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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0828

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 戒にとって無意味なものが、また一つ。
 「へぇ、いいもん飲んでるな。俺も飲んでいい?」
 聞いた時には、すでにウェイトレスを呼んでいる。
 「追加!」
 当然のように、戒の連れであることを強調して、彼に支払わせることを前提に。
 それくらいのことで一々目くじらを立てることでもないから、好きなようにさせて放置していたのが、これまでの戒だった。
 「たしかここって、お前が今世話になってるうちの女の人が勤めてる病院の近くだよな?」
 もちろん、戒はわざわざ徹に自分の近況や付き合いを話したりしない。
 相変わらずどこから仕入れるのか、現れるたびに徹は彼のことを知っていた。
 それを奇妙に思ったり気味悪く思ったりするほど、この目の前の少年を脅威には思わなかったし、そもそも彼にまったく興味が沸かない。
 けれど、徹の口から彼女のことが出てくることに、思わぬほどの不快感を憶え、徹に気づかれない程度に、戒はわずかに眉根を寄せた。
 「俺も見たよ。お前とあの女の人が一緒に笑い合いながら、公園で散歩してるところ。道明寺戒がただの公園で散歩とか、最初マジ信じられなかったけど…お前でもあんな顔するんだな」
 「……………」
 「俺、あの人、どっかで見たことあるんだよな」
 おもねるような顔に卑しい笑みを浮かべ、まるで今病院からその待ち人がやってきたかのように、徹が揶揄して背後を振り返る。
 「お前、あの人を待ってんだろ?」
 戒の挙動を内心ではビクビクと窺っているのを、彼に悟られないようにだろう、強気を装う徹を、戒は無感動に見やる。
 「な、なんだよ?」
 戒がテーブルに顎杖をついていた手を下ろして姿勢を変えただけで、ビクッと体を揺らし、徹は半ば仰け反ってしまっている。
 もっとも、それも徹が特別臆病というだけではなかっただろう。
 実際に戒は気まぐれなところがあって、普段の頓着のなさとは裏腹に、突然キレて、過激な行動を取ることがあったから。
 海外の学校ではそれゆえに、人間離れした美貌とあい余って、エキセントリックな暴君として恐れさせ、同級生たちを支配していた。
 ―――道明寺戒の機嫌を損ねたら何をされるかわからない。
 実のところ、徹がビクつくほど熱しやすいタチでもないのだが、あまりのウザさに何度か痛い目を見せてもやったし、何人かシメたところを目撃させてもいたからよけいに彼が怖いのだろう。
 時々カアッと頭に昇ってしまった血に、自分を制御できないことがある。
 昇った血はすぐに下がって冷静さは取り戻せるのに、渦巻く怒りに鉾を収めることができなくなってしまうのだ。
 肘杖の代わりに組んだ両腕に体重を乗せ、乗り出すようにして大柄な体を起こし、徹を覗き込む。
 「どうしたって言うんだよ!」
 語尾の跳ね上がった甲高い声は丸っきり怯えた小動物だ。
 青白くコケた顔はごく平凡で特徴がなかったが、昏く澱んで輝きのない卑屈な目はギョロギョロと落ち着きがなく、見る人間に不快でネガティヴな感情呼び起こす。
 「お前はなんで俺に構うんだ?」
 どんなに徹が煩く付きまとってもめったに声もかけない戒が、突然話しかけたことが驚いたのだろう。
 ギョッとした扁平な顔が、ふいに幼い頃の彼の顔に重なり、戒は顔を顰めた。
 「俺の隙でもついて、俺に意趣返しをしたいのか?」
 「……………」
 「俺を恨んでるんだろ?道明寺のせいで親の会社が倒産した。その親がそのことで逆恨みして、俺や…俺のお袋を誘拐しようとして失敗して犯罪者になった。それで?お前まで俺を油断させて闇討ちか何かしたいのか?」
 「それは………俺のこと、思い出してたのか?」
 思い出したのかと言われれば、
 「いや、憶えてない」
 「そ…うか、そうだよな。…まだ、俺ら、すげぇガキだったもんな」
 徹の顔が悔しげに歪む。
 二人の出会いや付き合いはその後の因縁に比してごく平凡で、まだ記憶力もしっかりとしていない幼児期のこと。
 しかも、戒は徹よりもさらに一歳年下だ。
 あの頃、両親の離婚、父の再婚と次々に戒にとって衝撃的なことが相次いで襲いかかり、徹との出会いなど記憶の遠くの彼方に霞んでしまっていた。
