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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0848

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 世間は狭いというが、社交界という名の生簀はさらに狭い場所だ。
 望む望まない限らず、同じ世界に生きていて、もう二度と会わないなどということはありえないことだったから、いつかはまた会うこともあるだろうと互いにわかっていた。
 一時期は義母であった神崎遥香と出くわしたのは、戒の学友の一人の実家があったドイツでのこと。
 サマーバケーションに誘われて、ホンの気まぐれでの訪問だった。
 父のように同格の親友という存在は彼にはいなかったが、だからと言って誰一人友人付き合いする人間がいないというわけではない。
 NYの私立校で取り巻きだった幾人かの同級生たちともそれなりに今も交流はあったし、彼が屋敷を脱走するために利用したハッカー少年もその一人だ。
 司との愛のない結婚生活と一人息子の死が原因で、心を病んでいた遥香がドイツを療養先に選んでいたのは偶然だったが、そうであればいやでも顔を合わせるのは必然のようなものだったのかもしれない。
 学友の叔母の誕生パーティで数年ぶりに顔を合わせた遥香は、一時期よりはだいぶ回復したようで、道明寺家で暮らしていた頃よりはずっと幸せそうで、司と結婚する以前の輝きを幾分か取り戻しているようにも見えた。
 けれど、戒と顔を合わせた時に見せた顔は、彼女のまだ抱えている闇と傷をあらわにもしていた。
 弟殺しとまで言われたのだ。
 もはや何を言われたとしても、傷つくことなどありはしない。
 それがたとえ、彼の知りたくなかった真実の一つであったにしても。
 かつて祖母の楓が言っていた。
 彼の父母について彼女が知っていることを教えてくれと頼んだ彼に、
 『知りたいことがあるのなら、司に聞きなさい。すべてを知っている人間に聞かずして、わたくしに聞いてどうするのです?答えて欲しい答えを期待して尋ねるのではいくら大人ぶろうとあなたもまだまだね』
と。
 …まったくだな。
 楓の言うとおり、おそらく自分はただ父が母を愛していて、母が父を愛していたことを知りたかっただけなのだ。
 自分が生まれてきた意味を知りたいと言いながら、愛されていた自分を確認したかっただけに過ぎないことを今の彼は自覚している。
 だからそれに気がついた時、彼は母を探すことをやめていた。
 実物の彼女だけではなく、真実という名の…母の虚像を。
 だが、皮肉なことにやめてしまったことで、真実の方が彼に近づいてきた。
 …俺の母親は、あいつを愛してなんかいなかった。
 もはや母が父を愛していたなどということが、ありはしなかったこともわかっていた。
 遥香の告白は、母が父から逃れたがっていたことという事実を証明し、念押ししたに過ぎない。
 …どこの誰が、自分に赤札なんて貼ってイジメていた男なんかを好きになる?
 どれだけモノ好きな女だったとしても、そんな人間などいはしないだろう。
 だが、そのイジメていた相手が道明寺司だったというだけで、話はまるで変わってしまう。
 黒は白に成り代わる。
 おそらく英徳の幼稚舎時代の同級生が言ったことも事実の一端だったに違いない。
 ―――母は父を愛してなどいなかった。
 別の誰かを愛していたかどうかまでは戒には知りえぬことだが、それでも母が父と結婚したというのなら、そうせざる得なかったのだ。
 それが同級生の言うとおり、道明寺司の権威や金に屈したのだとしても、そうではなかったのだとしても、司が望めばそれに抗える人間などどこにもいやしない。
 離婚に応じず、そして司が応じなければ叶うことなど何一つないのだと遥香が言ったように。
 …なのに、俺はなぜこんなところにいるんだ。
 別にもう何一つ知りたいことなどないというのに、こんなところで見も知らない女を、一人ぼんやりと待ち受けている。
 ざわざわっというざわめきの間に、小さな悲鳴が聞こえた気がした。
 声の方向、……いつか見た女が彼を見て立ちすくんでいた。
 青ざめた顔が、自分を誰なのかハッキリと認識していることを示している。
 腰を下ろしていた花壇の石垣から立ち上がって、歩み寄る。
 「聞きたいことがあるんだけど?」
 「……坊ちゃん」
 「昔、ウチの世田谷の屋敷でメイドをしてたことがあるよな?その時のことを話してくれない?」
 たとえどんなに真実が耐え難く苦く醜いものであったとしても、それでも真実を知らずにはいられなかったのだ。
 そんな自分がどんなにか愚かで…哀れだとわかっていても。




*****




 ぴ~んぽ~ん。
 チャイムの音に濡れた手を冷蔵庫にかけたタオルで拭って、インターフォンに応答する。
 「は~い!どちら様ですか?」
 だが、待てども何の反応も返ってこないことが不審で、いつもはめったに押さないカメラのスイッチを押すが、有効範囲にいないのか相手の姿が映らない。
 …まさか、戒ってことはないよね?
 時刻を見ればすでに22時を回っていた。
 ほとんど毎日居座っている戒だったが、それでもそれなりに一人でフラリと出かけてしまうこともあったし、家の用事があるからとつくしに言われずとも渋々帰宅することもある。
 毎日ではないが彼女が勤めている病院にまで迎えに来て、さすがにそれは目立つからと戒を近所のカフェで待たせることもあった。
 …本当は嬉しいんだけどね。
 それでも戒の顔を知らない人間がいないともかぎらない。
 そこから芋づる式に、他人に自分たちの関係を悟られ、道明寺家に伝わることをつくしは忌避していた。
 けれど、彼がこんな時間から連絡もなしにやってきたことは、泊めてくれと押しかけてきた初日だけだ。
 …今日はこっちに来ないとも聞いてはいないけど。
 よもやよからぬ輩ということもあるまいが、かといって何の返答もないのだから宅急便ということもないだろうし、第一こんな時間に宅急便が来るはずもない
 …大丈夫だよね?
 真夜中というわけでもなし、近所の人たちもすでに帰宅していて、寝静まっているというほどではない時間帯、いざとなれば大声を出せばなんとなるはずだ。
 それでも用心しながら、ソロリソロリと玄関ドアをわずかに開け、顔を覗かせる。
 「あのぅ?どなたですか?」
 しかし、やはり見渡す限り夜の闇が広がっているだけで、ポツンと照った外灯の下には客らしき人間の姿はない。
 どうしようと迷って、だがそのままにしておくのも気味が悪い。
 意を決して一息にドアを開け…かけ、ゴンとドアが何かに当たって音を立てた。
 ?とつくしが見下ろした先―――、
 「え?…ちょっと!なにやってるのよ、あんた」
 足元に転がっている長い足に、つくしは慌てて外へと飛び出した。



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