「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0843

 ←愛してる、そばにいて0842 →愛してる、そばにいて0844
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「…本当にね」
 司は愛の深い男だった。
 誰よりもつくしは、それを知っている。
 「戒のこと、本当に心配してると思う。あの子にもそのことがちゃんと伝わってくれればいいんだけど」
 『は?戒?』
 しかし、話を持ち出した類の方が、今度は怪訝に問い返してくる。
 「あれ?でもなんで類のところに、戒のことで怒鳴り込むの?」
 『こっちが聞きたいんですけど…まあ、司のことはひとまず置いておいて、戒がどうしたって?』
 不可解さは残ったものの、司と類、二人は30年来の親友同士だ。
 これまでもいろいろあって乗り越えてきてるのだから、他人が心配することでもないだろうと流す。
 「えっと、実はさ。司には内緒にして欲しいんだけど、今、うちに戒が出入りしててね」
 そうそうと、ざっとこれまでの経緯を話し、戒がつくしを産みの母親とは認識していないものの、半ば同居状態で居候している話を類に話す。
 『なるほど……戒が日本に帰国してるらしいことは俺も聞いてたけど。まさかそんなことになってたとはね』
 現実は小説より奇なり…というのとはちょっと違うだろうけれど、類もその偶然にさすがに驚いたようだ。
 「まあ、あんたとの再会の経緯もたいがい人に言ったらびっくりされちゃうものだったしさ」
 『まあね。いきなりオカマ掘ってきた女が、10年前に俺をどやしつけた女だとか、すげぇ偶然もあったもんだとは俺も思ったけどね』
 「ははは、その表現はやめてよ。ついでに忘れてくれると嬉しいけど」
 類は絶対に忘れない。
 折に触れネタにして揶揄ってくることは、よくわかっているのでそれほど期待せずに、一応は希望を伝えておく。
 案の定、そこらへんは見事にスルーして、
 『ふぅん?戒のことは、とりあえずはわかったよ。で?…総二郎と会ってるとか、そっちの方も俺、何気に気になるんですけど?』
 「うーん、別に西門さんとは会ってるっていうか、たまに誘われて飲みに行ったりしてるだけだよ。それもどっちかというと、西門さんがどうのっていうより、西門さんのお兄さんのお嫁さん経由の話かな」
 最近ではその兄嫁をすっ飛ばすことも度々で、いったい総二郎がどういうつもりなのか知らないが、つくしにしても戒のことがあって突っぱねにくい。
 つくしにしてみれば、総二郎も身近に親友たちがいなくなり、学生時代を忍ぶような相手がいなくて寂しいのだろう、くらいな認識だったが。
 …意外だけど、西門さんにもそんなごく普通な感性あったのねぇ。
みたいな。
 『俺、総二郎は全然オススメできないから』
 「は?」
 『お前に限ってないとは思うけど、…逆にお前の場合イイ年して警戒心皆無で、そっちの方が気になるか』
 「………なんか、けっこう失礼なこと言っていない?」
 多少は類の言いたいことも分かる気がするが、誰に言わせても進歩がないような言われ方をするのは心外だった。
 『まあ、いいや。話は変わるけど、そういえばお前って今もカウンセリング通ってるんだっけ?』
 「ああ。実は昨年からお休みしてるかな」
 イヤになったとか、面倒だとかそういうことではなく、順調に改善していたから転職のあれこれの忙しさを理由に通院をやめていた。
 実際、類との生活で彼女の病はだいぶ快癒していて、人前で倒れたり、悪夢に魘されて飛び起きるようなことはなくなっていたのだ―――つい最近までは。
 しかし、戒との生活で彼の容姿や言動が少年時代の司とあまりに重なることがあるせいなのか、毎日というほどではないが、再び夢の訪れに魘されることもできてきた。
 それでも男性恐怖症が悪化したとか、過去の情景をフラッシュバックさせて過呼吸に襲われるというほどではないから、おそらく病の残り火のようなものなのだろう。
 …神経痛とか、そういうのみたいなもの?
 自分でもおかしな話だが、そんな風に思える。
 以前のように躍起になって自分は大丈夫だと固執しているわけではなかったから、あまりに悪化するようなら再び治療に向かうつもりだったのだが、類に言われて以前から懸念していたことを相談してみることにした。
 「でも、たまにまたちょっと夢みたりするようになったから、もしかしたら通ってみようかと思ってるんだけど、葛原先生のところってまた私が通ってもいいのかな?」
 葛原は、類の…というか、類の父の紹介で通院し始めたカウンセラーだった。
 精神科医の資格も持つ心理カウンセラーで数々の著名人の心の病も担当してきた人物だ。
 患者の心を掴むテクニックでも定評のあるカウンセラーだったが、そのストイックなまでの真摯な姿勢と治療方針、それに口の堅さで定評があって、上流階級の中にも多くの患者を持っている。
 『いいのかなって?』
 「ほら、私、類と別れちゃったじゃない?」
 『ああ』 
 それだけで類もわかってくれたらしい。
 『大丈夫だよ。葛原先生の患者は花沢からの紹介者ばかりってわけじゃないんだ。そんなことで一々患者を選り好みなんかするわけないじゃない?』
 「そうだよね」
 そうだとは思ったのだが、やはり疚しさのようなものは拭えない。
 『それに、口の堅さで定評があるって言っただろ?治療内容なんかをオヤジに筒抜けにしてるようじゃ、とっくにそんな定評地に落ちてるよ。だから、そういうことは気にしないで通っても全然平気』
 「そっか、ありがとう」
 あとは治療費だけの問題だが、それだけは何一つ受け取らなかったつくしへの自分の気持ちだと言って、類がすべて負担してくれていた。
 だから実際には何一つ受け取らないというのとは語弊があることになってしまうが、彼の気持ちが嬉しかったからつくしもそこまで四角四面に拒絶できなかったのだ。
 『一人でも、大丈夫?』
 根掘り葉掘り聞かないのは、やはり類だった。
 「大丈夫だよ。たぶん通院するほどでもないとは思ってるんだけど、でも無理はしないつもりってだけだから」
 『うん』
 彼女の前向きな気持ちが類にも伝わったのだろう。
 心配げな声音が柔らかく緩む。
 『いつも言ってることだけど、なんかあったら必ず俺に言って?…俺を頼ってよ』
 「類」
 『お前のためならなんでもしてあげる。力になるからさ』
 必ず言ってくれる言葉だ。
 実際につくしが類に頼ることができるかは別として、そう言ってくれる彼の気持ちが嬉しい。
 女だから、とは言いたくはないが、それでも一人で生きることに不安や寂しさがないわけではないのだ。
 時には誰かに寄りかかって、支えてもらいたいと思うこともある。
 けれどもう、つくしにはそんな理由で誰かと付き合ったり、結婚したりする気持ちはなかったから、なによりも類の真摯な言葉が心強かった。
 「ありがとう、類。憶えておくね」
 『うん』
 『パパ!……だぁ!?』
 電話の向こう側の声が聞こえて、つくしがひっそりと笑む。
 「杏樹?」
 『だね。…実はこのあと、一緒にテニスに出かける約束でさ。自分がグズグズとしてたくせに、仕度が終わったとたん急かしに来たみたい』
 「ふふふ。じゃ、待たせたら悪いから、電話切るよ」
 『ん。……じゃ、また連絡するよ。それまで体に気をつけて』
 「うん、類もね。静さんや杏樹にもよろしく」
 さっきまで孤独に震えていた心がいつのまにか温まっていた。
 …心配してくれる友達がいるって本当に素敵。
 「さ、夕御飯食べちゃお」