 いや、もしかしたら無意識の意識で、その記憶―――母のつくしを失う原因となったであろう事件に関する記憶をあえて消し去っていたのかもしれない。
 徹の顔に浮かんだのは悲喜交々。
 だが、落胆であろうと怒りであっても、戒にとってはなんら興味のないことだ。
 「じゃあ、なんで俺のこと」
 「調べさせた」
 徹がハッと戒の顔を仰ぎ見る。
 徹は10年前、道明寺財閥から契約を破棄されたウィルバー鉄鋼という企業の経営不振の煽りを受け、倒産した最上物産の関係者だった。
 その件だけでも、当時徹一家だけではなく、多くの会社がたくさんの被害を被った。
 不幸は徹の一家だけのことではない。
 また、あくまでもそうしたことは会社間の問題であって、本来は会社とは何一つ関わりがない家族には関係ない話で、恨みをもたれる筋合いではないはずなのだ。
 けれど、それはあくまでも強者の論理で、恨む人間に境目はない。
 ましてや、徹の一家はそれを逆恨み、追い詰められたことを免罪符に戒と彼の母であるつくしの営利誘拐を図った。
 所詮素人が計画したもの。
 当時でさえSPがついていた二人を誘拐するには、あまりに杜撰で未遂に終わり、主犯だった父親は逃亡したものの、共犯の母親はその場で逮捕された。
 その後、父親は逃走先の親類の家で説得をされ、自首をし、未遂だったこともあり、それほど長期の服役に服すことはなく、すでに現在は出所し、今目の前にいる徹と一緒に暮らしていた。
 …よくあの男が赦したものだ。
 敵の存在を許さず、自分に歯向かう者は完膚なきまでに叩き潰すのが司のやり方だった。
 むしろ世間で流布している、穏健な人道派などという司の評価こそ、戒にしてみればなんの冗談かと思う。
 司は冷酷な人間だ。
 冷酷でアグレッシブな野心家だった。
 実の息子であり、かつては一族の後継者として下にも置かぬ立場にいた、亡き異母弟への無関心さがその一端を示しているし、経営者としても、経営不振を理由に一般社員をリストラなどの過激な施策は行ってこなかったが、真逆に司の経営方針や命令に従わない者、無能な者は、どれだけ長年道明寺家に仕え尽くしていたとしても、容赦なく切り捨てる。
 過大な広報を繰り返した結果、情報を受け取るだけの一般大衆はその実態を知らなっただろうが、海千山千の財界人たちの間ではよく知られていることだった。
 …あいつは不必要なものに、いつまでも連綿としたりしない。
 それと同じで、‘穏健な人道派’という世評が道明寺財閥総帥として必要だから、その皮を被って冷酷な野心家の本性を隠しているだけのこと。
 従う者、阿る者には飴を……そして、敵対するものには苛烈な報復と完膚なきまでの敗北…鞭を容赦なく与える男だ。
 そして、その結果、司が手にしたものは、更なる強大な権力と確固たる地位。
 ―――大河原滋。
 道明寺財閥だけではなく、大河原財閥も手に入れたことで、司は誰をも……彼の父母ですら対抗し得ない強大な力を手に入れたのだ。
 戒が目的の人間が建物から出てきたのを目に留め、一万円札を伝票の上に置き、戒が立ち上がる。
 「俺は…ただ、お前に会って欲しい人がいるだけだ。お前自身に、何かしたりするつもりじゃない」
 徹の目の卑屈さは変わらないが、それでもいつものようにおもねるだけではなく、どこか真摯なものが浮かぶ顔を戒は一顧だにしない。
 「興味がないし、お前の為に何かしてやるつもりもない」
 だというのに、わざわざ徹のことを調べさせた自分の矛盾を心の内で嗤う。
 けれど、
 …今は俺一人のことじゃない。
 窮鼠猫を噛むの故事のとおり、どうしても敵わぬ相手と対峙する時、相手の弱点を着くのは王道なのだ。
 他人といることは、自分に弱味を作ること。
 人間は一人では生きられない孤独に弱い生き物だからこそ、時にそれが枷になる。
 自ら望んで枷を作ったのなら、守らねばならない。
 「お前はお前で好きにすればいい。俺の周りを嗅ぎ回るなり、付きまとうなり。だが敵対するなら容赦はしない。それがわかった上で、闇討ちでもなんでもするんだな」
 戒が店を数mと出たところで、自分のバックに手を突っ込んでゴソゴソしていた女が、目の前で立ち止まった彼の気配に顔をあげた。
 「あれ?戒君。まさか、迎えに来てくれたの?」
 女―――つくしがフワリと嬉しそうに微笑んだ。



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