「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0846

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 駆け寄ってきた少女についで、公園に入ってきた女もひなと顔見知りのようでニコニコしながら歩み寄ってくる。
 だが、すぐに傍らにいる戒に気がついたらしい。
 ポカンと驚愕した顔をして、ついでマジマジと彼の顔に見入る姿は戒にとっても特に珍しいものではない。
 戒はすぐに興味を失って、面倒臭そうなその場を去ろうとベンチから立ち上がった。  そんな彼を気にしながら、雑談をし始めた女二人の姦しい声を後に公園を立ち去ろうとして、ふと春樹と燥いでいる少女―――というよりは幼女の着ている制服が目に付く。
 …あれは。
 幼稚園の制服だろう、日本では濃紺や臙脂色が多い中珍しい色合いの渋い深緑のセーラー服型の園児服だ。
 戒も普段は一々近隣の幼稚園児の制服を気にするどころか、幼稚園児にさえ気を払ったことがないがないのに、なぜかその特徴的な色合いの制服が妙に気にかかる。
 「ひなちゃ~ん、帰りましょう?ウチもソロソロお夕飯の買い物をして、仕度にとりかからないとおじいちゃんが……」
 公園の入口でひなへと怒鳴っている途中、戒の姿を見つけて硬直している姑だという女を横目に、今度こそ戒は公園を立ち去った。




*****




 千恵子が帰り、やれやれと湯呑を片付け、置いたままにしていた野菜やら、冷蔵もの以外の食品類を冷蔵庫に入れているところへ戒が戻ってきた。
 てっきりそのまま屋敷に帰ったか、どこぞへ出かけてしまったものと思っていたが、そう時間が経つことなく戻ってきたことから、どうやら客が帰るのを見越して戻ってきたらしいことに気が付く。
 …近くにいたのかな?
 「お帰り。ごめんね、気を使わせちゃって」
 「……ただいま」
 相変わらず愛想がいいわけではないが、それでも帰ってきた時にはちゃんと挨拶はするし、つくしの言いつけのとおり手を洗いをしてから部屋に入ってくることなど、彼女の家のルールを守っている。
 おそらく強引に居候してきた最初の経緯のわりに、図々しさを感じさせないのはそういうところ、その家にあるルールを破らずに従う謙虚さにあるのだろう。
 …謙虚って感じじゃ全然ないんだけどね。
 そうしたところは誰に習ったというのか、間違いなく司を筆頭とする道明寺家の人間ではないことは確かだったから、そこに戒のけっして長いとは言えない人生のこれまでの経験の一端を垣間見た気がして、つくしは切なさと共に何とも言えない感慨とホロ苦さを味合わされる。
 …道明寺家のお坊ちゃんが。
 決して悪いことなどではないというのに。
 すぐに戒はいつもの定位置、つくしが家事をこなす時に戒がいる居間のソファへと腰を下ろして、ぼんやりし出す。
 テレビをつけることもあったが、それほど興味があるわけではないらしく、単なるBGM替わりのことが大半のようで、スマートフォンを眺めている時もあったが、たいがい戒はそんな風に彼女の家で過ごしていた。
 類のように、のんびりした時間を楽しんでいるという感じではなく、ただ手持ち無沙汰な退屈な時間がすぎてゆくのを待っているだけのように、つくしの目には見える。
 …まだ、若いのに。
 「ね」
 「ん?なに?」
 戒と自分の分の飲み物を用意しようと、カップを二つ持ったまま、なんとなく見るともなくそんな戒を見ていたつくしへと戒が声をかけてきて、我に返る。
 「マキさんの義妹」
 「え、ひなちゃんのこと?」
 他に義妹と呼べる人間はいないが、つい話の接穂に確認してしまう。
 「そ、その人。先生とか呼ばれてたけど、教師かなんか?」
 「ああ。幼稚園の先生なのよ。この近くのじゃないけど、東京にあるエスカレーター式のけっこう名前の知れた私立高校付属の幼稚園だから、ここからでも電車で通ってる子がいるんだけど、なに、あんた、…ウチのお母さんがここにいる間、ひなちゃんといたの?」
 二人がけのソファにドーンと腰掛けて、背もたれによりかかって仰向けにつくしを眺めている。
 「そんな格好してかえって疲れるんじゃないの?」
 首が痛そうだ。
 冷蔵庫で冷やした自家製のアイスティーを淹れ、戒のいるソファの前のコーヒーテーブルに置いてやる。
 「ありがと」
 「うん。そろそろあんたも夏休み終わりでしょ?宿題とかないの?」
 「あるかよ」
 まあ、英徳ならそうだろう。
 「でも、ここに入り浸って家庭教師とか、そっちの人との勉強とかは平気なの?」
 つくしが心配することではないだろう。
 彼女は、彼の産んだ女であっても‘母親’ではないのだから。
 それでも、ついつい言ってやらずにはおれない。
 せめてここにいてくれる間くらいは、気分よく過ごして欲しいから、なるべく説教じみたことは言いたくないのに。
 「……………」
 何か考え事でもしているのか、久しぶりに戒はだんまりで、こちらからの質問にもロクに答えない。
 仕方がないと、ため息一つでそんな彼も許容して、夕飯の仕度に取り掛かる。
 が、すぐに戒の方からまた話しかけられた。
 「エスカレーター式の幼稚園って、永林とか山の手女子?英徳じゃないよな?」
 「いや、そこまでの名門校じゃないわよ。大学まではないところだから、たぶん、戒くんは知らないと思うけど…」
 珍しく固執しているのを不審に思いつつ、一応はと名前を言ってみる。
 しかしやはりピンとはこなかったようで、ふぅん、と言っただけで、それで興味を失ったらしい。
 「幼稚園がどうしたの?」
 「…別に」
 話を打ち切られてしまったが、かえってつくしの方が気になってしまう。
 「あのさ」
 「………なに?」
 「もしかして、ひなちゃんから何か聞いた?」
 「何かって?」
 「だから私が聞いてるんじゃない」
 ひなは空気が読めないような女ではなかったから、事情がわからいにしても、不用意に余計なことを言うはずもなかったが、口止めしていない以上、ひなから何か自分のことで戒に洩れてしまったのではないかと、胸をドキつかせる。
 「弟の嫁だって」
 「あとは?」
 「一緒にいたのは、あんたの母親だろ?」
 「そうだけど」
 戒の変わらない様子からして、どうやらそれ以上のことは聞いていないのだろうと、ホッと安堵した。
 …いつまでもこんなの続けられるはずがないんだけどね。
 それでも、できるだけ今の…愛する息子とのつかの間の生活を守りたかった。
 「他はなにも聞いてない。俺も別に興味ないしさ」
 「そう」
 それっきり戒は会話を拒絶して、テレビのリモコンに手を伸ばしてテレビをつけて向き直り、やたらと賑やかしくはしゃぎたてている画面の中の芸人たちを、笑いもせずにぼんやりと眺めたまま、自分の中へと沈み込んでしまったようだった。




