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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽①

愛してる、そばにいて0808

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 なんというか、沈黙が気まずいのだ。
 思えば司もペラペラ喋るタイプではなかったし、警戒心が強く人見知りだった為にビジネスを一歩離れれば、ごく身内の一部の人間意外には容易には気を許さず身近に寄せることさえなかった。
 幼児の頃の戒といえば、たしかにそうした司の気質を大きく受け継いでいたが、それでも父や母には甘えっ子で、二人を相手におしゃべりをするのが大好きな子供だったように思う。
 …そりゃあ、いつまでも子供の頃もままってわけじゃないだろうけど。
 だが、今こうして二人が向かい合って朝食を囲んでいる間、ほとんど会話がないのは、戒の性格云々というよりも、彼がいまだ彼女に気を許していないことがその原因の大半なのだ。
 それを当たり前だとも思うが、しかし、その反面、心の奥底深く、哀しんでいる戒の母親である彼女がいた。
 後悔など絶対にしない、そう頑なに思い決め、実際にそう生きてきたつもりだが、この目の前にいる我が子との深い溝と距離を思えば、その決意さえあっさりと覆り、どうしてあの時、たとえ何があったにしてもどんなにかそれが困難だったにしても戒を連れて道明寺家を出られなかったのだろうか、あるいはたとえ司への相克と道明寺家に対する拒絶感に耐え切れなかったにせよ、我を捨て戒のためだけに生きることができなかったのだろうかと、らしくもない後悔をしてしまいたくなってしまう。
 …私ったら。
 過ぎてしまった過去はけっして取り戻すことなどできないというのに。
 まるで砂を噛むようにまったく味を感じていないというのに、戒にそんな自身の屈託や苦悩を悟られまいと、無理をしてご飯を口に運び、ただ懸命に口を動かして何食わなさを装い続ける。
 こんなところで、突然につくしが泣き出しでもしたら、それこそ戒も困ってしまうだろうし、気でも違ってしまったのかと思われて気味悪がられてしまうかもしれない。
 たとえ母親なのだと名乗れないにしても、この稀有な偶然の用意した再会を無残なものにしたくなかった。
 …ただの通りすがりのお節介な女でいい。
 だが、最後に会う自分のことを、嫌な印象を戒に与えて別れたくはなかった。
 ほとんど無表情で感情の窺い難い戒の視線の動きや、わずかな表情の変化、箸の進み具合を探って、必死に話題を捻り出す。
 「あ、それ、けっこう美味しいでしょ?」
 お?という顔をした…したように一瞬見えた戒の反応を捕らえ、つくしがあえて作った得意げな声で自慢する。
 「普通の卵焼きだろ」
 だがあっさりと流され、ぷしゅ~っとあっという間に萎んでゆきそうだった気持ちを無理矢理に奮い立たせて、胸を張る。
 「それはそうだけどね。こういうのにこそ家庭の味というか、その家々の味と特徴が出るものなのよ。古き良き時代の糠漬けとかそういうのもそうだけど」
 「ふぅん?」
 あからさまに、戒の顔はつくしのいうことをくだらないと思っているのがありありだ。 それでもさっきまでの、必要最低限、無視してるのかと思うくらいにほとんど返事がなかった時に比べれば、少しづつでも打ち解けているのか、とりあえずは返事をしてくれるようになったような気がする。
 …聞いてることには、とりあえず声に出して返事をするようになったものね。
 それでもたまに…というか、かなり頻繁にスルーされることも少なくないが。
 そんなことに勇気を得て、卵焼き談義を続けることにする。
 「そりゃあ、あなたたちセレブな人たち御用達の料亭みたいに、どこそれのカツオから作ったなんとか製法の鰹節を使った出汁で…とかじゃないけど、この卵焼きを食べさせてくせにならなかった人は一人もいないんだから!」
 「……卵焼き如きで?」
 呆れているようなのはおそらく気のせいではなかったが、そんなことで気後れするようなら、とてもではないがこの気まずい食卓で二人っきの食事などとてもしてはいられない。
 「そうよぉ。つか……あ~、前に私の旦那さんだった人も、あなたみたいに贅沢な環境で育った人だったけど、これだけは大好きで、どれだけ私の料理のレパートリーが増えてもこの卵焼きは朝食には欠かせないおかずだったんだから」
 逆に言えば、失礼な気もしたが、それでも「美味い」といって嬉しそうに笑ってくれるのがつくしも嬉しくて、一流シェフに習ってもっと凝った料理も作れたのに、朝の卵料理やお弁当の定番といえばこの卵焼きだった。
 そして、卵焼きが好きだったのは司ばかりではない。
 幼い頃の戒もまた、この母親が作る甘い卵焼きが大好きだったのだ。
 もしかしたら、…今朝のメニューにこの卵焼きを付け加えたのは、母親と名乗れない彼女の精一杯の戒へのアピールだったのかもしれない。
 思い出して。昔作ってあげたでしょ?お母さんの卵焼きが一番大好きだって言ってくれてたじゃない。私があなたのお母さんだよ―――と。
 結局、卵焼き談義の他に特に話題らしき話題が食卓に上ることもなく、つくしの屈託はともかくとして、戒本人は別に気まずくもなければ、無言でもまったく苦ではなかったようなので、とりあえずは御の字ということにしておく。
 和気藹々とした朝の光景などというものは、あくまでもつくしの理想であって、戒にしてみれば初対面の女にそこまで求められるのも逆に迷惑な話だろう。
 …出したものは全部食べてくれたし。
 ついあれこれと作りぎたくらいだ。
 病み上がりなのだからお粥や雑炊、または鍋焼きうどんのようなものした方が良いのではないかと思ったのだが、昨晩の高熱が嘘のようにいつの間にか微熱も下がり、ケロッとして普通の食事でいいと言われた。
 若さもあるのかもしれないが、頑健なわりには意外に風邪を引きやすかった司とは違って、戒の方は子供の頃から滅多に風邪も引かなければ、病気や熱が長引くこともなかった。
 たいがい一晩も寝ればケロッとしていたのは、つくしの血筋かもしれない。
 …よく食べるしね。
 さすが成長期。
 欠食児童でガツガツ食べるということはなかったが、それでもかなり旺盛な食欲で、出されたものは全部残さず綺麗に食べてくれた。
 司も類とは違って、美味い不味いに関わらず、彼女が作ったものはすべて残さず食べてくれる男だったが、さすがに好き嫌いがないわけではなかったし、体格のわりに少食な男だったのだ。
 …偏食とか全然ないんだねぇ。
 別につくしが育てたわけではないのだから、自分の手柄ではないのだが、それでもなぜか誇らしい気持ちだった。



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