*****




 「う~、昼間チョロっと雨が降ったから、多少は涼しくなるかと思ってたけど、やっぱりまだまだ暑いわね」
 「冷房すればいいだろ?冷えすぎはイヤだとか言って、そうそうに切るから辛いんじゃないの?」
 「それはそうなんだけどさ」
 寄る年波とは思いたくはないが、冷えすぎは覿面体調に影響してくる。
 戒に先ほどスーパーで買い込んできた買い物袋を両手一杯に持たせ、つくしがハンドバックに手を突っ込み鍵を探す。
 「毎回思うんだけどさ、指紋認証にしろよ」
 「…あのね、一般家庭のうちにそんな凄い鍵をつける家がどこにあるのよ?」
 お坊ちゃまなんだから、といつものように一言で片付ける。
 「あった!」
 ゴソゴソやった果てに、やっとバッグの最奥からいくつかのキーと繋いだキーホルダーを取り出して、誇らしげに戒へと掲げて見せる。
 「そうやって探すから、俺が忠告してるだけだろ?」
 「…うう」
 「ま、指紋認証キーまではいかなくても、キーファインダーをつければそれで済むことだと思うぜ?」
 「え~?それって、スマホで探せる便利グッズだっけ?」
 そんな雑談を交わし合いながら、荷物を家の中へと運び込む。
 「ごめんね、こんなに持たせちゃって」
 「そう思うなら、少しは買うの遠慮しろよ」
 ボヤかれてしまう。
 「だから、少しは自分で持つって言ったのに」
 「……俺がいるから買い込んだくせに?」
 「ははは」
 やはり男手がいるのといないのでは全く違う。
 いつもはやはり持ち帰ることを考えて、そうあれこれ買い物したりはしないのだが。
 …やっぱりまた車を買おうかなぁ。
 育ち盛り?の戒が一人増えただけで、けっこう買い物量も増加している。
 戒が持ってくれるとはいえ、やはりこの見た目で両手一杯のスーパーのチープな買い物袋は可哀想だ。
 「あら?」
 さあドアを閉めようというところで、背後からかかった聞き覚えのある声に、つくしが振り返って「あ」と声を上げる。
 「お客さんなの?つくし」
 「………お母さん」



◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ




web拍手 by FC2



関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0842】へ
  • 【愛してる、そばにいて0844】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0842】へ
  • 【愛してる、そばにいて0844】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク