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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽①

愛してる、そばにいて0805

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 体を起こした戒が発した第一声は、枕元に立つつくしと祥一郎を見比べての、
 「あんたたち、誰?」
と、いうものだった。
 彼にしてみれば当然のことだろう。
 「…なんで、俺はこんなところにいるわけ?俺のこと、誰だか知ってるんだろ?」
 やっとその時になって、つくしは一晩も彼の顔を眺めていたというのに、戒が質問して当然だろうその問に答えるべき答えを用意していなかったことに気がついた。

 …どうしよう。
 京都に出かけていった総二郎に頼まれ、往診に来てくれた祥一郎と顔を見合わせ、言葉に詰まってしまう。
 つくしがあまりに困惑したような、不安げな顔をしていたからだろう。
 祥一郎は小さく息をつくと、外来患者たちに接するような穏やかな医師の顔で微笑み、つくしを勇気づけるように頷きかけると、一歩前に出て、戒へと向き直った。
 「初めましてだね、戒君。俺は西門祥一郎、近隣の大学病院に勤めている外科医だ」
 「医者?…西門って」
 さすがにその名前には聞き覚えがあったらしい。
 「西門総二郎の兄だと言えば心当たりがあるかな?」
 「……西門総二郎、あぁ」
 その顔に得心が浮かび、前日の記憶が蘇ったのか、あるいはその名前が父の親友の名前だと思い出したのか、警戒も顕だった目の鋭さがわずかに和らいだ。
 「君のお父さんの道明寺司氏とは俺も知り合いだよ。総二郎とは多少年が離れてる兄弟だから、さすがに総二郎ほど密には付き合ってはいなかったけど、君の伯母さんの椿さんともそれなりに面識がある」
 当然、祖父母である道明寺総帥夫妻ともだろう。
 チラッとつくしへと流した戒の視線に、今度は自分のことを問われるかと身構えたが、しかし、戒は全く別のことを祥一郎に尋ねかけた。 
 「そ、もしかしなくても世話になったみたいだけど、それで?」
 「…憶えてないの?」
 横合いから口を出したつくしの顔を今度こそジッと凝視し、スッと細められた目にドキドキと心臓が早鐘を打つのを自覚する。
 「ほ、ほら?えっとその、あんた…あなたが喧嘩してる時に…」
 「飛び込んできたんだろ?あんたのことは憶えてる。俺が聞いてんのはその後のこと」
 なんとなくわかっていたことだが、どうやら戒は彼女のことを本当に誰なのかわかっていないらしい。
 …そりゃそうだよね。
 戒と別れた時、戒はまだ6才になるかならずの年齢だったのだ。
 あるいは写真やそれに類する何か縁になるものを、彼が持っていてくれたのではないかという無意識での微かな期待は、彼の言動であっさりと崩れ去った。
 「えっとね………」
 勝手に期待して、勝手に意気消沈しているつくしを怪訝に見ている戒へと、力なく微笑んで、現状に不安を感じているのだろう―――とてもそうは見えなかったが―――戒の問いにつくしは答え、昨夜、彼女が戒に出くわしてから、ここに連れてくるまでの彼自身の状態や彼の家への連絡と対応、自分や総二郎、祥一郎の果たした役割をざっと説明した。
 「……ふぅん、屋敷の連中に余計なことを言わないでくれたのは助かったかな」
 そう戒が呟いたところで、祥一郎が腕時計を確認して、
 「悪い。俺はこの後、外来があるから、そろそろ失礼するよ」
 「あ、すみません。ぜんぜん気がつかなくって…何もお構いせず」
 かなり早朝ではあったが朝食は済ませたというので、戒の様子を見てもらってそのままコーヒーも出さずに立ち話させてしまっていた。
 恐縮するつくしへと祥一郎が、柔和に笑んで緩く首を横に振る。
 「いや、牧さんも昨晩からイロイロ忙しかっただろうし、気にしないで。それより、牧さんの方もあんまりのんびりしていられないんじゃないの?」
 職種は違うとは同じ病院内に勤めている人間でもあるし、彼の妻とは同僚だ。
 「あ、いえ、今日はお休みをとりますので、大丈夫です」
 「そうなの?」
 「はい。…そのぶん花ちゃんや奥苑さんには迷惑をかけてしまいますけど」

 もちろん元々休みだったわけでもなければ、これから休みをとることにしているだけでまだ連絡をしていない。
 それなのに突然休みをとってしまえば、相談者や担当している患者に対してかけてしまう迷惑もあるが、同僚たち…特につくしと同様常勤の正職員である花木にはなおさら負担をかけてしまうことだろう。
 生真面目で勤勉なつくしは、これまで予定外の休みを取ったことなどなかった。
 小柄で華奢な外見とは異なり、生来頑健で滅多に病気や体調不良になどなることもなかったからだが、多少の体調不良など気力で乗り越えてきたからでもある。
 …誰にも迷惑なんてかけたくない。
 その一念で。
 だが、その長年の節を、あっさりではなかったが、それでも今は迷うことなく曲げようとしている。
 いくら死ぬほどのものではないとはいえ大怪我をして、弱っている…十年近くぶりに再会した息子を一人残して仕事に行く気にはとてもなれなかったのだ。
 …他にお休みの人が入ってなかったのは、せめても、よね。
 それでも自分は休みをとっただろうが、それでも患者やその家族、同僚たちにかける迷惑や負担への罪悪感は今の非ではなかったに違いない。
 「そうか」
 それ以上何を言うことなく祥一郎が頷いて、つくしと戒、どちらに言うともなく言いおいてゆく。
 「怪我だけど、傷の大きさや出血の割にはそれほど刀傷は深くはなかったし、受身が上手く取れていたんだろうな。幸い腱や神経にも損傷はなかったよ。彼の傷を縫った医者が綺麗に縫ってくれたから治りも早いだろう。…まあ、どうしても傷は残るけどね」
 あらかじめ祥一郎の友人の医師から聞いていたことだが、それでもこうしてあらためて説明をされて、つくしはホッと安堵した。
 「大丈夫だと思うけど、またなんかあったら遠慮なく連絡して?相談に乗るから。総二郎も明後日にはこっちに戻ってくるから顔出すと思うけど、くれぐれもって頼まれてるからね」



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