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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0835

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 「あ!あれあれ、あれ食べようよ!」
 視線を流した先、列の向こう側にソフトクリームのオブジェが立っていて、戒が反応する前にはもう彼の手首を掴んで、つくしは列の最後尾に並んでしまっていた。
 「もう昼時じゃねぇの?」
 「こういうのは別腹でしょ、別腹」
 「…別腹」
 胡乱げな戒を見上げ、ニコニコ笑うつくしはもちろんまったく悪びれない。
 「今日は暑いしさ。やっぱり夏になるとこういうのが食べたくなっちゃうよね!」
 「まあ、冷たいもんが食いたくなるのはわかるけどな」
 「でっしょう?でも、冬は冬で見ると食べたくなっちゃうから、やっぱりなんだかんだ食べちゃうんだけどね」
 「……………」
 アトラクション類よりもむしろ並んだくらいだったが、ソフトクリームを手にニコニコ笑って嬉しそうに食べている子供達や、カップルを眺めているだけでも楽しい。
 「へぇ、紫いもとのミックスとかもあるんだ。メロンも捨てがたいなぁ。戒君は何にする?」
 自分たちの番が来るまで、まだ2,3組前に人がいるというのに、つくしはすでに目を煌めかせてメニューを物色してしまっている。
 「俺はいいよ」
 「なんでよ!」
 「甘いもん嫌いだし」
 「え?」
 驚いてポカンとしているつくしの顔を、戒が不審そうに眉根を寄せ首を傾げる。
 「なんだよ?」
 「甘いもの…嫌いなの?」
 「ああ」
 「ポップコーンは?」
 「は?」
 妙に具体的なものまで出されての質問に、戒が目を点にしていた。
 「…いや」
 「塩だけなら食えねぇこともないけど。どっちにしろ、ガキじゃねぇんだ。この歳で、菓子類が大好きっていう男もそうそういないものだろ?」
 「そういうもんなかなぁ。スイーツ男子とか言って、甘いものが好きな子もけっこういると思うけどね」
 苦笑い。
 …そっかぁ、もう小さな頃とは違うんだものね。
 一人寂しく、つくしは心の中で呟いた。




