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「愛してる、そばにいて」
第9章 闇に下る太陽①

愛してる、そばにいて0799

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 なまじ街灯の照らす部分が明るかったから、その光の届かない場所の闇が深く色濃かった。
 棒立ちに立ち尽くすつくしが身動きできず返答を返せないことで、相手の不審を買ってしまったのか、建物の暗がりの影から少年が一歩つくしの方へと足を踏み出した。
 …やだ、どうしよ。警察呼べば良かった。
 ついまだ若い少女の助けを呼ぶ声に、義侠心だか正義感なのだか、あるいは単なる野次馬根性だかに駆られて発作的に走り出してこんなところにまで顔を突っ込んでしまったが、冷静に考えれば賢いことではなかった。
 今呻いている男たちと、この目の前にいるカップルの間に何があったのかわからないが、それにしてもこんなところ喧嘩したあげく何人もの人間を地面に這わせて平然と立っている人間がまともな人間であるはずもない。
 少年が一歩進むだけ、知らず知らずのうちに後退るつくしと少年の距離は足のリーチの差だけわずかに縮んで、やがては少年の顔を街灯の明かりの元へと引き出した。
 …え?ウソ。
 ざわっと疎らな通行人たちの間にザワめきが走って、少年の注意がつくしから反れる。
 クルクルに巻いた癖っ毛の特徴的な髪型に彩られた秀麗な横顔に、つくしは今自分が夢を見ているのではないかと目を疑っていた。
 ―――司。
 そこにいたのは司であって、司ではなかった。
 …司のはずがない。
 もし本当にそこにいるのが司であるというのなら、歳月を得てもはや高校生の少女ではなくなった彼女同様に、彼もまた年を取っているはずなのだから。
 最後に顔を見た時ですら、今そこに立っている少年よりもずっと精悍な男の男だったのだ。
 …じゃあ、誰?誰なの?
 司と同じどこか何かに飢えた目で、冷たく彼女を見据えるその少年はいったい誰だというのか。
 ファンファン、ファンファン。
 どこか遠く、もしかしたらこことはまったく関わりないところへ向かうパトカーの音が耳につく。
 だが、少しづつ大きくなる音に少なくてもこちらの方へと向かっていることらしいことがわかった。
 「パトカーだ。まずいよ」
 怖じけたように少年の影に隠れていた少女が、耳を澄ませるようにしてパトカーのサイレンが聞こえる方向へと顔を向け、同じくパトカーのサイレンが聞こえる方向へと顔を向けている少年の顔を縋るように見上げた。
 「どうしよう、戒」
 気がついた時には、つくしは少年―――戒に駆け寄っていた。
 まったく知らない人間を見る冷ややかな目で彼女を見下ろす戒の目から視線を反らし、その手首を掴もうとして、戒が片方の腕…利き腕を心臓の位置よりも高く掲げているのに気がついた。
 「…それ」
 「なに、あんた?」
 わかっていたことだが、まるっきり親しみの欠片もない…母親とさえ認識していない戒の怪訝な物言いにわずかに胸を突かれ、だがそれを悟られまいとあえて視線を向けることなく、肩からかけていた二つのハンドバックのうち自分のハンドバックからハンカチを取り出す。
 「手、貸して」
 「……あの?」
 戒ではなく、少女の方がつくしの登場に戸惑って声をかけてくる。
 だが、ポタリポタリと腕を伝って、地面へと流れ落ちてゆく赤い血の雫に、平然としている戒の様子とは裏腹にその腕の傷が存外に深いのではないかと思い当たる。
 間近で見上げてみれば、夜の闇のせいばかりではなく、戒の顔色がひどく悪く、冷や汗…脂汗を彼がかいていることにも気がつく。
 「いいからっ、グズグズしないで手を出しなさいったらっ!こんなところで出血多量で死にたくないでしょっ。早くこの場所を離れないとお巡りさんも来るわよっ!」
 「…ううっ、や、やべぇぞ、起きろ。克己、進藤っ!」
 呻くばかりだった唯一意識がある男の一人が、鼻を押さえたまま、それでも地面に沈んで失神している仲間たちを揺り動かそうと声をかけ始める。
 「起きろって!!」
 とりあえず周囲の連中の注意はパトカーに向けられていて、後のことはわからないがすでに戦意を失い、戒に対して反撃しようという意志はないものと見て見ぬフリで、手を差し出せと再び戒に督促する。
 「………」
 つくしの何が戒を動かしたのか、あるいはすでに反発したり意地を張る元気や気力もなかっただけのことかもしれない。
 差し出された前腕部分の切り傷を目にして、内心でギョッと目を向く。
 かなりの出血量から、深い傷だとは察していたが、ざっくり切れた傷は10cmもの長さがあり、次々滲み出てくる真っ赤な血でよくわからないが、おそらく縫わなくてはならない傷なのではないだろうか。
 「手首とか切られてたらどうするのよ」
 口に出したつもりはなかったが、湿った涙声に答えられて自分が言葉にしていたことに気がつかされる。
 「…とっさに急所は外すように訓練されてるし」
 つい顔を上げ、不思議そうに自分を見ている戒の目と合ってしまう。
 手早く傷口を圧迫するように前腕にハンカチを巻きつけると、戒も応急処置は承知しているのだろう。
 最初同様、その腕を心臓より高い位置に上げ、反対側の手で受傷した腕の肘の内側を掴んで、上腕動脈の止血に努めている。
 どちらにせよ、今はこの程度のことくらいしかしてやれることがない。
 命に関わるというのならパトカーには目を瞑り、即座に救急車を呼ぶべきだが、見たところ絶不調ではあるにしても、今すぐ出血多量で死にそうとかそんな感じではなかった。
 もしその判断で、戒が死ぬようなことがあれば、悔やんでも悔やみきれず、つくしだとてそのまま生きていられるものではないが。
 そんなことは別として、このままこの場に留まっていることの方が戒にとって問題に違いない。
 「動けそう?」
 「問題ない」
 「そう。…あなたは平気?」
 いくらか落ち着いたのか、心配そうに戒の腕と赤く血液の染み出したハンカチを覗き込んでいた少女が、つくしの問いに自信なげだがそれでも、一つ頷いた。
 「じゃあ、とりあえずこの場を移動しましょう。厄介なことになる前に」
 どこから集まりだしたのか、疎らだった通行人たちも足を止め出して、少しづつ出来始めた人垣に阻まれ、警察官たちが到着する前につくしと戒、それに戒のツレの少女は見事その場を脱出することに成功していた。



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