリズムと、大きな体に包まれる温もりに安心して身を任せ、つくしは深い眠りを貪る。
 もう怖い夢は見ない。
 ―――ごめん。
 俺なんかが生まれて来て、ごめん、………母さん。




*****




 「ん~」
 ピチュ、ピチュっという耳慣れた雀の鳴き声に起こされて、良い気持ちで眠っていたつくしの意識が急激に覚醒してゆく。
 「あ…眩しい」
 顔の向きを変えたとたん、窓のカーテンの隙間から入ってきた朝の光に目を射られ、顔を顰めて…まだまだ眠気に開かない瞼をどうにかこうにか無理矢理にこじ開けた。
 パリパリと音を立て、瞼から乾いた目やにが剥がれる。
 どうやら目が開けづらいのは眩しいだけではなく、昨日まるで子供みたいに泣きじゃくってしまったせいもあるらしい。
 「あふぅ」
 呑気な大あくび。
 …いやあ、久しぶりにまたずいぶん泣いたなぁ。
 我ながらイイ年をして、とちょっと気恥ずかしい。
 …そういえば、なんで私、泣いたりしたんだっけ?
 「あっ、そうだ、戒っ!」
昨日の出来事が寝ぼけ眼の頭に蘇り、つくしはガバッと布団から起き上がった。



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朝から泣いてしまいました

朝から泣いてしまいました…。

続きが気になって仕方ないです。

面白い作品をありがとうございます!!
このブログに出会えて良かったです。

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こんにちは

こ茶子さん、こんにちは♪
いつものように読み始め、ただ涙が溢れていました。ハァー

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再コメントです

こ茶子さん、おはようございます♪
この850話と前の849話は、「神回」と言われる回ではありませんか?
知るとは思っていましたが、戒が自分でここまで、とは夢にも思いませんでした。

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