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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0840

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 『しかし、それはそうと、お前、今年から日本だって?』
 「ああ」
 話題が変わって、司もつかの間の物思いから我に返る。
 『今そっちはNYなんだろ?一時日本に帰国してたようなことを聞いてたが、とんぼ返りか。お前も因果な商売だよな』
 「ふ、お前だって、言うほどそう状況はかわんねぇだろ?」
 『多少はな』
 今や茶道や華道などの日本伝統文化の世界もグローバルな時代だ。
 狭い日本にこだわり、引きこもってはとても生き残ってはいけない。
 若い総二郎などの次世代を積極的に外の世界へと差し向け、あらたな潜在顧客の獲得へと乗り出し更なる成功を収めているのが茶道・表千家西門流だった。
 もっとも、そろそろ総二郎も若手と呼ばれるには薹が立ち、脂が乗りに乗った年代で、世代交代の噂も囁かれてはいたが。
 『でもまあ、そうは言ってもグローバル企業でアメリカがメインのお前んとことはまるで事情が違うさ。いよいよ、大河原の方の決着をつける為の大詰めか?』
 「…どうだろな」
 あきらかなはぐらかしではあったが、いかな親友とはいえ言えることと言えないことがある。
 また総二郎も多少はこちらの事情を仕入れていないはずがない。
 ましてや、つい最近アメリカであった‘事件’に関しては、いくらアメリカ政府を通じてマスコミの口を塞ぎ、世間一般からは耳目を遠ざけても、完全に隠蔽しきれたものではなかっただろう。
 探りを入れてくる総二郎も確信がないからこその質問だったにしても、司がそう簡単に口を割らないことを承知していてのこと。
 だが、そうやってタテヨコに伸びたツテを使い、世の中の趨勢を図って総二郎の家は各界に影響力を維持してきた一族でもあった。
 『ふぅん?……道明寺の方はすっかり掌握しちまって、一見向かうところ敵なしのお前が精力的なこったな。何もあえて危険を承知で、自分たちを餌にしてまで一網打尽を狙うこともあるまいに。カミさんの娘を避難先のスイスから日本に連れて来たんだって、そこらへんに関係してのことなんだろうが、先行きがだいたい見えて、勝機を掴んでるんだから残党どもの悪あがきを高見の見物してれば良かったんじゃねぇの?』
 バカどもが窮鼠猫を噛むの原理で、シャレにならない悪あがきを試みるようなことがなければ、当然司もそのつもりだったのだ。
 時には待つばかりでは勝機を逃し、逆に自分たちが窮地に陥れられることもある。
 …今が動く時だ。
 司の野生のカンが告げている。
 これまで彼を助け、常に勝者として有り続けさせてきた彼のカンが。
 『黙って待ってればいずれは手の内に落ちてくるっていうのに、わざわざ火種抱えまくった大河原を取り込んで、道明寺掌握レースに早々王手をかけた時のやり方といい、………当時親と抗争してた対抗勢力の連中の傀儡になってまで牧野を手に入れた時もそうだが、お前は慎重なようで完全な安全路線を取らないところが相変わらずアグレッシブなヤツだよな』
 「………ふっ」
 沈黙はけっして肯定ではなかったが否定でもない。
 カマをかけられて乗るほど司は愚かではなかったが、取り繕わないところが彼の自信の表れでもあったか。
 「当然、俺らは5年後、10年後のビジョンを見越して戦略を立てているわけだが、市場が生き物であるのと同じに、何事にも絶対はない。それをあくまでも石橋を叩いて安全路線だなんだとフいたところで、壊れる時には壊れるんだ。流動的に物事は考えて、新しい事態に立ち向かえなきゃ、そりゃウソだろ?」
 『……ふっ、で?その流動的ビジョンってやつの中には、お前自身の進退は含まれてないわけか?』
 「進退…なんだ、俺にもう引退して、次の後継者への道行きでも作れってか?」
 司はまだ40才手前だ。
 世間ではともかく、彼が身を置く経済界では若手も若手、むしろこの若さで道明寺-大河原財閥という二大財閥を手中に収めた手腕は群を抜き、人々の注目を浴びている存在だった。
 たとえそれが生まれながらに手の中に握りこまされた運命であり、当然の道行としてその親ひいては先祖から引き渡されたものではあるにしろ、また過去あまたあった事例のごとく婚姻によって手に入れたものであっても、そこに何の苦労もなかったなどではないことは、によたような環境で生まれ育ち期待されてきた総二郎にもよくわかっている。
 司はたしかに一代にして成り上がった豊臣秀吉のような奇才の英雄ではなかったが、受け継いだものを元手に積極的にチャレンジし、更なる繁栄を遂げる鬼才の覇者だった。
 『お前、マジでこのまんま、今のカミさん…政略で娶った女房と生涯を共にするつもりか?』
 「……………」
 『元々俺らの結婚はそういったもんだ。それこそたとえ戦略的選択の結果にしろ、それはそれで上手くいってるのなら、お前だけどうのと言うのもおかしな話なんだけどよ』
 「なんだ。自分が離婚したから、あきらの真似事で今度はお前までいらぬおせっかいか?」
 つい先日、たまたまビジネスの場で行き合って、先日短いながらも雑談を交わした友を引き合いに出す。
 『あいつもなんか言ってきたのかよ?』
 「自分が気に入った女房もらってガキができたからか、久しぶりに煮え切らないようなことをゴチャゴチャと言ってたか」
 とはいえ、大したことを言われたわけではない。
 もはや身内の誰も言わない彼の顔色の悪さを指摘して、心配ごかしのついでにか、言いにくそうに類と静のその後の顛末とやらを話してきただけだ。
 『……静、今度の話し合いで正式に離婚が決まったらしいぞ。さすがに離婚したからとって即再婚ってわけには各方面イロイロあるからできねぇみたいだけどよ。これで類もヤツも長年の不倫状態を解決して、…いずれは娘と家族3人正式な立場で暮らすことができるようになる』
 ガキンッ。
 「つっ」
 『おい?』
 手慰みにいつの間にか握っていた万年筆が真っ二つに折れて、その破片が指の腹に深い傷を作り鋭い痛みと赤い血を血しぶかせていた。
 ポタポタと滴る血の赤色の意外さにふと笑いが溢れた。
 …俺の血でも赤いものなんだな、と。
 そんな当たり前のことを嗤う自分がまたおかしくて、気がつかないうちに笑い声を零していたらしい。
 『司?』
 「……いや、なんでもねぇ。会社の方が一段落したのなら、そろそろ自分の幸福とやらを追求してみたらどうだと抜かしてきたか」
 幸福…そんなものはとっくに自分の手のひらから零れおちて、もはやそれがどんなものだったのかさえ定かに思い出すことすらできないでいるというのに。
 『あきららしいな。あいつは自分に与えられた条件や環境の中でも、最大限自分なりの幸福ってやつも追求して、それを大事に守って育てることもできる奴だからな』
 「ぷっ…なんだそりゃ。お前、日本の真夏の暑さで脳ミソやられちまったんじゃねぇのか?」
 自分以上に、そうしたものに興味を示してこなかった男が、この電話の向こうの親友だったはずなのに、妙な事を言うと鼻で嗤う。
 『言ってくれるじゃねぇか。…ま、俺もたしかに何が言いたいんだかと自分で思ってるところだからな。いいさ、お前に心当たりがないならそれはそれで。…再来月あたりにはこっちに戻ってくんのか?』
 「いや、本当はこの間の一時帰国は一時的なもののつもりじゃなく、そのまんま残る予定だった」
 『は~相変わらず、急っつーか、で?』
 総二郎もいろいろ言いたいこともあったのだろうが、いつものことだと思い直したらしい。
 「遅くても来月頭。場合によっては先延ばしになるかもしんねぇが、…あるいは、前倒しすることもあるかもしれねぇな」
 『ふぅん、ま、こっちに帰って来たら連絡しろよ。あきらや類はいねぇが、久しぶりに会おうぜ』
 「ああ」




*****




 「社長、傷の手当てを」
 西田に言われて、考え事をしたまま、すっかり先ほど作った傷の存在を忘れていたことに気がつかされる。
 簡単に包帯替わりに巻いていた大判のハンカチは、ぐっしょりと血を吸い、置いていた椅子の黒い肘置きにわずかに濃いシミを作っていた。
 あるいは縫うほどの怪我だったのかもしれなかったが、たかが手のひらの傷、利き手でもなければ気にするほどのこともない。
 まるで心臓が手のひらに移ったかのような熱い痛みを無視して、ぐっと手のひらを握り締める。
 ポタリポタリとそれでハンカチに含まれていた血が絞り出されて、再び滴り落ちたが、それを無視して司は椅子を立ち上がった。
 その血の赤や痛みは唯一自分が生きている証。
 あの日、あの時―――彼女を失ったその時から、まるで色のない悪夢の世界にさ迷い込んだかのような現実味のない世界で、彼が生きていると実感できる唯一のものだったから。
 「いい、もう血は止まった。…俺はこのまま奥の休憩室で休むから、お前ももう今晩は帰宅しろ」
 ―――類のヤツ、牧野と別れたらしいぞ。
 2年も前に。
 …だからといって、それで俺に何ができる。
 


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こんにちは

こ茶子さん、こんにちは♪
司が帰国を前倒しするに2000ルーブル。
こ茶子さんの長い読者の方たちは、連載と自分のかわしかたを身につけていらっしゃるんでしょうね。
気持の置き方が少しづつわかってきたこの頃です^^

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