*****




 結局、それぞれメロンソフトと紫芋ソフトのミックスを買い、それを手に二人でベンチに横並びに座った。
 「……甘」
 一口食べただけで顔を顰めている戒を横目で見て、美味しそうにペロペロソフトクリームを舐めていた女が、口元に手をあてクツクツ笑う。
 「笑うなよ」
 「だって、嫌いなんだったら無理に買わなくても良かったのに」
 「別にいいだろ?単なる気まぐれ」
 「しかも、奢ってくれたりして…」
 「それも気が向いたから。……奢られたら奢られっぱなしでいるもんじゃないんじゃないの?マキさんも西門とかにいつもそう言ってんじゃん。今ってなにげにあんたが俺に飯食わしてくれたり、俺の分まで支払ってくれてたりしてる状態なんだから」
 「うーん、それはまあねぇ。でもさぁ」
 子供に奢られるなんて…とかブツブツと独り言を言っている彼女の子供扱いはいつものことだが、それで一々怒るほど、それこそもう戒は子供ではなかった。
 自分を侮るものは許さない。
 けれど、不思議にこの目の前の女が自分を子供だと言って、あれこれ世話を焼いたり心配してくることのどれも、鬱陶しく思うことは時々あったが、それでも腹は立たなかった。
 「それにたしかに元々は親にもらった金だけど、これでも自分で自分なりに資産運用した結果増やしたものなんだから、丸っきり親の金ってわけでもないだろ?」
 「まあねぇ」
 困った顔なのは彼の言うことが同意できないというよりも、なぜか疚しさや申し訳なさのようなものらしく、曖昧な笑顔はどこか珍妙で、むしろ彼を子供扱いしてくる彼女の方がよほど頼りなげな子供のようだ。
 「それに、久しぶりに食べたら、美味いとか思うかもしれないって思ったからさ」
 「はあ?なによ、それ。嫌いなものが、久しぶりに食べたからって急に美味しくなったりするわけないじゃない。変な子ねぇ」
 戒の取ってつけたような言い訳に、つくしが呆れたような顔で肩を竦め、再びソフトクリームを舐めながら、周囲を見回して楽しそうに笑っている。
 …ウソだ。
 本当は、気まぐれなんかじゃない。
 彼が甘いものが嫌いだと言った時の彼女の顔があまりに寂しそうだったから。
 目の前の女は、聞いてみれば実際には36才…ほとんど彼の親と同年代だそうで、見た目の若さとは裏腹に思慮深く、年相応の包容力もあったが、妙に無邪気なところもあって、最初実年齢を聞いた時には、本当に驚いたものだ。
 …これであいつと一つしか違わないなんて。
 戒はソフトクリームを食べるフリで、密かに彼女を観察していた。
 …妙な女。
 戒の素性を知っているようなのに、彼にタカることなく、むしろ彼を養うかのように面倒を見ている。
 遊園地の入園料だの、交通費だの、果ては彼女の家に居候して消費しているさまざまな雑費など彼にとっては端金で、それこそ彼女の生活そのもの一ヶ月でも二ヶ月でもまるごと負担することだって可能なのに、彼女はそれをよしとしない。
 『愛人かっつーの!』
 提案した戒を逆にバコンと彼女が殴った。
 彼女に暴力を奮われたのは、その時が初めてだっただろうか。
 それまではどこか遠慮がちだった彼女が、それ以来、遠慮なく戒をバカスカ殴るようになってしまっていた。
 弾けるような明るさと溌剌さを持つ彼女は、初対面の頃から戒にひどく優しかった。 
 媚びやおもねり、へつらいからの優しさはよく知っている。
 誰も彼もが彼の機嫌をとり、自分に優位な何かを彼から引き出そうとして彼に近づき、そしてその裏側で彼を貶めた。
 彼の能力や努力ではなく、彼の片側の血を危惧して批判し、彼が周囲が課す成果を出さなければ、母親が庶民の女だったからと訳知り顔に揶揄して嘲笑い、期待以上の成果を出しても、道明寺家の人間なのだから当たり前だと評価されることはなかったのだ。
 …あんたはなんなんだ?
 どうして自分にかまい、おせっかいを焼き、凍えた彼の心を揺さぶるのかと。
 恋じゃない。
 少なくても、あのNYの…薄汚くて猥雑な街で、彼を捨て去った少女へと感じた感情とはまるで違うものだ。
 じゃあ、なぜなんだと彼女が気になって、ただ彼女といたくて、彼にはそぐわない光の中での居心地の悪さを甘んじてまで、ここにいる自分の不可解さを思う。
 「わっ、風船配ってる。大人にもくれるかな?」
 何がそんなに楽しいのかニコニコ笑って、戒の顔を覗き込んでくるのに肩を竦めると、悪戯っぽい顔をしてベンチを立ち上がった。
 「もらっちゃおう!」
 風船を配っているピエロへと駆け寄る彼女をぼんやりと見送る。
 だが、昼の光の中ではまるで向日葵や太陽のような明るさを持つ女が、夜の闇に怯え、そこにはいない誰かを怖がって魘されていたことが脳裏に蘇って、戒は顔を顰めた。
 気に入らないことがあれば彼を殴ることさえある豪快で、男勝りな女が見せる弱さと脆さ…そして深い傷痕。
 『いや、いやああ、来ないでぇっ!!!』
 ―――やめて、道明寺。



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~ Comment ~

おはようございます

こ茶子さん、おはようございます♪
実は本日の更新は、司×総二郎 or 遊園地帰りのつくし達と司の再会、ではないかと思ってました。
9章の中心は、つくし&戒のお話だと理解していたつもりでしたが、まだまだ甘い^^;
「そうだよね~、司が出てきて複雑になる前に、まずつくしと戒だよね」と、こ茶子さんの筆力に脱帽です★

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