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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0836

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 戒が自ら望んで彼女の家に泊まった初日の真夜中、彼女は魘されていた。
 自邸などとは異なり、各個室にトイレ・バスが完備されていない一般家屋の二階を間借し、しばらくは慣れない布団で眠る努力をしていたが、喉が渇いて用足しのついでにと一階に降りた。
 数時間前に迫って拒否をされたばかりだったから、戒にしてもわずかばかり気まずさがなかったわけではない。
 女と顔を合わせないようにと足音を忍ばせ、キッチンとトイレだけを目指して階下に降りて、すぐに二階に戻り…次の日には出て行って、もう二度と訪れないつもりだったのだ。
 女たちにとって自分が魅力を感じる存在であることは、戒も十分承知していた。
 それが真に彼に‘男’を感じているのではなく、ペットのような感覚であっても、ジーナのようにただ見た目が綺麗なお人形遊びの王子様の感覚であっても、別段彼は構わなかったし、彼女の家を訪れたのも、彼女に特別な何かを感じたとかそういうことではなく、単純に自分に興味があるらしい女の温もりを求めてのことだけ。
 相手が求めるものが彼のなんであったとしても、彼が気に入ったのなら、それでかまわない…ギブ&テイクなのだからと、彼も気にしはしなかった。
 それなのに…細く掠れて弱々しい悲鳴のような声に気がついた。
 刃傷沙汰を起こして、連れてこられた部屋…家主の女の部屋であるそこから響く声が、その女の魘されている声で、それがおそらく自分のせいだということもわかったから、女の部屋に踏み込むことに躊躇した。
 だんだん大きく、…悲痛になってゆく声音に無視することもできず。
 ―――これまでのように、自分に色目を使ってくる年上女たちの中でそれなりに彼も気に入って、一夜の宿を貸してくれた女に対する礼と同じ感覚で、彼女にも迫って誘惑した、ただそれだけのつもりだったのに。
 見ず知らずの男を泊まらせるような女が、まさか本心でなんの見返りを求めず、単なる親切心や義侠心、あるいはそれに類するなんらかの好意から手を差し伸べてくれたなどとは思いもよらなかったのだ。
 だから、最初に断られた時も、よくある駆け引きの一つ、身持ちの堅さをアピールするポーズに過ぎないのだと気にもしなかった。
 けれど…、
 …あれは本物の拒絶だった。
 全身をガチガチに強張らせて、真っ青な顔でガタガタ震える顔は恐怖に引き攣り、……怖がっていた。
 その顔に、いつかの…ジーナが男に伸し掛られ襲われていた時の姿が重なった。
 思わず顔を歪めて唇を噛み締めた戒に、風船をもらって戻ってきた女が怪訝に顔を覗き込んでくる。
 「なに、どうしたの?」
 かけられた声になんとかぎこちない笑みを唇の端に浮かべ、不審がられないように彼女の視線から顔を背けるようにして、戒は自分もベンチから立ち上がった。
 「もう、行こうぜ?」
 「え?」 
 「…全部、乗り物、制覇するとか、さっきあんた言ってなかった?」
 「あ、うん。そうだね。…まあ、そんなにガシガシ頑張って乗らなくても、このペースなら、あっという間に乗れちゃいそうだけどねぇ」
 チラチラと戒の顔を見上げてくる彼女は彼の変化を敏感に感じているのだろう。
 けれど、自分の屈託や…後悔を他人に語れるほど、戒は誰かを信じることなどできなかったし、ほとんど自分を曝け出した経験がなかった。
 「お弁当どこで食べようっか?」 
 「……さっき、ソフト食ったばかりでもう次に食うもんの心配かよ」
 「それはおやつでしょ?ご飯とは全然違う話じゃない!…っていうか、あんたそう言えばさっきまで持て余していたソフトクリームいったいどうしたのよ?」
 不審げにキョロキョロと戒の両手を眺めて、見上げてくる彼女の視線からさっきとはまったく違う意味合いで、微妙に視線を反らす。
 「あ!まさか、捨てちゃったの?」
 「食ったんだよ」
 「ウッソぉ、全然、食べ進んでなかったじゃない」
 「自分だって、もうないじゃん」
 「私は食べたのよ!だから、買うなって言ったでしょ!」
 …廣方マキ、廣方なんて家は社交界のどこでも聞いたことがない。
 もちろんさすがの戒も世界中の社交界や財界人たちの人物名鑑を頭に入れているわけではないが、それでもそれなりに主だった家の名前や、そこに連なる人間のプロフィールや家名くらいは周知していたし、企業の経営者に関しても同様だ。
 『やめて、道明寺っ、いや、いやああ、来ないでぇっ!!!』
 「あれ?」
 ビクッ。
 一瞬の白昼夢が怪訝な声にかき消され、戒が我に返る。
 真横であれこれ話していた女が、唐突に駆け出して、少し先で飛ばしてしまったらしく、遥か上空を飛んでいる風船に両手を伸ばして泣いている女の子へと歩み寄っていた。
 「風船っ!!」
 「ちーちゃん、もう無理だよ。諦めよ?ね」
 「やだやだやだ、わあああぁん」
 「ねね、よかったら、おばさんの風船あげようか?」
 「え?」 
 「あら」
 「さっき、向こうでピエロの人にもらったんだけど、もうあんまり残ってなかったから、今から戻ってももう貰えないかもしれないし、水色のでも良かったらどうかな?」
 「いいの!?」
 「うん」
 「すみません」
 そんな優しいやり取りをして、ニコニコと笑う彼女の顔にはどんな暗さも、…翳りも見えない。
 けれど、
 …たしかに‘道明寺’って言ってたんだ。
 彼女は最初から、戒のことは名前で呼んで、苗字でなど呼んでいなかったから、それはおそらく戒のことではない。
 それならば?
 次の日には、ケロっとして、どうやら彼女は昨晩の夢のことは憶えていない様子だったし、そんな悪夢を見るようなきっかけを作っただろう彼へとなぜか少しも隔意を見せず、家から追い出すことさえしなかった。
 …どうして、俺を信用できるんだ?
 約束したとはいえ、見ず知らずの男が自分を襲わないと思えるのだと。
 あんなに怖がっていたのは―――?
 『道明寺司にイジメを受けていた人たちの中には後輩の女の子もいて、頭をおかしくしちゃった人もいたって、私、聞いたんだからっ!』
 萌奈の糾弾の声が耳に蘇る。
 今、目の前にいるこの女は、戒の父親である彼に瓜二つの男より一才年下。 
 父の親友であり英徳出身の西門総二郎とは旧知の間柄だという。
 おそらく過去に男から暴行を受けた経験がある。
 たとえ彼女がそうだと認めなくても、戒は確信していた。
 ―――この女はたぶん彼の父親を、道明寺司を知っている。
 それも、ただ名前を知っている、単なる符号…道明寺家の次期総帥としての司を知っているのではなく、個人としての道明寺司を。
 36才という年齢。
 西門総二郎、英徳、赤札、イジメ、その首謀者である道明寺司…そして、萌奈の告発。
 それらがいくつかのことを戒に示唆していた。
 バラバラのピースが一つに纏まりかける。



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おはようございます

こ茶子さん、おはようございます♪
戒がつくしと自分との関係を、自身の力でひも解いていくのは予想外でした。
周りから耳に入ってくるものと思ってました(私は、マコト・進まで動員してました)。
「廣方マキ=牧野つくし」がわかるときが楽しみです。戒なら調べさせることもできるし…いろいろ想像してます★
(はずれるんですけどね^^)

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