*****




 「フ―――ッ」
 屋敷に帰り着くと、すでに0時を回っていて、一週間ぶりの帰宅とはいえまだ見なければならない書類があるというのに、一度ソファに座り込んだらそのまま立ち上がる気になれなかった。
 私室の居間のコーヒーテーブルに常に用意させてある酒のセットに手を伸ばす気にもなれずに、司はソファの背もたれに寄りかかったまま目を閉じ、つかの間の休息をとる。
 そのまま眠ってしまいたい誘惑に抗って、なんとか体を起こして眉間を揉み込み霞む視界を誤魔化す。
 どのみち眠気はあっても、熟睡できるなど希な話だ。
 たいてい倒れる寸前まで体を酷使して、酒か睡眠薬で精神の緊張を和らげてからでなければ寝入ることができない。
 それがここ10年―――つくしを失ってからの彼の習慣だった。
 肝臓を壊すほど飲むわけにもいかなかったが、それでもそうしなければ眠れなのだから、常に綱渡りの状態だ。
 ふと、コーヒーテーブルの上にいつもとは違うものを発見して、興味を惹かれる。
 仕事関係のものは執務室か書斎に運ばせ、こちらへは持ち込ませないから、おそらくプライベート…戒に関する報告書だろう。
 …上がってきたか。
 総二郎と話をしてから、すでに1週間が過ぎている。
 道明寺家の調査網ならば、単なる一般人の履歴や身辺調査くらいは三日もあれば容易に調べ上げることができたが、司の方がここ1週間屋敷に戻ってきていなかった。
 相変わらず息子をスパイすることは心躍らないことだが、それでも離れて暮らしている上に、本人から話を聞くことすらできない現状では、そうして今の息子を知るしか司にはやりようがないのも現実なのだ。
 封筒を手にとり、中身を取り出しパラパラとめくってゆく。
 だが、すぐに司の手が止まって、驚愕に呆然と呟きを洩らす。
 「……つくし?」
 戒と並んで笑う写真の中の女は、たしかに戒の母親であり、10年前まで司の妻であった…彼の最愛の女だった。



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毎日の更新が楽しみです

盛り上がってますね〜今一番アツイです…!もーーーうこんなに明日が待ち遠しいと思うなんて( ;∀;)道明寺が大好きなので道明寺のターンめっっちゃ楽しみです!!

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毎日、しかもしょっ中

愛してる、そばにいて。
めちゃドハマりしています。
毎日楽しみにしています。お身体に気をつけて
頑張ってくださいね!
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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