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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽②

愛してる、そばにいて0827

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 「なに、その顔?」
 つくしとしては、ただ戒の顔を見ていただけのつもりだった。
 彼の問いに答えないつくしにあっという間に飽きて、特に話題に執着することなく、戒が再び前を向いて歩き出す。
 「好きだよ」
 「……………」
 「あんたが言っている意味とは違うと思うけど、好きでもない子をウチに泊めたりしないし、ご飯食べさせたり面倒見てあげたりしないわよ」
 「子…っていうところが微妙だけど」
 それでも小さく笑った戒の顔は、皮肉げでもなくどこか和んで柔らかい気がした。
 幼い頃の戒は、笑いたい時には笑って、泣きたい時には泣く、自分の感情に素直な子だったというのに、再会してからの彼はこんな顔しかしてくれない。
 それが赤の他人である彼女だからなのか。
 そうならいい。
 たとえつくしには、まだ隔意を持っていて本当の彼を見せてくれていない、ただそれならば。
 …どうして、そんなにあんたは寂しそうなの?あんたが気を許すことができて、そんなあんたを受け止めてくれる人はいないの?
 心の中の問いかけを声にする代わりに、別のことを言う。
 「あんたは特別」
 「……俺が特別?」
 正直な気持ちを伝えただけなのに、途端、なぜか戒の顔に浮かんだ嘲けるような表情につくしは首を傾げ、今度はつくしが尋ねる。
 「なに、その顔?」
 「いや…女って、みんな同じこと言うんだな、って思ってさ」
 それが以前にも戒に言われた言葉だと思い出した。
 …たしかあの時って、私が話題に困ってあれこれ根掘り葉掘り聞いたから言われたのよね?
 しかし、その時もどう考えても好意的な意味で言われた言葉ではなかったことを思い出して、ムッとする。
 「あんた確か、前にもそんなこと言ってたわよね?
 「そうだっけ?」
 「あんたの歳で、いったいどれくらいの女を知ってるものか知りませんけどね。みんながみんな、女だからって一括りにしないでくれない?男にもイロイロいるように、女もイロイロいるんだから」
 意外なことを言われたかのように、戒が目を瞬きつくしの顔をジッと見返してくる。
 「……王子様だから?」
 「へ?」
 思いも寄らぬ形容詞に、思いっきり間抜けに反応し、ゴホンと照れ隠しで咳払い。
 と、いうか、
 …この子、いくらあの自惚れ屋の司の子だからって、こんなところまで似なくてもいいのに。
 大真面目に頭痛を覚え、よほどつくしは胡乱な顔をしていたらしい。
 「ぷっ、あんたって、そういうところが面白いっていうか、今まで俺が出会ったことのないタイプの女だよな」
 「そ、そう?」
 「イロイロな女がいる、か。そうかも。……ジーナはそんなに思ってることが丸わかりな顔したりとか、しなかったし」
 「え?」
 あまりに密やかな声音で言われたから、つくしの耳には届かず尋ね返すが戒は答えない。
 いきなり戒の歩くペースが上がって、長い足につくしの歩幅が追いつかなくなってしまう。
 なんとか息を切らせながらも、必死に足を動かし戒の後を追った。
 そんなつくしに戒もすぐに気がついてくれたらしい。
 チラッと振り返った戒が、「ほら」と手を差し伸べてくれる。
 …大きな手。
 あんなに小さかった可愛い手が、今では彼女の手よりもずっと大きく逞しいことが不思議で…切なくて。
 マジマジと見入ったまま、手を取ろうとしない彼女に焦れたのか、強引に握られた手に手を引かれて歩く。
 「昔…言われたんだよ。俺が王子様みたいだから特別だって」
 曇ってあまり星の見えない夜空を透かし見るように、空を仰ぎ、戒がポツリと呟く。
 その横顔が得意そうだったら、一緒に笑ってあげることができたのに。
 「王子様…ね。まあ、たしかにあんたなら、そう言われたりしてもおかしくないか」
 自分の息子をそう形容するのも何やら気恥ずかしい話だが、しかし、よく似た容貌をしていた司をそう形容するよりは、ずっと相応しい気がして頷く。
 …あいつの場合、王子様っていうよりも王様…俺様?
 「ふふ」
 「なに?」
 「ううん、ちょっと思い出し笑いしちゃっただけ」
 駅までの道を二人で歩く。
 かつては彼女が引いて歩いた小さな手の主に、今度は手を引かれ、……彼女の影にすっぽりと隠れていた小さな影も今や彼女よりもずっと大きく長かった。
 「私にとってはさ」
 「……………」
 「あんたは王子様っていうより、天使かな」
 「天使ぃ?」
 さすがに虚をついたのだろう。
 いつもは分別臭く冷めた顔をした戒が、不審げに眉根を寄せ、たじろいだような顔で呆気にとられているのに、なんだか楽しくなってしまう。
 「ふふふ」
 「ハァ~」
 「なによぉ、そのため息は。本気なのに」
 どうやら酔っ払いの世迷いごとだと思ってか、盛大な溜息をつく戒の大きな背中を、丸めた拳でそっと小突く。
 …私の天使。可愛い戒。
 「なんでもいいよ、もう」
 「ねぇねぇ、明日さ。もし晴れたら、一緒に公園をお散歩しよっか」




*****



 ふと目についたカフェのテラス席について、ぼんやりと街並みを眺める。
 これといって目的があるわけじゃない。
 けれど、戒はこんなふうに一人で過ごす時間が嫌いではなかった。
 以前は勉強に、スポーツに、…時には喧嘩にと、まるでマグロやカツオなどの大型の回遊魚たちが常に泳いでいなければ死んでしまうように、常にがむしゃらに生きていたように思う。
 ―――道明寺司の息子して、道明寺財閥の後継者として誰もに認められるように。
 かつて母がいた時代は、彼女が褒めてくれるから、彼女を失望させ悲しませない為だったことが、その母が放逐されて後は、あの母の子だからと侮られ、ひいては彼のせいで母が貶められぬようにと努力し続けた。
 …でも、もうどうでもいい。
 今の戒は、そうした無駄な努力をすべて投げ出していた。
 どうせ誰も努力しようとしまいと、人々は彼をけっして一個人としてみないのだ。
 現在の彼は道明寺司のただ一人の息子であり、後継者だった。
 それは彼が優秀だからではない。
 …俺だけが、あいつの子供だからだ。
 司が滋と再婚して、すでに3年になる。
 男性である司はともかく、滋は現在37歳。
 子供を産めないというほどの年齢ではないが、普通2年を過ぎた夫婦の間に子供ができないと不妊だと言われる。
 司も滋も経営者であり、多忙だったから常にスレ違いの夫婦で一般的な夫婦とはケースが異なりはするが、しかしその生活もいずれ改善されるというものではなく、この先も続くことを考えればにわかに二人の間に子供が生まれるとももはや考えづらい。
 すでに世間では、この二人の間の子を望むよりも、戒が後継者としてこのまま家を継ぐことこそ有力視されていた。 
 …馬鹿馬鹿しい。
 戒の努力によってではなく、ただ父に新たな後継者が生まれなかった―――ただその一点でのみの評価なのだ。
 それならば努力することに何の意味があっただろう。
 「よ、戒。こんなところにいたのかよ」



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NoTitle

「…私の天使。可愛い戒。」

戒に教えてあげたい…
あなたを愛してくれている人がいるんだよって。 ハァー、つらいよ~

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