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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽①

愛してる、そばにいて0813

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 司を赦し、もはや彼を恨んだり憎むことをやめているつもりの彼女でさえ、それを認めることはやぶさかではなかったし、今もそのことで後遺症に苦しんでいる。
 心の傷は癒すことは出来ても、完全になかったことにできるわけではないのだ。
 怪我をして…治療をされ、その皮膚に薄皮が張り、たとえ完治したとしても、そこには傷跡は残り続ける。
 たとえどんなに巧みな治療を施されようと、長い年月が過ぎようとも。
 「……言うほど貢がれたりなんかしてないわよ」
 「ま、普段のお前の質素な格好見てればわかるけど、あいつケチだったのか?」
 
 「ぶっ!違いますっ!」
 そんな与太を飛ばしあいながら、気が付けば目的地へ。
 ここまで来てしまえば、いまさらつくしもああだこうだと言っても仕方がないと腹を括った。
 「まあ、せっかく来たんだし、目の保養にでも励みますよ」
 「おお、…やっと諦めやがったか。花より団子なお前さんには、ちゃんと後で今日の礼に美味いメシ奢るからよ」
 「はいはい、期待しております」
 差し出される手に手を乗せ、車外へと降り立って、周囲の高級ブティックと見紛う洗練されたデザインのエントランスを見上げじっくりと眺める。
 デパートではないので、当然専用駐車場があるはずもなく、総二郎とつくしを下ろして送迎のリムジンは長く留まることなく走りさってゆく。
 …いつまでも悪目立ちしないのは助かるけど。
 しかし、ド派手なのは車ばかりではなく、今彼女の腕を取りエスコートしてくれている隣の男も同様で、車を降りてからこっち視線が痛い。
 さすがに渋谷や原宿ではないので、ワッと取り囲まれるようなことはないが、それでもそこかしこでコショコショという内緒話の声や、すれ違い様振り返ってゆく通行人たちが「芸能人?」などなど噂しているのがイヤでも耳に入った。
 「そんな仏頂面ヅラすんな。類と一緒にいても似たようなもんだたろ?」
 「全然違うわよ。類はちゃんと周囲に溶け込むことを知ってたし、あんたみたいにいかにも俺様のお通りだって、オレオレアピールなんかする人じゃなかったもの」
 肩を竦めて歩き出した総二郎に合わせて、店内に入店すると、経済界でも著名な人物の縁故が開いたというからだろうか、思わぬほどの人手に店内は混み合い、応対する係員も即座に入店する客に対応できない状況のようだ。
 「記帳すっから、並ぶぞ」
 「はいはい」
 それでも先客の後ろに並んで待つことができるだけ、マシかと感心する。
 かつてそれができなかった男を、知っていたからだ。
 まあそれも、長い年月の間に彼女の教育の賜物かある程度は矯正できていたが、それを発揮する機会はなおさら少なかったので、あまり意味のないことだったかもしれなかったけれど。
 それでも先客に対応していた係員の横に座って、ひたすらパソコンに向かっていた受付嬢が列の半ば程にいる総二郎に気がついて、前列をすっ飛ばして声をかけてくる。
 「い、いらっしゃいませ。な、なにかお困りでしょうか?」
 「いや、記帳したいのと、オーナーがどこにいるのか聞きたかったんだけど、いいよ、順番守って待ってるから、おかまいなく」
 断りを入れている総二郎の声に気がついたらしい客を応対していた係員の方が、総二郎に気がつき、顔色を変えて慌てて歩み寄ってきた。
 「に、西門様っ!これはお待たせして、大変失礼いたしました」
 「…いや」
 こうなれば仕方がない。
 順番云々に拘る場合ではなくなってしまったので、総二郎も係員の指示に従い先客の順番をすっ飛ばして、目的を果たす。
 飛ばされた先客の方も思うところはったのだろうが、いかにも只者ではない総二郎の佇まいと、係員の下にもおかない対応に興味津々注目するばかりで、誰も文句を言う人間はいなかった。
 もっとも、180cmを超えるいかにも大柄な男に文句を言える人間もそうはいないだろうし、そもそも総二郎の方はあらかじめ順番を守る意思を伝えている。
 記帳を終えた総二郎が場をズレて、つくしへと万年筆を渡してくるのを受け取って、軽く悩んでしまう。
 …うーん。
 「ね、これって私も記帳しないとダメなのかな?」

 どうしてもイヤだというほどのことではないが、総二郎の記帳したページの一つ前のページに、つくしも見覚えのある社交界の煩さ方で、道明寺家とも縁故にあたる人物の名前を見つけて躊躇してしまったのだ。
 よもや名前だけで、自分だとバレるとも思わないが、それでも『牧野』はともかくとして、フルネームを記載することにはかなり迷いがある。
 …まあ、最近ではけっこう『つくし』という名前もそんなに珍しいわけじゃないみたいだけどね。
 あるいは彼女の旧姓など、記憶に留めてもいなかったかもしれなかったが。
 「いや、いいんじゃね?」
 「そ?」
 総二郎も目で係員に確認するように視線を向けると、係員も大業に頷きにこやかにつくしの手の万年筆を受け取ろうと手を差し出した。
 「かまいませんよ、お気持ちだけで」
 「すみません、じゃあ、申し訳ありませんけど」
 差し出された手に万年筆を起き、つくしも列をズレた。




*****




 画廊での絵画鑑賞の感想は一言で言えば、可もなく不可もなく。
 …やっぱり私にはわからない世界だわ。
 つくしにしてみても、道明寺家の若奥様として芸術鑑賞の目はある程度教育によって養われていたし、絵の善し悪しもある程度は目利き出来る。
 が、判断することと感性で感じることは全く別のもので、思えば勤労学生時代にそうしたものを愛好する余裕がなかったこともあるかもしれなかったが、そもそもつくし自身興味の欠片もなかったし、家族の中にも芸術のげの字も嗜好する人間がいなかったのだ。
 風景画や人物画などの写実的なものや、誰が見ても最低限何が描かれているかくらいは理解できる絵画ならばともかくとして、現代絵画などつくしには絵に書いた餅以上に理解不能な代物だった。
 …あれが、平和と調和を象徴してるだなんて誰がわかるってのよ。
 どう見ても地面から湧き出た心霊が集団で絡み合ってるようにしか、つくしには見えなかった。
 それでもいくらか見ているうちに、つくしなりの目の保養というか楽しみ方で時間を潰すことはできたのだが、総二郎の目的だったらしい画廊のオーナーが現れた頃から雲行きが怪しくなった。
 「……ね、あのオーナーって人、すっごい睨んでるんですけど」
 「気のせいじゃね?」
 何食わぬ顔をして、壁に掛かっている絵を見ているフリを続けてはいるが、さっきから背中に突き刺さる視線に穴を開けられそうな気がして、どうにも落ち着かない状態だ。
 これはもしかして、もしかしなくても…。
 「あんたよりずいぶん若い娘だけど、………手を出してたでしょ?」
 普通聞きにくいことを、ズバッと聞いてくるつくしの顔を面白そうに見下ろして、
 「お、案外鋭いな、つくしちゃん」
あっさり肯定。
 …やっぱり。
 ガックリ脱力した。



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